毎年のように大規模な自然災害が発生し、多くの人々が避難生活を余儀なくされてきました。避難所において後回しになりがちな多様性への配慮、コロナ禍における感染防止対策など,いま避難所の在り方は大きな見直しを迫られています。1月末にオンラインで開催された本シンポジウムでは、避難所で必要とされる人権への配慮をテーマに、基調報告とパネルディスカッションが行われました。


■外国人の困りごとに学ぶ、包摂的な場作りのカギ
一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事
田村 太郎さん
数多くの避難所へ支援に伺う中で、私は何度も外国人が困難に直面するシーンを見てきました。

まず、災害が少ない国で育った人たちは、災害時にとるべき行動についての知識がありません。次に、非常時は日常会話で使わない単語が多用され、状況の把握や周囲との意思疎通が困難になりがちです。加えて、文化の違いがトラブルを生むこともあります。宗教によって食べられないものがあったり、アルコール消毒液が使えないのは理解されづらいですし、日本の風習にならわない行動をしてトラブルになるケースも多いのです。

こうした課題への対策として、避難所の掲示物やアナウンスを多言語にすることは効果的といえます。外国人は「日本人以外が避難してくることが想定されている」と安心し、日本人は「異なる文化の人と共存する場である」と心構えができるためです。

今回は主に外国人への配慮についてお伝えしましたが、人の属性はグラデーションであり、一人一人が違うという前提に立って、「どこかで取りこぼしがあるんじゃないか」と思いながら避難所を運営することが、結局は色々な方が安心して避難できることに繋がっていくのではないでしょうか。

■官民の連携で災害時も人に優しい都市へ
仙台市危機管理室参事兼防災計画課長
田脇 正一さん
東日本大震災の際、災害対応のための人員や、様々な避難者を受け入れるための視点などが不足していることが明らかになりました。そのため、震災後は地域の方々との連携を重視して対策を進めています。例えば、学校などの施設の管理者・地域の町内会・市役所の三者からなる「避難所運営委員会」を指定避難所ごとに結成しました。この委員会は、実際に災害が起きたときに役割を分担して避難所の運営に当たるほか、地域の実情に即した避難所運営マニュアルを作成し、その内容の定期的な見直しも行っています。

また、高齢者や障害者の安否確認や福祉避難所のマッチングを迅速に行うことも重要です。そこで、避難にサポートが必要な方の情報を地域と共有し、協力して支援に当たる体制を築いています。

先の震災時は「安心して着替えられる場所がない」「女性用の衛生用品が不足した」など、女性の困りごとも多く聞かれました。現在は、女性の視点を取り入れることを地域防災計画に明記し、プライベートルームの導入を含む対策の拡充を進めています。

これからも、地域の皆さまと協力しつつ、より多くの視点を取り入れた災害対策に注力していきます。

■市民保護の理念の下に“TKB”の充実を
新潟大学医歯学系血管病・塞栓症治療・予防講座特任教授
榛沢 和彦さん
避難所の設備には様々なものがありますが、中でも私が特に充実させるべきだと考えるのは「トイレ・キッチン・ベッド」の3つで、頭文字をとって「TKB」と呼んでいます。

衛生的でバリアフリーなトイレがあれば、災害弱者に配慮しつつ、感染症等も予防できます。キッチンで作る温かい食事は心と体を元気にしてくれますし、簡易ベッドを使えば床で寝るより体温を保ちやすく、エコノミークラス症候群や肺炎などのリスクも抑えられるのです。

災害時、これらの物資を迅速に被災地へ届けるには、備蓄の充実はもちろん、災害発生直後から現地で活躍できるボランティアスタッフが不可欠です。こうした体制を整えるためには、「災害時は国民全員で被災者の命を守るために行動する」という“市民保護”の理念を根付かせるための教育が不可欠だと考えます。

例えばイタリアでは、備蓄の管理やボランティアを指揮する公務員の育成、子どもたちへの災害教育は、防災の専門省庁が担っています。日本でもそのような仕組みの導入を検討する必要があるのではないでしょうか。

■命を平等に保護するため、差別や偏見の撤廃を
浄土宗光照院住職 ひとさじの会 事務局長 吉水 岳彦さん
2019年10月、台風19号が関東に上陸したとき、「ホームレス」の男性が台東区の自主避難所の利用を拒否されたことが物議をかもしました。台東区災害対策本部のスタッフは「避難所は区民の施設であって、住所がない人は利用できない」と断ったのです。

この出来事はSNSで拡散され、海外のメディアでも取り上げられるような国際的なニュースとなり、直後に台東区長が謝罪し、今後の対応については、路上生活者を支援する団体のメンバーを交えて継続的な話し合いが行われることになりました。

ホームレス」の人たちに「すべての避難場所が利用可能であることが約束される」「避難に必要な情報が記されたチラシを配布する」など、既にいくつかの改善がなされていますが、命を守りつなぐための課題は山積みの状態です。

生活様式の違いや、偏見によって命を選別するようなことはあってはなりません。すべての命を守る避難所作りのためには、困っている人の気持ちを対等な立場で真摯に受け止める姿勢が大切だと思います。

■万一の際に助け合えるよう日頃から他者への関心を
歌手・俳優・実業家
はるな 愛さん
これまでタレントとして、全国の多くの皆さんから応援していただいてきましたので、大規模な災害が起きた時には、できるだけ各地の避難所にお邪魔して、恩返しをさせていただいています。

西日本豪雨の際、避難所に来られていた女性がすごく言いづらそうに「愛ちゃん、ヨーグルトをもらえたりしないかな?避難生活のストレスでお通じが悪くなって…」とおっしゃったんです。そういうふうに、被災地ではなかなか言い出しづらい困りごとを抱えた人も多いので、いろんな声をすくい上げるリーダーが必要だと痛感しました。

また、いざという時に“共助”をできるようにするためには「隣の方はどんなことに困っているんだろう?」「お体が不自由なのかな」などと、日頃から周囲の人々に関心を持ち、視野を広げることが必要だと思います。阪神・淡路大震災の時には、ニューハーフの人たちが避難所やお風呂を利用できなかったと聞いたことがあります。世の中には色々な人がいるということを理解し合い、違いを尊重し、みんなで「誰も排除しない」という気持ちを持って、次の災害に備えることが大切ではないでしょうか。

■「多様性」を生かしてもっと危機に強い社会へ
フリーアナウンサー・記者
藪本 雅子さん

1990年代テレビ局に入社した私は、アナウンサーとして主にバラエティ番組を担当していました。しかし、1995年1月に発生した阪神・淡路大震災を現地で取材したことで、人生観が一変しました。その後は自ら希望して報道局の記者になり、現在もフリーで記者活動をしています。

このシンポジウムでは特に「避難所」に焦点を当てて皆さんのお話を伺いました。その中で私は「多様性」こそが、必要なケアを受けられずに苦しむ人を減らすためのキーワードなのだと感じました。女性や外国人、障害者、高齢者など、社会的に立場の弱い人こそ災害対策のリーダーとして活躍してもらうことで、多角的なケアが可能になり、危機により強い社会が構築できるのではないでしょうか。

「大規模な災害が起きたらどうするのか」ということは、コロナ禍に見舞われている今こそ、改めて考えるべき課題だと思います。この催しに参加した私たち一人ひとりが、一つずつでも自分にできることを考え、実践していけば、きっと大きな力になると思います。本日はどうもありがとうございました。

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