中国が2月1日に施行した「海警法」は、海洋法秩序の一般法として定着している国連海洋法条約の条項に違反する国際法違反の法律である。

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 特に、安全保障の観点から懸念されるものが、外国軍艦や政府船舶といった主権免除船舶に対する実力行使と、公海自由への制限となり得る管轄海域の設定である。

 これに対し、日本政府は「深刻な懸念」「同法が国際法に違反する形で運用されることはあってはならない」と表明するにとどまり、海警法国際法違反であるという抗議をしていない。

自民党国防部会関係者も、国際法に反する形で運用されることがあってはならないのは当たり前で、海警法国際法違反だとはっきり言うべきだ」(産経新聞2021年2月26日)と政府の弱腰を批判する声が上がっている。

 さて、中国の三戦(世論戦・心理戦・法律戦)はよく知られている。

 法律戦とは、国際法の解釈を恣意的に変更することによって政治上の目的を達成することである。さらに厄介なことに、中国は国際法違反を全く意に介していない。

 例えば、2013年1月に中国の九段線等の主張に対して、フィリピンが中国を提訴した仲裁裁判では2016年7月に中国がほぼ全面的に敗訴した。

 ところが、中国政府は仲裁裁判所の裁定を「紙屑」「無意味」などと批判し、行動を改める様子は露ほども見られない。

 中国は、南シナ海の実効支配や軍事基地化を国際法違反であると指摘する国際社会の声に耳を貸さず、不法な行動や侵略的行為を露骨に行っている。

 このように国際法を無視し、傍若無人に振る舞う中国に対して日本および関係諸国はどのように対応すればよいのであろうか。

 以下、初めに中国の国連海洋法条約における国際法違反の現状について述べ、次に、南シナ海の実効支配や軍事基地化に対する関係諸国の対応について述べ、最後に日本の取るべき対応について述べる。

1.中国による国際法違反の現状

 中国が関係する海洋をめぐる紛争には共通する要因がある。

 それは、中国の国際法(国際条約や慣習国際法)の解釈が一般的な解釈と異なるのである。その要因の一つは、中国は、国際法より国内法を優先していることにある。

 例えば、1992年に制定された「中華人民共和国領海および接続水域法(以下「領海および接続法」)」の第2条では、何ら国際法の根拠もなく、尖閣諸島や東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙島などを中国の陸地領土であると規定している。

 この「領海および接続法」が、南シナ海や尖閣諸島をめぐる紛争の根源となっている。

 以下、初めに海警法成立以前における国際法違反について述べ、次に今回の海警法における国際法違反について述べる。

(1)海警法成立以前における国際法違反

 国連海洋法条約(以下、海洋法条約)が、1982 年に採択され、1994年11月に発効した。中国は1996年に海洋法条約を批准・締結した。

 以下、中国の海洋法条約締結時からの国際法違反である、「外国軍艦の無害通航権の否定」と「接続水域における安全保障に関する自国法令の適用」について順次述べる。

ア.外国軍艦の無害通航権の否定

 海洋法条約第17条は、「すべての国の船舶は、沿岸国であるか内陸国であるかを問わず、この条約に従うことを条件として、領海において無害通航権を有する」と規定している。こうした権利を船舶の無害通航権という。

 ところが、中国は領海における外国軍艦の無害通航権を認めていない。

 中国は1996年に国連海洋法条約を批准した際に外国軍艦の領海通航に関し、「解釈宣言」(注1)を行い、その中で、中国は領海を通航する外国軍艦が事前に沿岸国に通報またはその許可を得ることを要求しているのである。

 また、中国の国内法である「領海および接続法」第6条後段でも、「中国領海に進入する外国軍艦は、中国政府の許可を得なくてはならない」 と規定し、外国軍艦の無害通航権を否定している。

 よって、海洋法条約が無害通航権を認めている外国軍艦に対して事前許可を要求することは国際法違反である。

(注1)国連海洋法条約第310条では、締約国は自国法令との調和を図るために宣言または声明するが認められている。

イ.接続水域における自国法令の適用

 海洋法条約第33条は、「沿岸国は、自国の領土または領海内における通関上、財政上、出入国管理上または衛生上の法令の違反を防止するために接続水域で必要な規制を行うことができる」と規定している。

 ところが、中国は、国内法である「領海および接続法」第13条で「中華人民共和国は、接続水域内において、その陸地領土、内水または領海内で安全保障、税関、財政、衛生または出入国管理に関する法律または法規に違反する行為を防止し、処罰するための管制権を行使する権限を有する」と規定している。

 さらに、国連海洋条約で認められた通関、財政、出入国管理または衛生に加えて、安全保障を規制の対象に含めている。

 よって、国内法で接続水域での規制対象に安全保障を含めることは、海洋法条約により規定されていない権利を主張するものであり国際法違反である。

(2)海警法における国際法違反

 以下、海警法国際法違反である「主権免除船舶に対する強制措置」と「『管轄海域』の設定」とについて順次述べる。

ア.外国軍艦や政府船舶といった主権免除船舶に対する強制措置

 海洋法条約第95条は「公海上の軍艦は、旗国以外のいずれの国の管轄権からも完全に免除される」と規定し、同第96条は「国が所有しまたは運航する船舶で政府の非商業的役務にのみ使用されるものは、公海において旗国以外のいずれの国の管轄権からも完全に免除される」と規定されている。

 ゆえに外国軍艦や政府船舶は主権免除船舶である。

 ところが、海警法第21条では「外国の軍用船舶および非商業目的に用いる外国政府の船舶の我が国が管轄する海域における我が国の法律、法規に違反する行為に対し、海警機構は、必要な警戒および管理措置を講じ、それらを制止し、関係する海域を直ちに離れるよう命じる権利を有する。離れることを拒否するなどの場合、海警機構は強制退去、強制曳航などの措置を講じる権利を有する」と規定している。

 よって、海洋法条約により外国の執行管轄権の行使から免除されている軍艦・公船に対して、法執行として強制的な措置を取ることは国際法違反である。

イ.「管轄海域」の設定と国際法の法的根拠を欠く権限行使

 海洋法条約は、領域主権が認められる領海よりも外側の水域において、機能的に限定した管轄権を沿岸国に認めている。

 具体的には、同条約第33条は、接続水域では、通関、財政、出入国管理または衛生について必要な規制を認めており、同条約第56条は、排他的経済水域では、天然資源などについての権利を限定的に沿岸国に認めている。

 ところが、海警法第3条は、「海警機構は中華人民共和国の管轄海域(以下、我が国管轄海域と略称する)およびその上空において海上権益擁護の法執行活動を展開し、本法を適用する。」と規定している。

 また、同法第12条では、「我が国管轄海域において巡航・警戒を展開し、重要な島嶼を監視し、海上境界線を管理保護し、国家主権・安全・海洋権益に危害を加える行為を予防・阻止・排除する」と規定している。

 しかし、海警法にも他の中国の法律にも管轄海域が定義されていない。このため海警局は恣意的に管轄海域を設定し、海洋法条約が認めていない権限行使を行うことができる。

 よって、法的に定義されていない「管轄海域」の設定と海洋法条約が認めていない権限行使は国際法違反である。

2.南シナ海実効支配に対する諸国の対応

 本稿では、フィリピンが国連海洋法条約に基づいて、中国を常設仲裁裁判所に提訴した、いわゆる南シナ海仲裁裁判の概要と、中国の不法な海洋権益の主張に対抗して、米国を中心に行われている「航行の自由作戦」の概要について述べる。

(1)南シナ海仲裁裁判

 中国は、1947年に当時の国民党政権が発行した地図に描かれた九段線(当初は十一段線であったが1953年トンキン湾付近の2つの破線を削除し九段線となった)を根拠に、南シナ海の大部分を自国の領海であると主張している。

 中国が、南シナ海における権利の主張と九段線を結びつけて対外的かつ公式に示したのは、2009年に国連事務総長に提出した口上書であるとされる。

 さて、中国は、1958年9月に「領海に関する政府声明」(注2)を発表し、南シナ海の大部分を自国の領海と宣言した。

 さらに、1996年6月の国連海洋法条約への加盟に先立つ1992年2月に、海洋主権に関する国内法として「領海および接続水域法」を制定し、第2条で陸地領土について、「中華人民共和国の大陸およびその沿海島嶼を含み、台湾および釣魚島(尖閣諸島)を含む附属各島、澎湖列島、東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島および中華人民共和国に所属する一切の島嶼を包含する」と規定した。

 このように中国は国内法に基づき領有権を主張しているのである。

 一方、フィリピン2013年1月22日、南シナ海におけるフィリピン管轄海域における領有権紛争の平和的かつ持続的な解決を実現するために、国連海洋法条約に基づいて、ハーグにある常設仲裁裁判所に中国を提訴した。

 フィリピンは、南シナ海における中国との領有権紛争を巡って、仲裁裁判に訴えた唯一の国である。

 中国外交部は同年2月19日、提訴は歴史的かつ法的に誤った措置であり、中国に対して受け入れ難い告発を含んでいるとして、フィリピンの仲裁手続きへの参加を拒否した。

 仲裁開始から3年半後の2016年7月12日、南シナ海仲裁裁判所は「九段線とその囲まれた海域に対する中華人民共和国が主張してきた歴史的権利について、『国際法上の法的根拠がなく、国際法に違反する』とする判断を下した。

 既存の国際法的枠組みとは相いれない中国の独自の主張であった九段線、海洋の歴史的権利について、判決は完全に否定したのである。

 中国外交部は7月13日に、「裁定は無効であり、拘束力を持たず、中国は受け入れず、認めないことを厳粛に声明する」とする声明を発出した。

 ところで、常設仲裁裁判所は、国際司法裁判所と違い、相手国が拒否しても手続きは進めることができる利点があり、また、その判決には法的拘束力があるが、裁判所は執行する権限を持っていない。

 一方、国際司法裁判所は、被告国が裁判の開始に同意して初めて裁判が開始される。その判決には法的拘束力があり、一方の国が判決に従わない場合には安全保障理事会は判決に従うように「勧告」することができる。

 だが、中国が常任理事国である限り、中国を非難する「勧告」は決して発出されないであろう。

 とするならば、大国であれば法を守らなくてもよいことになる。まことに不条理な話である。

(注2)同声明は「領海の幅員を直線基線から12海里とし、大陸と沿海の島嶼、公海を隔てた台湾と周辺の各島、澎湖列島、東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島、その他の中国所属の島嶼を含む一切の領土に適用する」とした。ただし尖閣諸島は自国領とは明示的に主張していなかった。

(2)「航行の自由作戦」

 2014年以降、中国は南沙諸島において大規模な埋立ておよび施設建設を開始するなど南シナ海全域での軍事基地化を進めた。

 2015年9月の米中首脳会談においては、バラク・オバマ大統領(当時)は南シナ海の問題を取り上げ、航行および上空飛行の自由を強調するとともに、「国際法が認めるいかなるところにおいても、米国は航行し、飛行し、運用し続けていく」と指摘した。

 また、埋立て、施設建設および軍事基地化について重大な懸念を伝えた。

 これに対し、習近平国家主席は「南シナ海の諸島は古代から中国の領土である」「我々は自らの領土に対する主権および合法かつ正当な海洋に関する権利と利益を堅持する権利を有する」と反論した。

 米中首脳会談から約1か月後の 2015年10月26日、米国は、米海軍イージス駆逐艦ラッセンを南シナ海に派遣し、中国が埋立て等を進める南沙諸島のスビ礁の 12海里内を航行させた。

 以下、米国および関係国がこれまでに実施した「航行の自由作戦」を時系列に沿って記載する(各種公開情報を筆者が取りまとめたものでこれがすべてではない)。

①2015年12月、豪軍の「P-3C」哨戒機が 「航行の自由作戦」を実施した。

②2016年1月、米駆逐艦カーチス・ウィルバー(USS Curtis Wilbur)がパラセル諸島 トリトン島の 12海里内を航行した。

③2016年5月、米駆逐艦ウィリアムローレンスUSS William P. Lawrence)がファイアリー・クロス礁の 12海里内を航行した。

2017年5月、米ミサイル駆逐艦「デューイ」が南沙諸島ミスチーフ礁の12海里内の海域を航行した。トランプ政権では初の「航行の自由作戦」であった。

⑤2018年2月、米原子力空母カール・ヴィンソンを中心とする空母打撃群がフィリピンのマニラに寄港した。中国による南シナ海の人工島の軍事基地化が明らかになってから初めて米空母がフィリピンへ寄港した。

⑥2018年3月、米ミサイル駆逐艦マスティンが南シナ海のスプラトリー諸島ミスチー フ礁付近で「航行の自由作戦」を実施した。同時期、仏フリゲートヴァンデミエールが、南シナ海で「航行の自由作戦」を行ったという情報もある。

⑦2018年9月、米ミサイル駆逐艦「ディケーター」が、「航行の自由作戦」としてガベン礁、ジョンソン南礁の12海里内の海域を航行した。この時、中国の旅洋型ミサイル駆逐艦が約41メートルの距離まで異常接近し、海域から離れるよう警告した。

⑧2018年9月、英揚陸艦アルビオンがパラセル諸島近くを航行した。関係筋は、中国が警告のため、フリゲート艦1隻とヘリコプター2機を派遣したことを明らかにした。

 英海軍報道官は「アルビオンは国際法・規範に完全にのっとり、『航行の自由』について権利を行使した」と説明した。中国外務省の華春瑩報道官は記者会見で、「中国の主権を侵害する行為であり、断固として反対する」と述べた。

⑨2019年2月、米ミサイル駆逐艦「スプルーアンス」と「プレブル」の2隻が、「航行の自由作戦」としてミスチーフ礁の12海里内の海域を航行した。

⑩2020年4月、米インド太平洋軍は、南シナ海に強襲揚陸艦アメリカ」と巡洋艦バンカーヒル」の2隻による「航行の自由作戦」を実施した。豪フリゲート艦「HMASパラマッタ」と米駆逐艦「バリー」が加わった。豪国防省は共同演習の一環だとしている。

⑪2020年12月共同通信は、「英海軍2021年初頭に、空母『クイーンエリザベス』を中核とする空母打撃群を、日本の南西諸島周辺を含む西太平洋に長期展開させる」と報じた。

⑫2021年1月、日本経済新聞は、「ドイツ政府は独海軍に所属するフリゲート艦を日本に派遣する検討に入った。今夏にもドイツを出航する」と報じた。ドイツ海軍がアジアに展開するのは異例のことである。独政府は昨年9月にインド太平洋ガイドライン(指針)を閣議決定した。現在は指針にもとづく具体策を詰めており、海軍の派遣はその一環と見られる。

 以上のように、米国、米国の同盟国および関係国は、中国の不法な海洋権益の主張に対し、自国の権利を主張し、かつ不本意な同意をしないことを示すために、「航行の自由作戦」と称して、中国が占拠している南沙諸島西沙諸島の周辺海域または領海内(12海里以内)に艦船を航行させている。

 だが、中国の不法行動はやむことがない。中国の実効支配を阻止するためにも「航行の自由作戦」を継続するしかないであろう。

 ちなみに、かつて空の「航行の自由作戦」では中国は自らの非を認めて措置を撤回した事例がある。簡単に紹介する。

 2013年11月23日、中国国防部は突然、「東シナ海防空識別圏」を設定し、すべての航空機に中国当局に飛行計画の提出を義務づけた。

 ところが11月26日、米軍のB52戦略爆撃機が中国政府への事前通告なしに同圏内を飛行した、同時に、米国防総省は中国が定めた規則に従わないと声明を発出した。

 それからしばらく経った2014年12月、中国国防部が防空識別圏の運用規則を各国向けの航空情報から削除した。このように空の「航行の自由作戦」は見事成功したのである。

3.日本の取るべき対応

 今、世界体制は無政府状態にある。つまり国家を取り締まる権威をもった組織が存在しないのである。

 第2次世界大戦後、国際社会は、国際連盟の失敗を反省し、国連軍(United Nations Forces)による集団安全保障制度を導入し、戦勝五大国(米・英・ソ・仏・中)の安全保障理事会における意思決定を重視した。

 しかし、冷戦時代は米ソ対立により、冷戦後は米対中・ロの対立により安全保障理事会は機能不全となり、結果、国連は国家による不法行動を取り締まる権威をもった組織になりえていないのである。

 では、不法な行動と侵略的行為を繰り返す中国に対して、日本は何をすべきであろうか。

 以下、二国間会談や国際会議等を通じて中国に強く抗議し、違法な措置の撤回を求める。国外に情報を発信し、日本の対外政策が実現しやすい国際環境を作る、という2つの方策について述べる。

(1)二国間会談や国際会議等を通じて中国に強く抗議し、違法な措置の撤回を求める。

 日本政府は、海警法国際法違反であるという抗議をしていないと前述したが、首脳会談や国際会議などの場において海警法国際法違反であることを明確かつ強く抗議することが重要である。

 抗議するとは異議申し立てのことである。相手国の違法または不当な行為に対して、その取り消し・変更を申し立てることである。

 中国研究の専門家遠藤誉氏は、『すべては92年の領海法が分かれ目』と題する記事の中で、抗議の重要性について次のように述べている。

1992年2月25日、中国が領海法を制定したに対して、日本が)以下のような抗議をしていた記録があることを発見したので、紹介する。

①2月26日:在北京日本大使館より中国外交部へ口頭で抗議

2月27日:小和田外務事務次官より楊振亜在京中国大使へ口頭で抗議

3月16日:日中外交当局協議で抗議

④4月:訪日した江沢民総書記に対して宮澤総理が善処を求める。

 しかし少なくとも、例えば「善処しないのなら、天皇訪中を中止するぞ」というような、大きな反撃を日本政府がしたかというと、今のところ、そのような痕跡を見い出すことはできない。

 日本をはじめとした「領海法」関係国には責任がある。

 あのとき、どのようなことがあっても、関係国が一致団結して抗議し、撤廃させるべきだった(Yahoo!ニュース2015年4月21日)。

 また、同氏は、「日本の外交敗北──中国に反論できない日本を確認しに来た王毅外相」と題する記事の中で、次のように述べている。

2020年11月24日、中国の王毅外相は茂木外相と会談し、会談後の記者会見で(王毅外相は)『最近、一部の正体不明の日本の漁船が釣魚島(尖閣諸島)のデリケートな海域に侵入している」

「中国はそれに対して必要な対応をするしかない。この問題に関する中国の立場は非常に明確で、われわれは今後も引き続き中国の主権を守っていく』と述べた」

「これに対して茂木外相はその場で反論することもなかった。(中略)25日には菅総理とも会談したが、尖閣諸島問題に関して、やはり『中国側の前向きの対応を強く求めた』としているだけで、日本側は誰一人『尖閣諸島を中国の領土などと言うのでしたら、どうぞお帰り下さい。会談はここまでに致しましょう』とは言っていない」(出典:ニューウィーク日本版2020年11月30日

 筆者は、上記の遠藤誉氏の意見に同感である。日本政府は、何かと中国政府へ忖度しているように見える。

 中国による経済制裁を恐れているのであろうか。日本は、経済制裁を受けながらも中国の意に逆らう豪州を見習うべきである。

 2020年12月26日付け日本経済新聞は、「与党・保守党で嫌中感情が高まる英国では、中国との経済関係が密接になると、(中国からの)政治的な圧力に抵抗しにくくなるという見方がある。こうした見方からすれば、豪州は勇敢な態度で臨んでいるうえ、先見の明があるといえそうだ」と報じている。

(2)日本の対外政策が実現しやすい国際環境を作る。

 日本の対外情報発信力が弱いことは外交・安全保障の専門家からつとに指摘されている。

 2013年7月2日領土問題担当大臣のもとで開催された「領土・主権をめぐる内外発信に関する有識者懇談会」は、「戦略的発信の強化に向けて」と題する報告書を公表した。

 同報告書は、12項目の提言という形で取りまとめている。提言は、「内外発信全般について」、「尖閣諸島をめぐる内外発信について」、「竹島問題に関する内外発信について」の3つに区分されている。主要な提言は次のとおりである。

ア.領土・主権をめぐる内外発信全般について

① 領土・主権をめぐる対外発信に関しては、第三国の国民に日本の主張がよく分かるような論点を選択し、集中的に戦略的広報を実施する必要がある。

② 国際的に影響力・発信力のある第三国において、日本の立場への支持を得るべく、英語による発信を抜本的に強化する必要がある。

③ 領土・主権をめぐる発信に際しては、有識者、シンクタンクおよび海外の研究者等の政府以外の主体からも重層的に発信する必要がある。

④第三国に対して領土・主権に関する日本の立場を「ワン・ボイス(一貫性のある言葉)」で発信することが有効である。

イ.尖閣諸島をめぐる内外発信について

尖閣諸島をめぐる内外発信においては、中国の物理的な力の行使による現状変更は許されないという点を強調すべきである。その際、日中関係を戦略的互恵関係で発展させるとの外交上の目標と十分整合性を考慮すべきである。

尖閣諸島について、中国が 1971年になって初めて領有権を主張してきた事実を対外的にアピールすることが有効である。また、正しい事実関係について中国語で発信することも重要である。

ウ.竹島問題に関する内外発信について

①竹島問題では、日韓関係の大局的観点に留意しつつ、長期にわたって日本の立場を適 切に発信していく必要がある。そのためには、竹島問題に関する国内世論の啓発が極めて重要である。

②竹島問題に関しては、1950年代に韓国が力によって竹島を奪取し、不法な占拠を継続しているのに対し、日本政府がこの問題に関して国際司法裁判所付託を含む平和的方法により国際法に則って解決を追求してきた点を対比的に発信すべきである。

 上記の報告書は、当時の状況について「日本の領土・主権をめぐる内外発信に関しては、関係国の多岐にわたる情報発信が先行しており、日本が後れを取り、第三国向けの発信が圧倒的に不足しているとの危機感が共有された」と述べている。

 当時の状況と現在のそれはあまり変わっていないように筆者には思われる。領土問題担当大臣には、是非とも上記提言の具現化の状況を検証していただきたい。

おわりに

 本稿は、「海警法」の国際法違反の側面に焦点をあてたが、同法律は、中国海警局の武器使用規定なども定めている。

 中国海警局が外国の船に対して武器の使用を認める「海警法」が施行されてから、海警局の船が頻繁に尖閣諸島周辺海域で領海侵犯を繰り返している。

 中国の侵略的行為に対処するために、日本は厳しい制約が課せられている現行の武器使用基準を早急に改正しなければならない。武器使用基準の改正の詳細は、拙稿『中国海警局の武器使用:日本の問題点と必要な法整備』(2021.2.19)を参照されたい。

 さて、国際法違反の勝手な法解釈によって、関係諸国を威嚇・恫喝している中国に対する有効な手段は、「航行の自由作戦」であろう。

 海上自衛隊はこれまでのところ、「航行の自由作戦」に参加していない。

 2015年11月22日安倍晋三首相(当時)は、マレーシアクアラルンプールでの記者会見で、「(航行の自由作戦は)米国が独自に行っているもので、自衛隊の活動とは別のものだ。我が国がこれに参加することはない」と述べている(出典:日本経済新聞2015年11月22日)。その後、政府から参加の有無に関する発言はなされていない。

 筆者は、海上自衛隊の艦船は、米国主導の「航行の自由作戦」に参加すべきであると考える。

 それは米国の対等な同盟国になる第一歩であり、同時に、俗な言い方をすれば、中国にナメられない存在になる第一歩でもある。

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