大昔に登場した全生物の共通先祖「原始生命体」はどのように誕生しどんな特徴があったのか? そうした特徴はどの順番で現れたのか? これはかねてから生物学者があれこれと思索を重ねてきた問題だ。
私たちはもちろん、無数の種が属している「上界」(生物の分類で「界」の上にあたる。「ドメイン」と同義とされることも)の生物の特徴といえば、泡のような細胞内区画があることだ。
現代の生物の細胞には特殊な分子が備わっており、それが細胞の内側に泡を形作る手助けをしている。そこで問題となるのが、泡と泡形成分子のどちらが先に登場したのかということだ。
『Small』(20年11月23日付)に掲載された研究は、この長年の謎を解明したかもしれない。それによると、分子の手助けがなくても小さな泡が自然に作られることが確認されたそうだ。
今から38億年前、地球上に単細胞の祖先が誕生した。それは人間のような複雑な生物の祖先であり、もっと原始的な細菌の祖先でもある原始生命体(原細胞)だ。
この原細胞に泡のような区画があったのかどうかは謎に包まれている。だが、私たちが属する上界と細菌のようなほかの生物とを分けた要因が、脂質でできた泡だったのではないかという説はかねてよりあった。だとするなら、泡が発達したのは、細菌が登場して以降のことなのかもしれない。
だが最近の研究によって、細菌にもそのような区画があることが明らかにされている。ならば私たちと細菌の祖先である原細胞にも泡があったとは考えられないだろうか?
原細胞は泡を作る材料を利用できた
そこでノルウェー、オスロ大学のグループは、細胞の中で泡を形成する手助けをしている「リン脂質」に水を混ぜて、それをシリカやアルミニウムといった鉱物に垂らしてみた。すると大きな泡が自然に形成され、さらにその内側にも小さな泡が出来上がったという。
また、こうした区画が泡形成分子をきちんと閉じ込めておけるのか試すために、そこに蛍光染料が加えられた。その結果、泡がしっかりと染料を保持することも確認されたそうだ。
それだけではない。泡が分裂して、小さな泡が誕生する瞬間も観察された。研究グループのカロリーナ・スプストワ氏は、これを「最初の細胞の単純な分裂」のようだと語っている。
こうした現象は、私たちの細胞に含まれている分子機構に頼ることなく、追加のエネルギーなしで発生したとのことだ。
38億年前の地球で、もしかしたらこれと同じようなことが起きていたのかもしれない。当時、水は豊富にあったし、岩石の中には実験で使われたシリカやアルミニウムもあった。
また過去の研究では、リン脂質が初期の地球で自然に合成された可能性や、隕石で運ばれてきた可能性が明らかにされている。
ならば現在地球に存在するあらゆる生命よりも先に生まれてきた原細胞は、泡のような区画を形成するために必要な材料をすべて利用できたことになる。
References:Evidence that Earth's first cells could have made specialized compartments/ written by hiroching / edited by parumo
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