とても便利な故に爆発的に普及していったプラスチックだが、それが地球環境に悪影響をもたらすことがわかったのはここ数十年のことだ。
ゴミとなったプラスチックは環境中で自然に分解されることがないため、細かく砕けたマイクロプラスチックは半永久的にたまり続け海洋汚染を引き起こす。
そこで現在、化石燃料由来のプラスチックに代わる新たな素材の開発が求められているわけだが、ドイツの化学者グループは、植物油をベースとした持続可能な次世代型プラスチックを開発したそうだ。
分子構造に手を加えたことで、従来とは比較にならないほど効率の高いリサイクルが可能になったという。
現在使用されている化石燃料由来のプラスチックのほとんどは機械的な処理によってリサイクルされている。
まずプラスチックを同じタイプのものに選別し、ペレットやフレークなどに粉砕。これを次のプラスチック製品の原料として使う。このやり方を「マテリアルリサイクル」という。だが残念なことに、そうして回収されるプラスチックは、新品に比べれば品質が劣る。
一方、化学的にリサイクルを行う「ケミカルリサイクル」は、熱や溶剤でポリマーの鎖をバラバラに分解し、最初のモノマー(単量体)に戻す。そのため新品同様の材料として回収できるという利点がある。
ケミカルリサイクルを広く利用できない理由の1つは、プラスチックの炭素同士が強く結びついていることだ。皮肉なことに、この性質はプラスチックが便利な理由の1つなのだが、化学的にリサイクルする際には厄介な問題となる。
たとえば、もっとも一般的なプラスチックである「ポリエチレン」は、エチレン(モノマー)が重合してできた高分子(ポリマー)だ。
その頑固な結合を分解して、モノマーに戻すには600度以上で熱する必要がある。それだけ大きなエネルギーをかけても、最終的に再利用できるようになるのは、元の10%未満でしかない。
植物油ベースの次世代型プラスチックを開発
そこでドイツ、コンスタンツ大学のグループは、新たに植物油をベースにしたポリエステルとポリカーボネートを開発した。これまで諸刃の剣だった強力な化学結合がもっと簡単に解けるようになっており、楽々とケミカルリサイクルを行うことができる。
それをリサイクルするにはエタノールかメタノールに浸けて、触媒と一緒に120度で熱せばいい(触媒なしなら150度)。従来の5分の1の熱で事足りるので、ずっと少ないエネルギーで分解できる。
しかもリサイクル率も非常に高く、元のプラスチックの96%も回収することができる。
植物油プラスチックの様々なメリット
植物油プラスチックには他にもたくさん優れたところがある。マテリアルリサイクルには不向きな染料や充填剤入りのプラスチックにも利用できるし、他の種類のプラスチックが混ざっていてもOK。さらに今時の3Dプリンターの原料としては従来のポリエチレンよりも使いやすいとのこと。そもそも植物油をベースにしているので、原油などの化石燃料に比べればずっと持続可能だ。
新しいプラスチックはその性能も素晴らしいという。検査の結果、融点は低いものの、構造・弾性・分子重量は従来のポリエチレンに匹敵する性能を持つことが確認されたそうだ。
難点はコストが高いこと
しかもこの優れた性質はリサイクル後も維持される。おまけに自然環境で速やかに生分解される可能性があるとなれば、なんだか夢のプラスチックに思えてくるがやはり欠点はある。
それはコストが少々高くつくことだ。そのため今現在の法制度の枠組みでは、もっとも安い原料として化学産業で重宝されるエチレンと競合するのはなかなか難しいとのことだ。
References:academictimes / anthropocenemagazine/ written by hiroching / edited by parumo
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