ディズニー・アニメーション最新作『ラーヤと龍の王国』が、映画館&ディズニー公式動画配信サービス「ディズニープラス」プレミア アクセスにて同時公開中だ。“龍の王国”の守護者の一族に生まれたラーヤが、崩壊しつつある世界のなかで龍の力を蘇らせて再び人々の心をつなぐため、伝説の龍であるシスーと共に、平和を失いバラバラになってしまった王国クマンドラを旅する本作。2019年夏、ディズニーのコンベンション“D23”での制作発表の際に、“ディズニー初の、東南アジアの文化にインスパイアされた物語”として紹介されていたことを印象深く覚えている。当時北米公開されたばかりで大ヒットしていたルル・ワン監督の『フェアウェル』(19)で注目されたオークワフィナがシスーの声を担当することにも興味を惹かれた。

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あれから1年半、その間に世界はすっかり様変わりし、『ラーヤと龍の王国』の公開も当初の予定よりも半年延期されてしまった。監督を務めたドン・ホール(『ベイマックス』)とカルロスロペスエストラーダ(『ブラインドスポッティング』)、そして戯曲出身の脚本家クイ・グエンの3人は、「いま以上に、この映画を観てもらうのに最適なタイミングはない」と口を揃える。MOVIE WALKER PRESSではリモートインタビューを敢行し、今作に込められたクリエイターたちの想い、そして作品がはらむテーマの現代性について語ってもらった。

■「この映画の芯には、“信頼”がテーマとしてあります」(ホール)

――この映画を制作するにあたり、何度も東南アジア諸国を取材旅行されたと聞きました。その経験はどのように映画に反映されていますか?

ドン・ホール(以下ホール)「この映画の企画は6年前に始まっていて、僕ら3人が本格的に参加したのは1年半前のことでした。企画チームは3、4回旅に出たと聞いているけど、去年1年は実質みんな家のなかで過ごしていたので、3人とも取材旅行には行っていないんです。しかし、チームが取材旅行で得てきたものは映画のインスピレーションの源になっていて、チームが出会った人々や食べたものなど、東南アジアの様々な文化に影響を受けています。特にメンバーの一人が撮影していた、真っ赤な太陽が地平線に沈んでいく様子には多大な影響を受けました。また、この旅で出会ったうちの何人かは、“ストーリー・トラスト(脚注:アイデア出しをするディズニー・アニメーション内のクリエイティブ・グループ)”に参加し、ストーリー、キャラクターデザイン、環境デザインなど多岐にわたって貢献してくれています。ファンタジー作品であっても可能な限りリアリティのある映画にしたいというのは、我々全員の願いでした」

――主に演劇界で活躍されてきたクイ・グエンさんと、放送禁止用語が連発されるような作品で注目を集めたカルロスロペスエストラーダ監督は、ディズニー・アニメーションのクリエイターとしては非常にユニークな経歴をお持ちですよね。どのようにしてこの世界に入ったのですか。また、ディズニーの先輩であるドン・ホール監督はあなた方をどのように導きましたか?

カルロスロペスエストラーダ(以下エストラーダ)「ドンは、全く助けてくれなかった…冗談です(笑)。クイと僕は数か月くらいの差でこのプロジェクトに参加したんですが、最初はまるで、ディズニー映画制作の集中講座に入れられたような状態でした。兼ねてからディズニー流の映画制作には興味を持っていたのですが、僕がいままでやってきたものとは全く違う特別な方法でした。とても多くの人々が関わり、多くのツールで多くのアイデアをまとめ、なにより多くのコラボレーターがいる。すばらしい体験だったけれど、ディズニー内部の仕組みを理解できるようになるまでには、本当に時間がかかりました。すでにディズニーで何本か映画を撮っていて、社歴も長いドンは本当にありがたい存在で、ディズニーのやり方に僕らを導いてくれました。学ぶことがたくさんあったので時間がかかったけれど、最終的にはスタッフとスタジオ全体が一つのチームになったように感じています。僕たちが多くの時間を過ごしたスタッフ・ルームでは、メンバーそれぞれが持つ独特な感性が交差していて、それが本作の多様性につながっているのでしょう。少なくとも僕にとっては、これまでに観たどの映画とも異なる作品になっていますね」

クイ・グエン(以下グエン)「私にとっても、ディズニー作品の脚本を書くことは想像と全く違う体験でした。私は演劇やテレビの出身ですが、ディズニー・アニメーションのやり方は、映画業界でもっとも協働的だと言われているんです。作業の最初から最後まで決められた物語はなく、常にディスカッションを繰り返しながら脚本を書き上げていく。ドンは間違いなく、ヨーダオビ=ワンガンダルフのような、知恵を持った長老のような存在でしたね(笑)」

――お二人にとってメンターのような存在だったのですね。ではホール監督はいかがでしょうか?

ホール「二人とは、会ってすぐに意気投合しました。いつもこんな感じでお互いにジョークを言って笑いあって、アイデアを出しあい、挑発しあうなかで、一日の終わりにものごとが決まっていく…というような日々でした。この映画の芯には“信頼”がテーマとしてあって、ラーヤのキャラクターについても、一匹狼のストイックな戦士ではなく、時にはしかめっ面をするし、風変わりな性格にしたいという考えも一致していました。二人ともアニメーション制作の特殊なプロセスに迅速に対応していたと思いますね。カルロスは、絵コンテからの指示を的確に演出に落とし込める監督でした。僕が絵コンテアーティストから監督になった時には、とても大きな壁を超えることを余儀なくされた覚えがあります。アニメーション監督としての技術を習得するのに、とても時間がかかったんですね。しかし、カルロスは最初から本能的にシーンを把握しており、すごい速さで明確な演出ができるようになったのに感動しました」

エストラーダ「ドン、あなたのおかげですよ!」

■「『ミナリ』とテーマが共通することには、表現が背負う宿命を感じました」(グエン)

――3人には大きな信頼関係が築かれているようですね。『ラーヤ』は6年前に企画された物語ということでしたが、いまこの映画が世に出ることに意味があるような気がしました。

グエン「この映画を公開するのに、これ以上のタイミングはないと感じています。私たちは1年半前に本格的な制作に入りましたが、テーマは現在世界が置かれた状況とリンクしており、いま皆が必要だと感じていることが描かれています。この分断されたいまの社会情勢において、(映画が描いている)非常に希望に満ちた視点を含めて、お互いが対話を始めるきっかけになればと思っています。僕たちの映画がそのために少しでも貢献できればいいと思いますし、それだけの価値がある作品だと自負しています」

エストラーダ「子を持つ親の立場としては、この映画が生きていくため重要なことについて子どもたちと会話する糸口になると考えています。ドンが監督した『ベイマックス』がまさにそんな映画でしたね。『ベイマックス』では悲しみを癒すことを、『ズートピア』では偏見を持たないことを、そして『ラーヤ』は信頼と希望について、家族が話し合うきっかけになるといいですね」

ホール「僕らは1年半前にミーティングで出会い、“信頼と団結”をテーマに選びました。新型コロナウイルスが流行している世界の現状と非常にリンクするテーマですが、その当時はもちろん、パンデミックなんて想像もしていませんでした。ですから、映画を作る過程はこの物語のタイムリーさに驚かされる日々でした。僕もカルロスが言っていたように、この映画には人々がいま話し合うべきテーマが内包されていると感じています」

――日本で2021年に公開される『ノマドランド』(3月26日公開)も『ミナリ』(3月19日公開)も、奇しくも団結と信頼というテーマを持っています。映画の同時代性について考えることはありますか?

グエン「『ミナリ』は愛さずにいられない、本当にすばらしい映画だったと思います。私はアーカンソー州出身なんですが、あの土地で農業を営む韓国人移民の物語は、私自身の物語ととても近かった。映画を作るものは等しく、全くの白紙からスタートするものです。なのに、相当な時間をかけて映画を作った末、同じような時期に同じようなテーマの作品が世に出るというのは、表現が背負う宿命のようなものを感じます。人々が『ノマドランド』や『ミナリ』について語る際に、私たちの映画も加えていただければ本当に光栄ですね」

■「“想像力”は、世界が再び門を開いたときに、新しいものを生みだす糧になる」(エストラーダ)

――このパンデミックは、私たち大人にとっても大変辛い状況ですが、子どもたちは、友達に会うことも、外で遊ぶことも、学校に行くことも自由にできなくなってしまって、とても苦しい思いをしていると思います。この映画が、いまの世界と共存していかなければならない子どもたちにどのような力を与え、励ましになることを願いますか?

グエン「私の子どもたちはまだ幼いんですが、 自粛生活が1年間にも及ぶと、ほかの子に会うことに恐れを感じ始めているようです。この映画のテーマの一つは、“自ら手を差し伸べて、友達を作ること”なので、ラーヤは旅すがらトゥクトゥク、シスー、ノイ、ブーンといった仲間たち、そして最終的には敵対してしまったかつての友人、ナマーリに出会うわけです。大人たちが“信頼”について子ども達と会話する際には、『私たちは、新しい友達に出会うため、世界に飛びだすことが出来るんだよ』ということを付け加えてもらいたいと思います。ラーヤは“人を信じること”について、パンデミックのなかで子どもたちが感じているのと同じような恐怖を抱えているのだと思います。彼らに伝えたいことは、ある程度以前のような生活が戻って学校へ行った時、友情に対し自分自身が向き合うことを恐れてはいけない、ということ。だから、この映画が公開されるのにいま以上にうってつけのタイミングはないと思っています。私も子どもたちと、映画を観てなにを感じたのか話し合おうと思っています」

エストラーダ「人間が持つ“想像力”は、ひどく過小評価されていると感じています。想像のなかで新しい世界を旅して、新たな仲間やキャラクターに出会うことができるのは、とても美しいことだと思うんです。子どもの頃の僕はディズニーアニメーション映画がきっかけで映画監督になろうと思ったのですが、夢が実現したいま、人々の想像を超える世界を作るという映画制作の仕事を、とても尊いものだと感じています。コロナ禍で子どもたちが抱えている辛い思いは、やがて世界が再び門を開いた時に、自分が持つ才能を開花させ、新しいものを生みだす糧になる気がしているんです。この映画が、未来をよりポジティヴにとらえ、生きていることの尊さについて考えるきっかけになればいいなと思っています」

取材・文/平井伊都子

『ラーヤと龍の王国』と『ミナリ』に通底するものとは?/[c]2021 Disney. All Rights Reserved. [c]2021 Disney and its related entities