フレデリック(撮影=森好弘)

 4人組バンドのフレデリック2月23日、東京・日本武道館でワンマンライブ『FREDERHYTHM ARENA 2021〜ぼくらのASOVIVA〜』を行った。昨年は配信ライブなど今までとは違った趣向を凝らした活動を行いながらも、Zeppツアー『FREDERHYTHM TOUR 2020〜たかがMUSIC されどMUSIC〜』を有観客で開催、2021年に入ってからもファンクラブ限定の無観客ライブを行うなど、ファンを楽しませてきた。その集大成となる日本武道館では、また一つ進化したフレデリックのパフォーマンスを見せてくれた。ライブは「されどBGM」や「オドループ」、「サーチライトランナー」、「名悪役」という新曲2曲を加えた全20曲を届けた。そのライブの模様を以下にレポートする。【取材=村上順一】

あなただけのASOVIVAを作っていきましょう

wakeme(撮影=渡邉一生)

 開演時刻10分を切ると、配信のチャットコメント欄はライブへのワクワク感が伝わってくるコメントで埋め尽くされていく。定刻になり、映像が武道館のステージに切り替わり、昨年リリースされたEP『ASOVIVA』から生まれた謎のキャラクターwakemeがステージに登場すると、大きな拍手がフロアから届けられた。そして、オープニング映像に続いてメンバーがゆっくりステージに登場。三原健司(Vo.Gt)による「始めます」の言葉から「Wake Me Up」で武道館公演の幕は開けた。ライブの感触を確かめるように徐々に熱を帯びていく演奏、このステージに立てている喜びを表情と歌声で表していく健司。

 続いての「シンセンス」ではノリノリで音を楽しむオーディエンスの姿に、早くも感極まった健司は「日本武道館、最高やんけ!」と声を上げる場面も。そして、ノンストップで「逃避行」へ。フレデリックビートに合わせ照明の動きも躍動感に満ちていた。さらに「KITAKU BEATS」へと畳み掛ける。三原康司(Ba)とのツインボーカルもアクセントに、まさに“ASOVIVA”というタイトルに相応しい空間を作りあげていく。

ライブの模様(撮影=渡邉一生)

 MCで健司は「日本武道館は思い出させる力がすごい」と、この武道館が持つ特異性について語る。「あなただけの、フレデリックASOVIVAを作っていきましょう」と、このライブの想いを述べ、懐かしい一曲「トウメイニンゲン」を披露。今のフレデリックが演奏することで、よりノスタルジックな気持ちを与えてくれた。そして続いての「リリリピート」ではバンドのボルテージがどんどん高まっていくのが画面越しからでも伝わってくる好演。その熱量に応えるようにオーディエンスもリズムに合わせ手を掲げ全力で楽しむ。その光景にチャット欄でも「画面にちらっと見える手が嬉しそうで涙でる」といった、感動を伝えるコメントも見られた。

 康司がメインボーカルを務める「もう帰る汽船」が始まると、配信のチャット欄でも驚きのコメントが多数上がっていた。ギターソロからステージ後方のスクリーンに銀河が広がり、音と映像の相乗効果を感じさせた。続いて、「ふしだらフラミンゴ」、「他所のピラニア」、そして康司がシンセベースを使用し、また違ったグルーヴを放った「正偽」と、彼らのコアな部分を表現した楽曲たちが次々と投下された。この流れにチャット欄では「セトリ神すぎ」と賛辞のコメントも。

「「もう帰る汽船」」の模様(撮影=渡邉一生)

 長めのMCコーナーでメンバーそれぞれがトーク。その中で康司は「(武道館で)色んなアーティストを観てきて自分がここで音楽をやっているという事が感慨深い。これが音楽の最強の場所なんだろうなと思いました」と、武道館でライブができたことへの想いを話す。その言葉に健司が「康司の曲が連れてきてくれたんですよ、ここに」と伝えると、「そんなの泣く」と言葉を漏らした康司の姿が印象的なMCだった。

今日一日で人生が変わりました

センターステージに向かうフレデリック(撮影=渡邉一生)

 後半戦はセンターステージに移動しFAB!!(Frederic Acoustic Band)で「ミッドナイトグライダー」を演奏。バンドにとってFAB!!での演奏はすごく重要な位置を占めていると感じている。それは、ライブの流れの中でのアクセント、彼らの楽曲の新しい一面を感じられるのはもちろんのこと、誤魔化しが効かない、ミュージシャンとしての矜持が演奏から伝わってくる。そして、ライブではお馴染みの「うわさのケムリの女の子」もアコースティックアレンジで披露。スモークが立ち込める演出はFAB!!でも健在で、アレンジも相まってこの曲の印象がまた変わった瞬間でもあった。

「うわさのケムリの女の子」(撮影=森好弘)

 センターステージからメインステージに戻り高橋武(Dr)のダイナミックドラミングから再びフルバンド演奏のセクションへ。「まちがいさがしの国」ではサビでフレイムボールが吹き上がる演出も。その迫力はしっかり画面を通しても伝わってきた。フレデリックのアリーナという大きなステップへの架け橋となったナンバー「TOGENKYO」へと紡がれていく。照明のレーザーライトが美しく武道館を覆う光景はまさに桃源郷のような空間を音ともに作り出していた。さらにフレデリックらしさが詰め込まれた「スキライズム」を披露。フレデリックリズムに対する凄みを感じさせる曲だ。勢いを落とさず多彩なビートの展開を堪能。赤頭隆児(Gt)によるハードロックアプローチのスリリングなギターソロもオーディエンスをエキサイトさせる。

まちがいさがしの国」の模様(撮影=森好弘)

 健司は「この時間を選んでくれたあなたのオンリーワンに感謝します」と告げ、「オンリーワンダー」を演奏。会場に映るオーディエンスがビートに乗って楽しんでいる姿は、会場が一丸となり大きなエネルギーを生み出し「生で観たい」という欲求をより高めたパフォーマンス。ラストサビではカラフルな銀テープが盛大に武道館に舞い上がり、最高の空間を作り出していた。

 健司は、今日この日を楽しんでもらうことをひたすら考えていたと話す。10代の頃に母親によく言われていた「自分を見つめ直さないで、あなたは何になりたいの」という言葉を思い出し、フレデリックの可能性をこの1年間で再認識したという。その結果がこの武道館のステージに表れた。さらに「俺たちの遊びがめちゃくちゃ増えましたし、今日一日で人生が変わりました。この時間、フレデリックの音楽を染み込ませてくれてホンマにありがとう」とファンに感謝を伝えると大きな拍手が巻き起こった。

「されどBGM」の模様(撮影=渡邉一生)

 「俺らのやり方、遊び方で世の中を面白くしていこうと思います」と決意を語り、本編ラストはこの1年間のフレデリックの想いが反映された「されどBGM」を届けた。スクリーンにコロナ禍で中止や延期になったライブの告知映像がスクリーンに次々と映し出されるなか、この演奏に涙を流すオーディエンスの姿も映し出された。多くの人の感情を揺さぶりかけるステージを展開し、4人はステージを後にした。

 鳴り止まないアンコールを希求する手拍子。その気持ちに応え再びステージに戻ってきた4人は新曲の「サーチライトランナー」を初披露。疾走感のあるビートに乗って、前を向いて上昇していく想いを込めたエモーショナルな1曲だ。そして、「今日一番のクラップをください!」と、踊られずにはいられない、訴求力を持ったナンバー「オドループ」へ。「思い出を塗り替えような!」とサビに突入すれば、瞬く間にこの日最高の一体感を作り上げ、この瞬間を全力で楽しんでいる4人の姿も印象的だった。健司は「フレデリック日本武道館で遊びきったので帰宅します」と言葉を残し、最高潮の盛り上がりの中ライブを締めくくった。と思いきやエンドロールに不審な動きが…。

 ロールプレイングゲームのエンディングを彷彿とさせる映像で、“つよくてニューゲーム”という項目にカーソルを合わせると、「いまのおもいでのまま またゲームをはじめます」と表示され、再びステージにメンバーが登場。健司は「思い出にされるのは嫌なので、もう1曲新曲をやって帰ります」と告げ、サプライズで新曲の「名悪役」を投下。チャット欄では「またフレデリックにやられた」と、驚きと喜びを隠せない様子。フレデリックらしさが詰まったメッセージ性の強いナンバーで、彼らがまだまだ続いていく、前進していくという気概が感じられたラストだった。

新曲「名悪役」での模様(撮影=森好弘)

 この1年間の想いが溢れていたライブだった。しかし、苦しい期間も自分たちのアイデアで好転させてきたフレデリック。このライブでもそのスタンスは遺憾なく発揮されていた。また一つ、武道館という大きなステージを経験した彼らの次のステップに期待しかなかった。2021年はどんなASOVIVAを我々に提供してくれるのか、楽しみだ。

セットリスト

『FREDERHYTHM ARENA 2021〜ぼくらのASOVIVA〜』

2月23日日本武道館

01.Wake Me Up
02.シンセンス
03.逃避行
04.KITAKU BEATS
05.トウメイニンゲン
06.リリリピート
07.もう帰る汽船
08.ふしだらフラミンゴ
09.他所のピラニア
10.正偽
11.ミッドナイトグライダー(FAB!!)
12.うわさのケムリの女の子(FAB!!)
13.まちがいさがしの国
14.TOGENKYO
15.スキライズム
16.オンリーワンダー
17.されどBGM
18.サーチライトランナー(新曲)
19.オドループ
20.名悪役(新曲)