2月24日に配信スタートしたゲームアプリ『ウマ娘 プリティーダービー』が話題です。実在の名馬の魂を受け継いだ「ウマ娘」を育成するというもので、牡馬もいわゆる“美少女”になっています。

すでにアニメ化もされており、各馬の個性を生かしたキャラクター設定もウケているようです。

たとえば、現役時代は気性難で知られていたG1・6勝馬のゴールドシップは、自由奔放でマイペースなキャラに。担当していた厩務員の今浪隆利さんも 「本物のゴルシよりむずかしい」など、楽しそうに感想をツイートして、競馬ファンをわかせています。

ところで、実際の競走馬の名前をゲームで使って良いかについては、過去に裁判で争われたこともあります。ここで競馬ゲームの歴史を振り返ってみましょう。

●馬主がダビスタなどを訴えた

裁判になったのは、「ギャロップレーサー(GR)」と「ダービースタリオンダビスタ)」という2つの有名タイトル。いずれも馬主らが訴え、パブリシティ権が争点になりました。

たとえば、野球やサッカーゲームなどで選手を実名で登場させるのであれば、契約してライセンス料を払う必要が出てきます。これが「人」ではなく、競走馬という法的には「モノ」にも生じるかという問題です。

下級審では、判断が分かれました。ダビスタ事件について、東京高裁は競走馬にパブリシティ権は生じないと判断。いっぽうGR事件について、名古屋高裁はパブリシティ権が発生するとしました。

いずれも上告され、最高裁競走馬にパブリシティ権は生じないとする結論を出しています。

以下はGR事件についての上告審判決の一部です。ダビスタ事件については馬主側の上告が退けられ(不受理決定)、権利侵害を認めなかった東京高裁判決が確定しました。

競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく、また、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできない」

●パブリシティ権以外の問題は?

ただ、『ウマ娘』については、単に名前を使うだけでなく、擬人化しています。この点は影響しないのでしょうか。

滋賀県にある栗東トレーニングセンターにほど近いところに事務所を構える齋藤真宏弁護士は次のように話します。

競走馬のパブリシティ権という議論については、GR事件最高裁判決で決着はついたと考えられています。
競走馬にパブリシティ権が認められない以上、競走馬の馬名等から生じる顧客吸引力を利用することについて、競走馬の所有者の使用許諾を得る必要はないわけです。

他方で、ダビスタ事件第一審判決では、競走馬のパブリシティ権が認められないとしても、ゲーム会社のゲームの製作・販売という行為の反社会性の程度によっては不法行為による損害賠償の余地があり得ると指摘されています。

この点、同判決では、ダビスタにおいては、①各競走馬の名称・血統、距離特性(判決文ママ)、実績は、ゲーム中の要素として使われているにすぎないことと、②実在の競走馬の名称等の使用が宣伝広告でそれほど強調されているわけではないことを理由として、反社会性が高いとは言えないとしています。

そして、この①及び②について、ゲームを配信するCygamesの公式サイトを見ている限り、『ウマ娘』においても同様のことが言え、従ってこうしたゲームの製作等が反社会性が高いとされる可能性は低いと考えられます。

GR事件の下級審が競走馬のパブリシティ権を認めた背景には、実在の競走馬に騎乗するというゲームシステムがあったと考えられ、そうすると、実際の競走馬とは全く異なる擬人化された“ウマ娘”を育てるわけですから、パブリシティ権(的なもの)の侵害からはより遠ざかるものと考えられます」

なお、Cygamesに対して、馬名を使う際に留意した点などを尋ねてみましたが、「回答は控える」とのことでした。

【取材協力弁護士】
齋藤 真宏(さいとう・まさひろ)弁護士
大阪府出身、35歳、66期。法テラスでの約6年間の勤務を経て2020年4月よりミカン法律事務所に所属。同事務所が栗東トレセンに近いこともあり、競馬業界関係の案件に注力している。アフターコロナにおける地方のマチ弁の新たな働き方を模索中。

【事務所Twitter】@MikanLaw(https://twitter.com/MikanLaw)
【齋藤弁護士note】https://note.com/saito1985
事務所名:ミカン法律事務所
事務所URL:https://mikanlaw.jp/

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