“恋愛小説の女王”と呼ばれる小説家でシングルマザーの水無瀬碧(菅野美穂)と、漫画オタクな20歳の女子大生、空(浜辺美波)たちの恋模様を描くドラマ「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」(日本テレビ系・毎週水曜22時~放送中)。恋愛ドラマのベテランである北川悦吏子が脚本を手掛け、菅野美穂浜辺美波が仲のよい“トモダチ母娘”を演じる本作の舞台は、東京都の港区だ。地域そのものがストーリーに深く関わってくる作品だけに、撮影にあたっては港区が全面協力し、区内の様々なスポットでロケを実現。港区の魅力が満載のドラマとしても話題を集めている。

【写真を見る】港区がプッシュする区産のはちみつ「しばみつ」

都心でのロケは警察や施設管理者との調整が必要なため難しいとも言われるなか、いかにして東京で撮影を進めているのか?今回、本作の制作を担当している日テレ アックスオンの木村義明、港区区長室報道企画担当の本城典子、映画やドラマのロケ撮影をサポートする組織、東京ロケーションボックスの遠藤肇に集まってもらい、制作秘話について聞いた。

■「東京でのロケは制限が多く、都心部に近くなるほど大変」(木村)

――港区でロケを行うことになった経緯を教えてください。

木村義明(以下、木村)「まず本作の脚本を読んで真っ先に感じたのは、これは脚本家、北川悦吏子さんご本人の話だということ。彼女自身が長年暮らしてきた港区という場所をリアルに描いているなと思いました。それで我々も、脚本に忠実な場所で撮るべきだろうと判断して準備を始めたんです。ただ、東京でのロケにはいろいろな制限が多く、都心部に近くなればなるほど大変なんです。今回は、どうしても港区で撮影することで生まれるリアリティが必要だと思い、都内でのロケ撮影をサポートされている東京ロケーションボックスさんにご相談しました」

遠藤肇(以下、遠藤)「脚本上では、架空の町“港区すずらん町”となっていますが、明らかにすずらん商店街=麻布十番商店街という内容ですもんね(笑)」

木村「脚本に登場するものすべて、実在するものとイコールなものばかりでしたからね。もう嘘のつきようがないなと」

遠藤「港区の象徴である東京タワーを背景にした画を撮るためには、どうしても港区立芝公園での撮影が必要になります。でも、区立公園でのロケは許可を取るのがとても難しいんです。そこで、日本テレビのプロデューサー陣と一緒に港区役所に伺って『ぜひ港区とタッグを組んでドラマを作りたい』と話をさせていただきました。そうして港区でのロケの話が進んでいきました」

――今回のように、港区でロケ撮影を行いたいという話はこれまでも何度かあったのでしょうか?

本城典子(以下、本城)「『港区の〇〇で撮影をしたい』というご要望自体は良くあるので、区の商業撮影に関するルールのなかで、できること・できないことをご案内していますが、今回のような要望をいただいたのは、私が知る限りでは初めてでした。遠藤さんからお話を伺った時、本作が港区を舞台にした“港区のドラマ”なのだと知って、おもしろいなと思ったのが始まりでした。内容も港区の明るい面を出してくれそうなものでしたし、ちょうどコロナウイルス感染症の影響で、港区の観光にも打撃があり、街に元気がない時期でもあったので、ドラマを通じて街の魅力を全国に発信し、区に明るい話題が流れるといいなという打算もちょっとありました(笑)」

■「区有施設での撮影が実現して、港区の魅力を多くの人に見てもらえる機会なのではと思っています」(本城)

――制作側からは、どのようなリクエストがありましたか?

本城「最初は、東京タワーがきれいに見える夜景を撮りたいということと、芝公園をバックにして、空が自転車で走るシーンを撮りたいというオーダーでしたよね」

木村「それがいまでは、港区の協力もあってどんどん調子に乗ってきていますよね…(笑)」

本城「実際に一緒にやり始めてみたら、あ、もっとこんなことができるなと話がふくらんでいって、いまに至るという感じですね。せっかくやるんだったら、積極的に関わったほうがおもしろいですし、港区の魅力をより多くの人に見てもらえるんじゃないかなと思っています。こちらからも、こんなことしませんか?あんなことしませんか?と、アックスオンのプロデューサーさんと遠藤さんにお話ししたら、皆さん前のめりで実現に向けて動いてくださって。その結果、いろんな区有施設での撮影が実現していますし、おもしろい取り組みも一緒にやれていますよね」

遠藤「そうですね。映画やドラマなどのロケをサポートするフィルムコミッションは全国各地にありますが、その本来の目的は、作品をきっかけにしてその地域の魅力や情報を発信することですからね。ドラマ公式ホームページ内で展開中のコラムコーナー『港区ステキ探検隊!』で、ドラマに登場する港区の名スポットを紹介するという企画も、本城さんからの提案がきっかけなんです。あとは、劇中の様々な場所で出てくる小道具や港区産のはちみつ『しばみつ』も地域情報の発信につながっていますよね」

本城「担当課の積極的な協力があったこともあって、実現した時はうれしかったです」

遠藤「『地産の商品なので、画面のどこかに置いてもらえたら…』という提案をいただいて。もちろんウェルカムです!という感じで、碧と空の住むマンションのキッチンや、鯛焼き屋『おだや』の入り口など、いろんなところに置かせてもらっています」

■「本城さんたちが動いてくださっているおかげで、港区の各公園で撮影ができている」(遠藤)

――本作では、芝公園をはじめ、重要なシーンの数々が港区内の公園で撮影されています。念願だった公園での撮影はいかがですか?

木村「まずカメラマンが驚いていました。区内の公園での撮影は、本来とってもハードルが高いことをみんな知っているので。『ここ撮影できるの!?』と聞くので、『今回だけだよ』と伝えてます(笑)」

遠藤「コロナの影響で緊急事態宣言が出たこともあり、都内では新規のロケ撮影の受付自体を停止している施設も多いんです。そういった状況のなか、本作は本城さんたちが動いてくださっているおかげで、港区の各公園で撮影ができているんです。しかも、区の職員の皆さんがすべての撮影に立ち会ってくださっている。本当にありがたい話ですし、すごいことだなと思っています」

本城「公園以外にも、『ここでも撮影をぜひ!』みたいなお願いをされることも多いです(笑)」

木村「空が通う大学の外観のロケ地になった港区立郷土歴史館などですね」

本城「あそこは監督たっての希望だったんですよね?」

木村「以前、別のロケで使ったことがあるらしいんです。郷土歴史館は我々も念頭にはあった場所なのですが、日程の条件が厳しかったので、最初は除外していたんです。でも、監督が『どうしてもあそこがいいなぁ』と言うので、ダメ元で本城さんにお願いしたところ許可をいただけました。大学でのシーンの撮影で、もう3回くらい行っていますね」

■「見たまんまの東京を映せているのは、画期的なこと」(木村)

――港区内でのロケについて、地元で反対の声などは出なかったのですか?

本城「そういった町内との調整は確かにありますね。基本的に、公園など公共の場所は区民の方が優先で使うものなのですが、いざ撮影となるとある程度の広さを確保しなければいけなかったり、本番中に人の流れを一時的に止めてしまったりすることもありますので…。担当課としてはそういった事態を避けたいと考えているので、どのように撮影を行っていただくのが良いかということを木村さんと相談しながら進めていただいています」

遠藤「港区の施設での撮影については、本城さんたちが許認可を出してくださる各セクションの方々と本当に大変な思いで調整をしてくださっているんですよ」

木村「それくらいやらないと撮影の許可ってなかなか取れないんですよ。『ここで撮影させてください』と言うだけではできないことを、本作ではいろいろやらせていただけているんです」

遠藤「残念なのは、そのあたりの苦労がドラマを観ただけではなかなか伝わらないという…(笑)」

木村「いや、伝わっても困るんですけどね(笑)見たまんまの東京、例えば、『ここなら東京タワーが映るよね』とか『六本木ヒルズが後ろにあるよね』という風景を当たり前に映せているのは、我々制作側としては画期的なことなんです!実際の場所で撮影できていることで、画作りは非常に助かっていますし、作品が良くなっているという手応えを感じながら作っています」

本城「区内の各施設は、それぞれ所轄が全然違うんです。だから、フロントに立っているのが私たちだったとしても、麻布十番商店街での撮影では、産業振興課の課長が一緒になって商店街の振興組合さんに頭を下げてくれたり、港区立郷土歴史館では、図書文化財課が快く引き受けてくれたり…。それぞれの公園も担当課が違っていて、赤坂では赤坂地区総合支所そのものが『全面協力しますよ!』と言ってくださっています。このように、港区全体で『このドラマを支えていこう!』という空気がありますね」

■「芝浦公園での撮影はちょっとハラハラしました」(本城)

――撮影現場で印象に残っている出来事はありますか?

木村「麻布十番で街の様子を撮っている時、都会らしい雰囲気の画にしたくて、『ここで高級車が通るといいよねー』と監督が話していたんですよ。僕らもふざけて『大丈夫、10分に1台はフェラーリが通りますから』と言っていたら、本当に10分ごとに外車が通って(笑)」

遠藤「土地柄ですね」

本城「そうですね」

木村「撮りたかったのは赤いフェラーリだったんですけど、まさにドンピシャの車が2台も通ったんです。こんな撮影、港区じゃないとできないだろうなと思いましたね」

本城「芝浦公園での撮影はちょっとハラハラしました。JR田町駅からすぐの場所に『みなとパーク芝浦』という大きな複合施設があって、そこに併設する芝浦公園で先日撮影をしたんです。空と光(岡田健史)が2人で話をするわりとシリアスなシーンだったのですが、ちょうど近所の保育園や幼稚園のお散歩の時間と重なってしまい、子どもたちがワーッと一気に集まってきて…」

木村「地域中の園児が全員来た!くらいの勢いでしたよね(笑)」

本城「150人くらいいたのではないかと。それで子どもたちは元気いっぱいに遊ぶじゃないですか。あの時の撮影は大変でしたよね?」

木村「あくまでも区民のための公園なので、スタッフには『こちらからは子どもたちをいっさい止めることはできないからね』と言っていました。カメラマンはすぐに状況を察知して、うまいアングルで撮ってくれたんですけど、録音部はもう涙を流しながら対応していましたね(笑)」

本城「ちょうど上空では、大きな音を立ててヘリコプターも飛んでいましたからね(笑)」

木村「やっとの思いで撮影を終えて昼休みに入ったのですが、そのタイミングで子どもたちが全員いなくなったんですよ!あの時は、いまからもう1回撮らせてくれー!という気分でしたね(笑)」

■「ここ10年ほどのドラマでは、今回撮影できたような映像は撮られていない」(木村)

遠藤「僕が感心したのは、港区の指定文化財でもある港区立郷土歴史館ですね。それまで、なかなか行く機会がなかったんですけど、初めて見た時は、たしかにアカデミックな雰囲気があるなと思いました」

木村「私はやっぱり芝公園での撮影ですね。ドラマ制作の仕事をしている人間として、おそらくここ10年ほどのドラマでは、今回撮影できたような映像は撮られていないと思うんです。なぜなら、これまで芝公園での撮影は自転車で通ってはいけないだとか、飲み物を持って歩くのはNG、ましてやこぼしたりして地面を汚すのはもってのほか、という条件があったので…。そこを本城さんが撮影ができるよう調整してくださったので、脚本通りの画が撮れたんです」

遠藤「第1話の、芝公園を歩いている空が転んで、手に持っていたソイペチーノをこぼすシーンの撮影では、プロデューサーの対応がとてもおもしろかったんですよ。まず、地面にマットを敷いて、そこへ空が倒れる。それとは別に、カメラに映らないところでビニールシートを持って待機していたプロデューサーが、ソイペチーノの中身が飛び散る瞬間にバッとシートを広げてキャッチしたんです」

木村「撮影用に2m幅くらいのダミーの地面も作ったんです。ソイペチーノがバシャーっと飛びますから。でも、それをプロデューサー自らが体を張ってキャッチしてくれてました」

遠藤「『阻止しました!』って言ってましたよね(笑)」

――皆さんのお気に入りのシーンやスポットを教えてください。

本城「私は港区役所の11階にある『レストランポート』ですね。碧と空が住むタワーマンションのリビングから見える景色として、レストランポートからの眺めを撮ってくださったんです。あの絶景をぜひ皆さんに見てほしいです」

遠藤「一般の方でも利用できるんですか?」

本城「できます!レストランポートでお食事をしながら、正面にある東京タワーを見ていただくのが、私のおすすめです」

■「映像制作のロケは、人と人とのつながりによって初めて実現する」(遠藤)

――本作を観ていると、港区は東京の真ん中なのに、こんなに下町情緒あふれる場所があるんだと改めて気づかされますね。

本城「意外に思われるかもしれませんが、港区には近代的な高層ビルだけでなく、歴史のある商店街や史跡など歴史的な文化遺産も多くあります。そういう区の良さをドラマをきっかけに知っていただけるのはすごくありがたいです」

木村「やっぱり東京を舞台にしている作品を作るからには、みんなが想像している東京にしたい。これからも本作で描かれているような映像は、東京で撮れるようにしていきたいなと思っています」

遠藤「こういった映像制作のロケは、地域の皆さんとの協力、人と人とのつながりによって、初めて実現することなんです。今回のような組み合わせを作ることが、私たち東京ロケーションボックスのメインテーマなんですよ。今回はまさにその良い例ですし、私自身にとっても財産になりました。本作を機に、また人と人との縁が広がっていくといいなと思っています」

取材・文/石塚圭子

菅野美穂と浜辺美波が仲のよい“トモダチ母娘”を演じる「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」/[c]NTV