◆舞台制作者の長吉秀夫さんを直撃
 『なぜ大麻で逮捕するのですか?』。そんなタイトル電子書籍が昨年12月Kindleで自費出版された。

 著者は舞台制作者で作家の長吉秀夫さん。これまで『大麻入門』(幻冬舎新書)、『大麻 禁じられた歴史と医療への未来』 (コスミック出版)といった著作で、大麻の歴史や医学的効能などの情報発信をしてきた。

長吉秀夫さん

 長吉さんは、世界各国で大麻の規制緩和が進む中、日本の大麻取締法は罰則が厳しすぎるとしている。大麻の所持や栽培を非犯罪化することで、逮捕されることがないようにするべきだという。

 今回の著作もそうした問題意識のもとで、識者のインタビューとコラムがまとめられている。取材対象者は、弁護士・亀石倫子さん、医師・正高佑志さん、ジャーナリスト佐久間裕美子さんなど。大麻の話だけにとどまらない、さまざまな社会的観点から問題提起をしている。

 なぜ、大麻で逮捕をするべきではないのか? 今導入が議論されている「使用罪」をどう見るか。長吉さんに話を聞いた。

◆刑罰が重すぎる現状
――大麻を非犯罪化するべきだと考えるのはなぜでしょう?

長吉:主な理由は、刑罰が厳しすぎるからです。大麻取締法は、大麻による実害と科せられる刑罰のバランスが合っていません。

 日本では大麻は非常に危ないものだというイメージがありますが、健康被害の大きい覚醒剤ヘロインなどとはまったく違うものです。イギリスのランセットという有名な医学雑誌に載った研究では、大麻はタバコやお酒よりも安全であるという結果が出ています。世界保健機関WHO)も、大麻に含まれるカンナビノイドに重篤な害はなく、医療としての使用も可能であると明言しています。

ランセットに掲載された内容より

 それにもかかわらず、所持の場合は5年以下の懲役という大変重い刑罰です。逮捕されると一般に会社勤めをしている人では、その後の社会的な生活に多大な影響があります。起訴するとしても、学校や会社には行かせて、土日などに捜査をするべきです。

――LINEに大麻使用を思わせる書き込みをしただけで逮捕をされた事例もあるそうですね。

長吉:昨年9月に関東に住む男女がLINEオープンチャットで大麻を容認する書き込みをしたことで、愛知県警に逮捕されました。「久しぶりに吸えて感動してます」「やっぱWeed上手いーっ」などと書いていました。それだけで急に警察が来て、サイバー調査を強化していた愛知県警に連れて行かれてしまったのです。容疑は、麻薬特例法の「あおり・唆し」でした。

 女性はうつ病や喘息などの持病があったため、医療用の目的で大麻を吸っていたそうです。それが突然逮捕をされて、長時間の移送をされた。取り調べを経て、勾留された。今は使用罪はないので、48時間以内に釈放されました。誤認逮捕と言っていいでしょう。

 関東までの帰りの新幹線は自腹で払ったそうです。帰り道で友達から実名報道をされていると教えられて、真っ青になったとのことでした。実名で報道されたことで、その後の生活に大きな支障が生まれたことは明白です。警察はマスコミに48時間以内に情報を流しているわけです。この事件には警察やマスコミの体質の中にある、大きな問題が潜んでいると思います。

◆強引な捜査とおかしな報道
――テレビでは芸能人が大麻で逮捕されると大きな問題として報じられます。なかには、土下座をして謝罪をするような姿が映されることもありますが、どこか違和感を感じます。

長吉:(大麻所持の容疑で逮捕された)KAT-TUNメンバーの田口淳之介さんも土下座する必要はなかったと思います。同容疑で逮捕された元俳優の小嶺麗奈さんの弁護士を務めた望月宣武さんは、逮捕前の動きが報道機関に流されることは、守秘義務違反(国家公務員法違反)だとしています。個人情報じゃないですか。なぜ逮捕の瞬間にカメラがいるのでしょうか

――LINEに書いただけで逮捕されるのは、表現の自由にも繋がる問題です。本書で取材をしていたYouTuberカオルさんは、ウェブメディアYouTubeで大麻の情報発信をしただけで逮捕されたそうでした。

長吉:表現しただけで、逮捕されてしまう。捜査の手法が非常に強権的です。これは大麻だけの話ではないのです。大麻についてどう考えるかは、社会のリトマス紙だと思っています。本書では佐久間裕美子さんと話していますが、今、香港やタイなど世界中でファシズム的な傾向が強くなってきています。全体主義的で強権的な政治と民衆がぶつかり合っている。だから僕らがひとつ一つを監視していく。声を上げていかないとまずいと思っています。

◆使用罪の導入
――大麻取締法は大麻の所持や栽培の罰則がありますが、使用することには罰則がありません。しかし今、使用罪の導入が議論されています。1月に厚生労働省の有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が始まりました。

長吉:厚労省は若年層の検挙者数が上がっており、それを抑止するためだとしています。また、世界保健機関WHO)や国連麻薬委員会が医療用として価値があると認めているため、医療用大麻の活用に向けた議論を進めるとのことです。

 しかし、使用罪を導入すると検挙者数は上がるわけです。しかも先ほどの話のように厳しい懲役刑しかない。若年層に抑止をさせたいならば、人生がめちゃめちゃにならないように、ちゃんと教育プログラムを作るべきです。恐怖で縛りつける方向でよくなるはずがないじゃないですか。日経新聞の記事では、警察幹部のコメントで「使用罪の導入が実現すれば、効率的な取り締まりにつなげられる」などと言っている。いや、そういう話じゃないでしょうと思います。

 覚醒剤ヘロインは身体に害が大きいでしょう。しかし、大麻は健康被害ではなく、逮捕されることが一番の害なのです。害を取り除くのがハーム・リダクション(※)であるならば、まずは量刑のバランスを取るべきだと思います。
(※:薬物による健康的被害や社会的被害を軽減すること。すぐにゼロにするのではなく、現実的な段階を踏みながら減らしていく)

 また、使用罪を導入することになるならば、法律の性質が変わります。これまでは植物としての大麻草の所持や栽培を取り締まっていました。使用罪になると、大麻の成分THC(テトラ・ ヒドロ・カンナビノール)の規制になるわけです。それならば、どれくらいの濃度でアウトなのかを決めるべきです。

 たとえば、オリンピックの競技時にTHCは禁止されていますが、世界アンチドーピング機構(WADA)は尿中1ミリリットル中に150ナノグラムを基準値にしています。そういうルールが海外でもあるわけですから、少なくとも欧米並みの基準値に設定するべきだと思います。

◆大麻取締法の未来
――大麻取締法はどのように変えるべきでしょう?

長吉:僕は本来は全撤廃すべきだと考えています。その手前に非犯罪化があります。軽犯罪として扱って、行政処分で違反反則金を払うようにする。駐車違反や多くのスピード違反と同様に、お金は払うけれど前科にならないようにするべきです。ボランティアでゴミ拾いを1ヶ月するなどでもいいでしょう。まともなドラッグ教育をせずに、厳罰にするなんていつの時代だよと思います。

――今後は大麻をどう捉えていくべきでしょう?

長吉:まず、大麻自体は植物として捉えるべきです。有益な植物であるということをもう一度認識すべきです。医療用大麻は小児てんかんの発作を抑えるCBDオイルなど、さまざまな効能があります。昨今はがん細胞を死滅させるという学術研究も進んでいます。また日本で戦前に作られていたように、麻の繊維も使える。今は科学がこれだけ進歩しているので代替エネルギーにもなり得る。

 科学技術の推移と昔からの大麻の文化をかけ合わせると、いろんな面で豊かになるでしょう。経済の側面から見ても、大きなビジネスチャンスになる。世界的に国の政策として進めていくべきではないでしょうか。

<取材・文・撮影/篠原諄也>

【篠原諄也】
1990年、長崎生まれ。WEBマガジン制作会社「HEAPS」でインバウンドメディア編集者をした後、フリーランスに。月見と日光浴が好きです。

長吉秀夫さん