きょう3月3日は「ひな祭り」。ひな祭りに関連する食べ物の一つが「ちらしずし」ですが、このちらしずしと似たものに「五目ずし」があります。レシピサイトなどを見ると、見た目は同じように見えますが呼び方が混在しています。しかし、それぞれ別の呼び方があるということは何らかの違いがあるようにも思えますが、実際はどうなのでしょうか。料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。

ちらしずしは「散らしずし」とも

Q.「ちらしずし」と「五目ずし」の違いは何でしょうか。

関口さん「ちらしずしは『散らしずし』とも書き、すし飯の上に海産物やレンコン、絹さやなどの野菜、錦糸卵といった具材を彩りよく散らし、並べたすしをいいます。すし店のちらしずしは、このようなスタイルが一般的です。ちらしずしの一種である五目ちらしは、すし飯に具材を混ぜ込み、いろいろなトッピングをするスタイルを指します。

一方、五目ずしは、すし飯の中に野菜や魚介類など数多くの具材を混ぜ込んだすしのことで、『かやくずし』『混ぜずし』とも呼ばれます。どちらも見た目は類似しており、明確な垣根は薄くなっています。辞書によっては、同じものを指すと説明している場合もあります」

Q.ちらしずしや五目ずしと似たものに「ばらずし」があります。ばらずしは、ちらしずしや五目ずしと違うのでしょうか。

関口さん「ばらずしは岡山の郷土料理です。江戸時代の初期、岡山藩の藩主である池田光政が『食事は一汁一菜のみ』として岡山藩の庶民にぜいたくを禁ずる倹約令を出したことが由来とされています。

祭りや祝いの日にごちそうを食べたいと思う人々は、すし飯の中に海産物や野菜を目立たないように刻んで混ぜ、見た目は一汁一菜でも中身は具材がたくさん入ったばらずしを考えました。倹約令違反から確実に逃れることを考えた人たちは瀬戸内海で取れた魚介類や地元の特産物を皿の上に並べ、その上から、具材を覆うようにすし飯をのせて、食べる直前に皿をひっくり返すことで、ハレの日の食事を楽しんだそうです。

細かく切った状態を『ばらす』と表現することから、ばらずしと呼ばれますが、見た目はちらしずしと似ており、五目ずしの一種といわれることもあります。あえて違いを挙げるとすれば、倹約の歴史から生まれた郷土料理として、地元の特産品を使っていることです。岡山のばらずしはサワラやママカリなどの地魚を使うそうです。ばらずしにはほかに、京都北部の丹後地方に伝わるものとして、サバのそぼろを使った『丹後ばらずし』があります」

Q.レシピサイトを見ると「ひな祭りにはぜひ、ちらしずしや五目ずしを作ろう!」と言わんばかりに数多くのレシピが掲載されています。ひな祭りとすしにどのような関係があるのでしょうか。

関口さん「ひな祭りは女の子の成長を祝うことから、華やかな料理として、ちらしずしや五目ずしを食べるイメージがあります。ひな祭りとすしの関係について諸説ある中で有力なのは、平安時代ひな祭りの際、魚に米を詰めて発酵させる『なれずし』を食べていたのが由来との説です。江戸時代に入り、なれずしに代わって、ちらしずしの原型といわれるばらずしが食べられるようになったのが現在のスタイルの始まりというものです。

ただし、その説が有力とはされますが、実際には、はっきりとした由来は分かっていません」

Q.ひな祭りのちらしずしや五目ずしに欠かせない材料はあるのでしょうか。ある場合、どのような材料ですか。

関口さん「元々、ちらしずしや五目ずしは使われる具材に縁起を担いでおり、エビやレンコン、マメに願いが込められています。おせち料理にも通じていますが、エビは『長寿のシンボル』、レンコンは『見通しがよい』、マメは『勤労や健康を願う』という意味がそれぞれあります。

しかし、現在では縁起物にこだわるよりも、彩り華やかに仕上げる食材を意識して作られているようです。赤や黄色、緑の配色に当てはまる食材として、赤はエビやマグロサーモン、桜でんぶ、ニンジンなど、黄色は卵、緑は菜の花や絹さやなど春の彩りを意識した具材が定番です」

Q.実際にすしを作ろうとすると、酢とご飯をうまく混ぜ合わせなければならないなど普段の料理では行わない工程があり、失敗する可能性もあります。すしをうまく作るコツがあれば教えてください。

関口さん「すし飯をおいしく作るには、3つのポイントがあります。1つ目はご飯の水加減をお米と同量で炊くことで、いつものご飯よりも若干硬めに炊き上げるのがポイントです。2つ目は、すし酢はご飯が熱いうちに混ぜることです。すし酢はたっぷりと使います。炊き立ての熱いご飯を使うと、すし酢の水分でご飯がさらっと軽く混ざるので、ご飯の粒が満遍なくすし酢を吸い込み、つやっと仕上がります。

3つ目は、混ぜるときにご飯の粒をつぶさないよう、切るように手早く混ぜることです。ご飯にすし酢がどんどん吸い込まれていくので、さらっとしている間に手早く、全体を混ぜておくのがポイントです。徐々にご飯が混ぜにくくなったら、すし酢がご飯に吸い込まれた合図です。それ以上混ぜると、粘りが出たり、ご飯の粒がつぶれてぐちゃっとした仕上がりになったりします」

オトナンサー編集部

「ちらしずし」「五目ずし」の違いは?