成立学園高等学校は、東京都北区にある「中高一貫校」。同校の教育方針は、中学から高校までの六年間で「見える学力」と「見えない学力」両方を育てることを目指す、というものだ。将来の目標を具体的に達成する「見える学力」と、幅広い教養を身に付け発信力を育成する「見えない学力」、その二つを同時に育てて「生きる力」としての突破力を身に付けるのだという。そんな同校では、マルチメディア部の中でチームを作りeスポーツ部活動に取り組んでいる。どのような想いで活動しているのか、顧問・田島祐一先生に話を伺った。

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──まずは部活動の概要について伺えますでしょうか

田島先生 部の名前が「マルチメディア部」ということで、もともとはeスポーツを前提とした部活ではなく、パソコンプログラミングをするようないわゆる「コンピューター部」でした。eスポーツはそこに近しいだろうということで、新たに取り組み始めたわけです。現状、部内は二つの班に分かれおり、一つが従来のプログラミングなどを行う「PC班」と、もう一つが「eスポーツ班」です。現在の部員数は、中高合わせて30人ですね。

──中学生高校生が一緒に活動しているのですか?

田島先生 去年までは高校生中学生が別々に活動していたのですが、今年から一緒に活動するようになりました。中学生の母数が少ないというのはあるのですが、中学生は去年まで1人しかおらず細々とやっていたのが、今年中学生が一挙に6人入部しまして中学生が7人、高校生が23人という内訳です。圧倒的に男子が多く、高校生で女子が3人、中学生で女子が1人であとは男子生徒です。

──高校生メンバーが多いですね。学校では、いつ頃からeスポーツに取り組み始めたのでしょうか?

田島先生 「eスポーツ班」としての活動を始めたのは3年前ですね。きっかけは、全国高校eスポーツ選手権毎日新聞サードウェーブ主催※当時 第三回から毎日新聞・一般社団法人全国高等学校eスポーツ連盟主催 サードウェーブ共催)が始まったことです。当時は、サードウェーブが「eスポーツ部発足支援プログラム」(現・高校eスポーツ部支援プログラム)をキャンペーンとして行っていました。参加申請すると、大会に出場するだけでゲーミングPC5台を3年間無償で貸与してもらえるということで、ゲーミングPCを部員達に使わせてみるのも面白いかな、くらいの気持ちで申し込みました。

 当時は今ほどeスポーツの認知度が高くなかったので、保護者の反発があるかもしれない、と二の足を踏んでいたのですが、校長からも「実際にeスポーツができないだろうか」という打診を受けたのです。新聞などのメディアで目にしたのかもしれません。「校長が乗り気なら、ぜひやらせてもらいます」ということで私が旗振り役となって、eスポーツ班を立ち上げることになりました。

──ご自身から立候補されたと。田島先生もeスポーツに興味があったのでしょうか。

田島先生 もともと私自身もゲームが大好きで、高校時代は勉強よりも友達とゲーム・・・いう学生生活でした。その後も趣味としてゲームを細々と続けていたので、海外でeスポーツがすごく盛り上がっているということは知っておりました。

 ただ、単なるeスポーツではなく、「eスポーツ部」として見たとき、eスポーツ自体が持つ側面と、部活という団体活動が持つ側面の二つの視点があると考えています。

 まず、eスポーツに限っていうなら「ゲームは何の戦略性もなく、ただダラダラやっていると強くなれるのか?」というとそうではない。緻密にリサーチをしたり、検証したり、負けたなら負けた原因を分析・解析したりして、一歩一歩強くなっていくわけです。eスポーツ部に所属する生徒には、ゲームを通じて自己改善のプロセスや物事の戦略の立て方、ムービーなど、さまざまな情報を見てインプットを増やし、その場その場のリアルタイムでの最適な解を導き出す判断力などをeスポーツの活動を通じて身につけていってほしいと思っています。

 一方で学校の部活という側面からいうと、正直部活を立ち上げるときに保護者にどのように説明するか悩みました。保護者から「ゲームを学校でやるのですか」といわれたときにどうするのか、と。そこで、あらためて部活に必要な要素とは何かを考えてみました。

 部活には野球やサッカーといった人気スポーツがありますが、みんながみんなプロを目指しているわけではありません。プロになれなかったら失敗だ、というものでもない。これは、eスポーツについても同じようなことがいえると思うのです。ゲームに打ち込んでプロになれなかったり、試合に勝てなかったりしても、仲間達とともに同じ目標を持って切磋琢磨しあい、その過程で仲間達と絆が生まれたり、一緒に頑張ったことで友情が芽生えたりする。「勝ち負け」や「強くなった」ということ以外のところに部活の醍醐味はあると思うのです。

 一緒に部活としてやっていくことで、それがどんなものでも友情や絆を育めるはず。スポーツに限らず、「競技かるた部」とか「鉄道研究会」とか文化系の部もたくさんありますよね。そういう部ではプロになってお金を稼ぐ、という世界とは遠く、遊びや趣味の要素が強いですが、真面目に取り組んだり、同好の士が集まって目標に向かって頑張ったりすることで友情や絆が生まれるのです。それがeスポーツであっても部活動としての目標は達成できると思います。


●eスポーツが生み出す交流



──遊ぶゲームと部活のeスポーツとは違うということですね。何か明確に線引きをされていることはありますか?

田島先生 結論からいうと大会に出るか、出ないか、で大きく違うと思います。ただ、マルチメディア部では単純にゲームを楽しむことも大切にしています。

 この考え方に至ったのには経緯があって、もともと部を立ち上げたときは部員が少なく、前例もないため手探り状態でした。はじめは全然部員が集まらなくて、「eスポーツはじめました」と告知して「入りたい」といった生徒は1人か2人ぐらい。eスポーツが海外で盛り上がって巨額の賞金が出るゲーム大会がある、という情報はだいぶ認知されていましたが、「自分が大会に出るとなると、そこまでできないよな」という思いがあったのか、初年度はこちらからスカウトする形でしか部員が集まりませんでした。

 「ゲームが好きな奴いるか?」「ゲームがうまい奴いるか?」と生徒に声を掛けて、たどり着いた生徒に「大会に出ないか?」と声を掛けていたわけですが、「eスポーツの大会を目指す」「プロを目指す」ということで尻込みしてしまう生徒が多かったんですね。そこで、発想を転換して「ゲームを使って仲間を増やす」という方向に切り替えました。ゲーマーには、スキルを突き詰めて勝ち上がっていくという思いが強い、いわゆる「ガチ」派と、みんなでわいわい楽しむことに重きを置く「エンジョイ」派がいると思います。まずは「エンジョイ」派を取り込んで、そこから発展させていこうと考え、楽しむことも大切にし始めたわけです。

 ゲームをしていると、知らない人とプレーしているうちに「フレンドになろうよ」という雰囲気になったりすることがありますよね。学校で友達と好きなゲームの話で盛り上がって「じゃあ、お前の家に行って遊ぼうぜ!」という話になることが私の小中学校の原体験でもあります。ゲームが好きな人同士で楽しむ、というのは心を開くきっかけになったりするものです。

 学校の中では内気な生徒も居ます。人と話すことが苦手な一方で、ゲームが上手もしくは好きな生徒が、ゲームの話をしたり、一緒にゲームをしたりすることでクラスメートと心を通わせるきっかけにもなり得るわけです。そして、集まった仲間と交流を広げていく。でも楽しむだけだと目的がないから、その楽しみに慣れてきたら、大会に向けての切磋琢磨など、部活としての要素を体験していこうというスタンスでやっています。

──eスポーツを通じて、どのような時に生徒たちの成長を感じますか?

田島先生 いろいろな場面で感じますが、今年から顕著に感じたのは部長を務める生徒の成長です。彼は、最初eスポーツ班を立ち上げたときに自発的に「やりたい」といい出した数少ない一人です。勉強もできるし、能力も非常に高いのですが、いわゆる「帰国子女」で、イントネーションに育った国の特徴があり、それを気にしているのか、引っ込み思案になっているようでした。彼が育った国ではリーグオブレジェンドLoL)がブームで、彼も小さい頃から親しんでいたことからスキルも高く、部活でもLoLをやっていました。

 LoLは、5人一組でチームを組んで対戦するゲームなので、5人のチームプレーと連携が大切になります。彼は昨年度からチームリーダーを務めていたのですが、今年のチームは彼以外が全員初心者という状況になりました。自分がチームリーダーとして積極的に動かないとチームが強くならないという状況になってしまったのです。

 今まで自分が前に立って引っ張っていくという経験が彼にはあまりなかったようなのですが、状況が後押ししたのか、リーダーシップだとかコミュニケーションとか自分の殻を破っていろいろなことに挑戦してくれたと思います。脇で見ていてとても成長を感じました。私からも補助的な立場として、チームリーダーの役割について少しアドバイスをしたりはしましたが、彼自身よく自分で考えて改善を図るような性格で、いろいろ工夫や試行錯誤をして乗り切っていったように思います。未経験の仲間へのレクチャーや、さりげない指導などいろいろうまくやってくれ非常に良いチームになったと思います。

──eスポーツが交流も生み出すとのことでしたが、留学生を中心にすごいムーブメントがあったとも伺っています

田島先生 そうですね。留学生が参加していたのはeスポーツ班が活動を始めて二年目のときなのですが、そのときは特別に留学生を取り込もうとは考えていませんでした。本校では毎年海外からの留学生を受け入れているのですが、アメリカから留学してきた女子生徒に「スマブラ大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL)」の強い生徒がいたのです。

 その生徒、実はアメリカの高校で「スマブラ部」に所属していたそうで(笑)アメリカの高校には「スマブラ」部がある、というのも驚きだったのですが、その彼女が「マルチメディア部でeスポーツをやっている」というのを聞きつけて見学にやって来たんです。彼女が学校に来て2、3日のころでした。留学生の学校生活の基盤は基本的に「クラス」になるので、学年やクラスが違うとほかの生徒とは本来全く接点がないわけです。偶然ですが、ちょうど彼女が部活を見学に来たときにスマブラをしている生徒がいて「対戦しようよ」という話に。対戦したら彼女は無茶苦茶強くて。部員との関係が一気に深まりました。「この子すごく強いよ」「なんでそんなに強いの?」と。

 その後、その生徒のクラスで「あの子すごいスマブラが強い」と噂になって、クラススマブラの好きな生徒が「自分と対戦してよ」という話になり、彼女のクラススマブラ腕自慢の生徒が、いつのまにかマルチメディア部の部活動にやってくるようになりました。対戦すると、彼女はその腕自慢の生徒も軽々と破ってしまう。さらに、今度は学年の中で噂が広まって、「あのクラススマブラの強い留学生がいるらしい」というわけで対戦したくて部活にやってくるようになりました。口コミがさらに広がって、ほかの学年の生徒が来たり、まったく関係ない部活の生徒とかがやって来たりして。

 当時は週2日部活をしていたのですが、部活のたびに学年も部も違う生徒が、クラスとか学年の垣根を越えて入れ替わり立ち替わりその留学生の女子生徒と対戦するために部活にやってくるようになったのです。最終的に1日に40人以上の生徒が来ていたと思います。のべ人数でいうと100人以上になっているんじゃないでしょうか。

 そして、1回でも対戦すると、もう友達です。その後に校内で会えば声を掛けたり、立ち話をしたりと、彼女は学校の人気者になっていました。留学生は孤立しがちですが、eスポーツを通じて彼女は一気に友達が増えた。言葉を超えたつながりが出来ましたね。

──学校でゲームができないとそうはなりませんね。

田島先生 そう思いました。たまたまの偶然が重なっているのですが。そもそもeスポーツの部活でスマブラなんて取り扱ってなくて、たまたまスマブラを持ち込んだ生徒がいた。そして対戦を申し込んだ。いろんな偶然が重なってどんどん交流が広がっていくのを見て正直これはすごいな、と。eスポーツの周辺環境として、ゲームは世界で共通のものであるがゆえに起こった「事件」ですね。

●救急車で2度運ばれてからの転身



──担当されている教科や先生になられた動機など、先生のご自身のことを伺ってもよろしいですか?

田島先生 私は、「情報」の教科を担当しております。今、普通科高校でも情報の教科が必修となっておりまして、PCとかSNSとかITリテラシーを中心に教える教職をしております。

 もともと小学校高学年からコンピューターエンジニアになることが夢で、中学生高校生は自分でPCを何台も組むような「パソコン少年」でした。当時、ゲームの表現が点で描かれた2Dドットゲームから3Dのポリゴンに移行した時期で、コンピューターとかその背後の動作とか、どうしてこんなに心を打つゲームミュージックができるのか、などに惹かれたんですね。その後、情報系の専門学校に進学し、いくつかの国家資格を取得したのち、コンピュータエンジニアとして企業に就職することができました。

 ただ、実際のところその労働環境は非常に過酷なもので、自分の進路を見つめ直すことにしたんです。実は、救急車には2回もお世話になっていて(笑)

──救急車で運ばれたらかなり衝撃ですよね。

田島先生 1回目に倒れたときは「これから気をつければまだまだやれる」と思っていたのですが、2回目に運ばれてさすがにこれはまずいな、進路を変えないと、と感じました。自分を見つめ直したときに自分の過去なりたかったものとか、自分の個性やいろいろ能力を鑑みると高校の先生、特に情報の先生って良いなと気付いたのです。情報技術がずっと好きでしたし、自分自身のコミュニケーション能力などをいろいろ生かせるのではと考えて高校の先生を志したのが25歳の時でした。26歳のときから4年間フルで大学に通いまして、教員免許を取り終えたのが30歳。いくつか学校を経験して4年前に成立学園の先生に就きました。

 もともとゲームが好きでずっと趣味でやってきて、そのうちパソコンになって、そしてまたeスポーツをみることになってまたゲームに戻ってきて、不思議なご縁を感じています。現在、子供が産まれてしまうと、なかなかゲームに時間を割けなくなってしまいましたけどね。

──先生が学生時代のゲーム環境はどのような状況だったのでしょうか?

田島先生 私がゲームをしていた90年代前半、中学生高校生の頃はゲームの大ブームで、特にゲームセンターに置いてある「アーケードゲーム」が全盛期の頃でした。「ストリートファイター」や「キングオブファイターズ」などが人気で、学校が終わるとゲームセンターに通い、そこで知り合った人と対戦するというのが当時のトレンドでしたね。家庭用のゲーム機も「ファミコン」や「スーパーファミコン」から始まって「PlayStation」の1・2や「セガサターン」などが出ており、そうした家庭用のゲーム機に加えて地元のショッピングセンターゲームコーナーに置かれているアーケードゲームで遊ぶ毎日でした。当時のゲームセンターの熱気は大変なもので街中のおもちゃ屋さんに対戦台や『ストリートファイター2』のゲーム台が置かれて、対戦の熱が盛り上がっているような状況でした。中には地元で20人抜きとかするような猛者もいて、より強い相手を求めて遠征する人もいましたね。

 1992年両国国技館ストリートファイター2の全国大会がありましたが、これまでの熱狂がこれだけ大きな大会につながったんだと思います。私も別のゲームで大会にエントリーしたのですが、残念ながら地元の店舗代表にはなれませんでした。強い人が同じゲームコーナーにひしめいていたんですよ。


●ゲームと勉強の関係性



──当時の状況を踏まえると、現在のeスポーツの状況をどのように感じますか?

田島先生 とてもうらやましいな、というのが正直なところです。当時はそれだけ熱狂していたにもかかわらず、ゲームを一生懸命やるのは社会悪と見られる風潮がありまして。「ゲームと勉強とは相反するもの」という認識が世の中に蔓延していたんです。「ゲームに打ち込んでも何もならない」とよくいわれました。ゲーム大会もありましたけど、世界中で盛り上がっているわけでなく、莫大な賞金があるわけでもなく、趣味の延長でマニアックな人がやるものというのが社会的な認識だったと思います。

 なので、それに比べると状況は世界規模でものすごく変わっています。日本ではまだ「ゲームと勉強とは相反するもの」という認識が根強く残ってはいますが、一方でeスポーツとしてプロ選手・職業としてお金を稼いでという世界が生まれて、「そういう世界もあるよね」という認識がどんどん進んでいると思います。

──先生はゲームと勉強が相反するものという声についてどう思われていますか?

田島先生 そういわれてきて、自分はゲームが好きだったからこそとても悔しかったですね。「ゲームがうまい奴は頭も良いんだぞ」という思いがあって、「頭が良い=勉強ができる、ということだけじゃない。したたかさであったり、戦略性であったり、勉強とは違う頭の使い方が優れているからこそゲームが強いんだ」と証明したいという強い気持ちがありました。

──しかし、保護者の方々は「ゲーム依存」などの面で不安に感じていることが多いですよね

田島先生 あらためて申し上げますが、「勉強とゲームが相反するもの」という考えは未だに根強いです。ゲームは際限なく取り組めてしまったりするので、のめり込みすぎてしまうと、勉強の時間や家族とのコミュニケーションの時間や、人によっては学校に行く時間をも捨ててゲームに没頭してしまうなんてことが起こるのだと思います。そこが、「ゲーム依存」の怖いところなんじゃないでしょうか。ですから、eスポーツ班の生徒達に始めに必ずいっているのは「文武両道できてこそのeスポーツ班」ということです。

 保護者が不安に思われて気にしておられるのは、「ゲームと勉強が両立できるのか」ということだと思うのです。成績が下がってしまうと、保護者は「eスポーツなんてやらせるんじゃなかった」と考えてしまいますので、そういうことが起こらないように対策しています。定期試験で赤点になっていないか、出席の状況、提出物の状況など、担任の先生に普段から密に話を聞いて、生徒一人ひとりの学校生活で、ゲームにハマりすぎて生活が破綻することのないよう常に見守っているような状態です。「担任の先生」と「保護者」と「部活の顧問」である私の三つの視点のうちどれかで良くない兆候、おかしな様子が見えたら、その生徒は部活を中止してやるべき課題をしっかりこなしてから部活をするようにしています。活動時間の3時間のうち、はじめの1時間は部活をして良いけど、残りの2時間は自習スペースで自習するように、なんてことしています。

 「目の前にニンジンをぶら下げる」ではないですけど、やりたいことをやるためには、絶対こなさなければならないものをやらなければ、という認識を高校生であっても必ず身につけさせないと、と考えています。好きなことをやるためには勉強などやるべきことをしっかりやらなければならない、と普段から話をしています。


●対戦相手は自分を強くしてくれる“師匠”



──サッカーや野球の部活でも、学業の成績によってはレギュラーから外されることがあるそうですね。その他、特に指導されていることはありますか。例えば、ゲーム中に言動が荒くなる人もいますよね。

田島先生 そうですね(笑)。確かにそういうことはあります。私から常にいっているのは顔の見えない相手であっても敬意を払うことが大切、ということです。チームチームで戦っていると、相手は倒すべき「敵」なので、攻め込んできたり、相手が有利になったりすると、その相手を呪うような言葉が出がちではあるんですけど。そこは顔の見えない相手も同じ高校生で同じような境遇で戦っていたりするわけで、相手の方が強いということは、当然相手の方が鍛錬したり、努力をしたりしてそういう状態になっているので「荒い言葉を掛けていいはずはないよね?」といっております。

 私自身、中学高校と剣道をしておりまして、剣道は礼節をすごく大切にする武道です。その経験を踏まえて「敵」というのは、自分を鍛えてくれる存在であり、師匠でもある大切な存在なんだと。慈しみの念を持って試合の後には「ありがとうございました」という感謝の気持ちが大切なんだといっています。

──“礼に始まり、礼に終わる”ですね。何においても、大切な考え方だと思います。ちなみに、部活の運営には課題やお悩みなどありますでしょうか?

田島先生 一番はやはり機材ですかね。部活動では毎年予算が出ますが、運動部や部員の多い部活であっても10万円から15万円弱ほどです。なので、無料レンタルなどのバックアップは部活を立ち上げる際に必要だと思います。ある程度の台数のゲーミングPCを整えようとすると、50万円とか100万円とか掛かってしまいますからね。現在は、部費から毎年中古のPCを購入してやっていくという方向で拡充してきました。

 もう一点は、改善しつつありますが他校との交流試合なども開催しづらい状況もあります。交流試合の難しさは同じぐらいの強さのチームを見つけるのが難しい、ということですかね。いきなり強いチームと戦うと返って部員がやる気を無くしてしまうので……。あとは、生徒達のモチベーションを上げるための何かが欲しいなというのはあります。大きな大会ではなく、地区予選が2カ月に1回ぐらいあるとか、小さな大会があると生徒達もモチベーションが上がるのかなと思います。

──今お話しにあがりましたが、新型コロナの部活への影響はどうでしたか?

田島先生 昨年の四月の始めに緊急事態宣言が出ていましたけれど、本校ではわりと早い時期に部活が再開できました。オンライン部活ということでZoomを使いました。そのときにスマブラで新規入部希望者が20人くらい来て、一人配信機材を持っている生徒がいたので、Zoomでレクリレーションのような感じで対戦する生徒と観戦する生徒で部活をしました。コロナ禍であっても変わらず練習や部活ができるのはeスポーツならでは、だなと思いました。

 今年はコロナの影響で通常の学園祭が行えず、オンラインで学園祭が行われました。実は、マルチメディア部では一昨年の学園祭でオフラインの大会を行ったことがあったのです。講堂で椅子を並べて大画面のスクリーンゲームを映し出して実況と解説を付けて実施したことがあったのですが、去年はそれをオンラインで配信しようということになりました。学園祭自体は生放送オンライン配信で、その一番組として、マルチメディア部の出し物でスマブラ大会の中継実況をやっていました。

──最後にeスポーツ班の活動で通じた目標を教えてください。

田島先生 ゲームを通して情報技術・情報分野に興味を持ってもらうことで、そちら方面の将来が開けたらいいなと思っています。

 学校って勉強のできる生徒や運動ができる生徒ばかりが注目されるじゃないですか。逆にいえば、そういうところでしか能力を評価する基準がないともいえます。でも生徒の中には、内気だけどゲームが好きで配信の編集技術がすごく上手な子とか、うまくはないけどゲームが好きでしゃべることが得意だったりする子もたくさんいます。学園祭を見ていた中でも、配信や実況、技術的好奇心など、さまざまな生徒の個性が光る場面がありました。そういうさまざまな個性が、eスポーツに関連して勃興する産業の中で生かされ、彼らの将来につながることがあると嬉しいなと思います。

 直近のeスポーツではプレーヤーだけが注目されがちですが、きっとeスポーツを取り囲む社会情勢も変化していき、プレーヤーだけでなく配信やイベントなどが注目される新たな産業や雇用が興ってくるのかなと思っています。プロプレーヤーだけが進路じゃないぞと。将来が楽しみです。
成立学園高等学校 マルチメディア部 eスポーツ班