長髪と白いヘアバンドがトレードマークピン芸人として20歳でデビューして以来、約26年。現在、『5時に夢中!』(TOKYO MX)のMCをはじめ、DJや作家としても才能を発揮するふかわりょう氏。

 YouTubeSNSへと主戦場を移すお笑い芸人が多い昨今、テレビ業界に主軸を置いて活動を続けるふかわ氏は「共感はいらない」と語る。「いいね!」が求められ、社会の空気を読むことがよしとされる「共感の時代」に己の路線をひた走るその理由を聞いた。

◆MCは自分にとって「しかるべきポジション」だった

――現在のふかわさんに対して『5時に夢中!』のMCとしてのイメージを持つ人も多いと思います。かつてはピン芸人としてスポットライトが浴びる立場だったご自身が、MCとして周囲に光を当てる側になりました。この間に起きたご自身のこの変化についてどう思われますか?

ふかわ デビューしてから二十数年にして、ようやく自分にとってしかるべきポジションが見つかったのかなと思っています。今は自分一人が目立つことより、いかにその場にいる共演者たちと、どんなハーモニーを届けられるかが重要だと思っています。

実は小学生の頃から自分がおちゃらけて周囲を笑わせるより、その場にいる人をうまくいじって笑いを取るほうが好きでした。自分にスポットライトが当たるより、人にスポットライトを当てるほうが向いてるのでしょうね。

――最近はSNSYouTubeに主軸を置いて活動する芸人さんも増えています。現在、ふかわさんはテレビメインに活動されていますが、ネット進出を考えることはありますか?

ふかわ 将来的には重心がシフトする可能性もありますが、今はただひたすら「テレビに恩返しがしたい」という気持ちが強いですね。僕の世代は子供の頃からテレビに楽しませてもらった世代。「将来は自分もあんなふうになりたい」と思って、憧れとともにテレビという大きなテーマパークに飛び込んで、そのテーマパークキャストになれた。本当に幸せです。

テレビへの恩返しなんて簡単にできることではないのですが、「テレビにお前は必要ない」と言われるまで、その使命をまっとうしたい。あと、僕自身はSNSとはあまり親和性が高いタイプではないとも思っています。

◆自分の感情は「消化」しないと人前には出せない

――ご自身のどんな部分が、SNSと親和性が低いと思うのでしょうか?

ふかわ 僕はどちらかというと、自分に起きた出来事をすぐにアウトプットするタイプではなくて、内面にため込んでいくタイプなんです。小さな不安や怒り、悲しさを感じても、それをすぐにツイートして、自身の気持ちを拡散することに抵抗を感じてしまいます。

――すぐに自分の感情を発信しようという人が多い世間の感覚と、少しズレがあるということですね。

ふかわ そうですね。どんな出来事やどういう感情であれ、自分で料理して味わっていないものを皆さまにそのまま召し上がってもらおうとは思えないんです。

――生放送番組のMCをされるなか、リアルタイムに自分の言葉を伝えることは多いのではないでしょうか?

ふかわ テレビはパブリックに向けたものなので、テレビで発言するときは自分が味わって調理してない感情を出すと事故が起こります。その結果、自分自身の言葉ではなくて、テレビサイズの言葉になっている部分もあるので、時々テレビに出ている自分と、自分の本質が離れているのではないかと思うこともかつてはありました。

◆どうしても「三茶」「二子玉」と言葉を略せない

――そうしたふかわさんの感じる世間とのズレについて、昨年、発売されたご自身のエッセイ『世の中と足並みがそろわない』(新潮社刊)では多数言及されていますね。ご自身で「自分は社会とズレている」と感じたのはいつごろだったのでしょうか? 

ふかわ 正直、実は大人になるまで、「周囲と足並みがそろわない」という自覚すらなかったんです。でも、よく考えてみたら、子供のころから社会に対する違和感を抱いては、そのたびに心にうっすら鈍痛は感じていました。今回執筆した『世の中と足並みがそろわない』は、自分が子どもの頃から心にため込んで、沈殿してしまった“よどみ”のようなものをすくい上げて、ちょっとずつお湯で溶いてみた感じですね。

――具体的にはどんなことに違和感を抱いていたんですか? 

ふかわ 本当に些細な事ばかりです。たとえば、僕は略すのが苦手なんです。「三軒茶屋」を「三茶(サンチャ)」と略したり、「二子玉川」を「二子玉(ニコタマ)」と略したり。別に言葉を略したことで誰かを傷つけるわけでもないし、誰に迷惑をかけるわけでもない。でも、そこで、どうしても略せない自分がいるんです。誰のためにもならないのになぜか頑なに戦っている。

――それは誰も得しない無償の戦いですね……。

ふかわ そうなんです。これに勝利したところで何も意味がないし、ただ生きづらいだけなんです。でも、生まれてからこの方、ずっとこうした戦いを、繰り広げてきた気がします。

◆自分が嫌いなことでも「#」で味方を募りたくはない

――ほかに共感者がいたら、生きづらさも減るかもしれないですが。

ふかわ でも、僕は自分の違和感を別に世間の人に対して、「#私は略したくない」と発信したいわけではないんです。むしろ、それは一番やりたくない。略すことよりも嫌かもしれない(笑)。もともと、自分の考え方が屈折していることはわかっているんです。だからこそ、自分が違和感を持っているものに対して、世間に主張してわざわざ共感がほしいとは思わないんです。

――わざわざ味方を募りたくない……ということですか?

ふかわ はい。共感は自分から求めるモノではないからですね。ハッシュタグをつけて自分の意見に対して味方を募ることに嫌悪感があるのは、それはあくまで僕の考えであって、それをどう感じるかは相手の自由です。僕はその自由を奪うつもりは一切ない。性差や世代、住んでいる地域によって感じるものは違う。それでいいと思います。人によっては「いびつだ」と思う考えも人によっては「私と同じ考えだ」と思う人もいるはず。僕は相手からどう思われても、その考えを受け入れたいと思っています。

――「自分が違和感を持つ対象も否定しない」というスタンスですね。

ふかわ 自分が違和感を持ったものの存在を否定することはエゴだと思うんです。どんな人物や事象であれ、自分の意に沿わないものは全部否定するということは、決してやってはいけない一番の悪ですから。

――そんなふうに苦手なものや人を受け入れるためには、どうしたらいいんでしょうか?

ふかわ 相手を否定しないからといって、仲良くしなければならないわけではないと思うんです。武者小路実篤の有名な言葉である「仲よき事は美しき哉」のように、相手と仲良くしなければならないという思いが強いと辛い。無理に仲良くする必要はないので、お互い変に踏み込まず、近寄りすぎない。大切なのは向き合う距離感ですよね。隔たりを感じながらも、その隔たりを眺めているのがいいのかなと。

違和感を抱くことは気持ちが動き出す原動力になる

――「世の中と足並みがそろわない」が強みになることはありますか?

ふかわ 世の中がフラットに見えないのは、気持ちが動き出す原動力になると思います。特に、なにかを生み出そうとする人にとっては。たとえば、芸人はささやかな日常の中に心の機微を感じて、笑いに変える仕事です。誰よりも傷つき、誰よりも平坦なものに起伏を感じられる人間じゃないと、成り立たない仕事ですから。

――芸能界といういろんな人の視線を浴びる世界では、ふかわさんのような人との違いに敏感な繊細な人だと生きづらいのではと思ってしまいます。

ふかわ 人前に立てば、いろんな言葉や視線も向けられます。特にお笑い芸人は、笑いで自分の存在価値を見出そうとするくらいの人たちなので、ピュアだし、ちょっとしたことで傷つきやすい人が多い。昔は僕も傷ついていましたし、今でも傷つくことはあります。

昔からそんな自分の脆さや弱さを知られたくなかったので、ひたすら強がってきました。いまは、「他人が自分に同意して認めてくれなくてもいい。年を重ねるごとに、繊細さを強さに変換させられるようになったんでしょうね。繊細ながらも、図太くいたいです。

◆余生は海辺で羊たちと暮らしたい

――芸人、MC、DJ、作家と様々なキャリアをお持ちのふかわさんですが、ご自身の今の肩書きを選ぶとすると?

ふかわ 「肩書き」は自分にとっては深いテーマですね。『世の中と足並みがそろわない』は、22編のエッセイから成るのですが、もし23編目を書くならそのテーマで書きたいと思っていたくらいです。肩書きって、どれをとっても違和感がありますよね。

僕の場合、「お笑い芸人」も、「タレント」も少し違うような気がします。何物でもない状況に憧れますけど、そうもいかない。そう考えると、ずっと一生、自分の肩書きにはしっくりしないままなんでしょうね……。いつか「このふかわっていう人は、いったい何をした人だったんだろうね」と言われながら死んでいくのだと思っています。

――最後に、今後の人生におけるプランはありますか? ふかわさんといえば、よく結婚の話が話題に上がりますが、そのあたりは……。

ふかわ 明確なビジョンはあえて持たないようにしています。結婚に関しても、別に人との関わりを断ちたいわけではないし、自分に奥さんがいてくれてもいいんです。僕が50代を迎えたら心境が変わるかもしれないし、大きな病気を患ったりしたとき、誰か一生一緒に添い遂げたいと思う人に出会うかもしれません。今の時点ではわからないから、あえて決めない。

唯一、ぼんやり考えているのは、余生はアイスランドの海辺で羊たちと暮らしたい……ということですかね。ただ、これもあくまで絶対にそうなりたいというわけではなく、「なんとなく、そういうのもいいな」という感じですけどね(笑)

ふかわりょう
1974年神奈川県生まれ。1994年慶應義塾大学在学中にお笑い芸人としてデビュー。長髪に白いヘアターバン姿で「あるあるネタ」をつぶやく「小心者克服講座」で人気を博す。現在は『5時に夢中!』のMC、『ひるおび!』のコメンテーターを務める。エッセイ集『世の中と足並みがそろわない』が好評発売中

<取材・文/藤村はるな 撮影/山田耕司>