様々な理由から日本公開が見送られてしまう傑作、怪作をヒューマントラストシネマ渋谷をメインスクリーンとして上映している毎年恒例の企画「未体験ゾーンの映画たち」。今年もユニークな作品が数多く並んでいるが、なかでも注目したいのがグァルティエロ・ヤコペッティ監督によるモンド映画たちだ。

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■ヤコペッティ監督とモンド映画

グァルティエロ・ヤコペッティは、1960年代を中心に活躍したイタリア人監督。もともと雑誌のジャーナリストをしていたヤコペッティは、『世界の夜』(59)、『ヨーロッパの夜』(60)など、クラブやストリップヴォーヴィルショーなどナイトライフの様子を記録した“夜もの”と言われる作品の脚本を手がけ、映画界に進出していく。

ヤコペッティはその後、この“夜もの”を発展させた“モンド映画”と呼ばれるジャンルで一大ブームを巻き起こしていく。モンド映画とは、世界各地のショッキングな風俗や珍しい風習、野蛮な行いなどを記録したドキュメンタリーのことで、インターネットのない1960年代、いわゆる見世物小屋のような好奇心を掻き立てる作品としてブームを巻き起こした。

1962年のヤコペッティ監督作『世界残酷物語』の原題“Mondo Cane”(「犬の世界」という意味)から取って、モンド映画と言われたこのジャンル。ドキュメンタリーとは言いつつヤラセも交えられており、過激な映像が収められているという点が大きな特徴だ。

また、そんな映像に似つかわしくないような流麗な旋律の音楽が流れるのも、モンド映画の定番の一つ。過度な演出によって心に迫るショッキングな映像と美しい音楽が合わさることで、観客の感情を揺さぶっていくモンド映画は、『世界残酷物語』のヒットもあって(リズ・オルトラーニによる主題曲「モア」はアカデミー賞にノミネートされたほど)、同様の作りをした映画が量産されていくことになる。

■人間の残酷な姿をえぐり出す!激ヤバ映像のオンパレード

今回の「未体験ゾーンの映画たち」では、ヤコペッティ没後10年企画としてこの『世界残酷物語』をはじめ、『続・世界残酷物語』(63)、『さらばアフリカ』(66)の監督作3本がHDニューマスター版として上映されている。

モンド映画の原点『世界残酷物語』は、上記の通り、おもに世界中の様々な奇習が盛り込まれたもので、台北の犬肉レストラン、ネパールの牛の首を切る祭りなどの衝撃的な映像が続いていく。さらに、情けない酔っ払いたちや原爆実験で方向感覚を失ったウミガメといった映像で、人間の罪深さをメッセージとして伝えていく。

その続編となった『続・世界残酷物語』は、前作で未使用だったフィルムを用いて製作された作品で、サイゴンの僧侶焼身自殺シーンなど、よりエスカレートした映像を挿入。動物やエキゾチックな風習を捉えた映像が多かった前作に比べ、より先進国(おもにアメリカ)に対する冷ややかな視線が盛り込まれている。

ちなみに本作が作られた当時、ヤコペッティは交通事故で入院していたため、実際に監督したのはパートナーのフランコ・プロスペリとも言われている1作だ。

そして、ヤコペッティ最大の問題作ともいえるのが『さらばアフリカ』だ。ヤコペッティが3年もの月日を費やしたという本作は、独立運動が激化したアフリカ諸国の実態と混乱の様子にカメラを向けたもの。ヤコペッティが命の危機にさらされながらも撮影した虐殺の様子など、これまでとはケタ違いに重みのある内容となっている。

しかも本作には、本物の処刑シーンがフィルムに収められているため、ヤコペッティは殺人教唆の罪で告訴されてしまうことに。無罪となったがヤコペッティだったが、このことからドキュメンタリーからは退き、『ヤコペッティの残酷大陸』(71)などドキュメンタリー風の劇映画というスタイルで、その後も人間の残酷な性をあぶりだしていくことになる。

過度な演出が多いため批判も集めたヤコペッティだが、そのショッキングな映像から観客が受ける衝撃や感情は本物。だからこそ多くの人をいまでも引きつけて止まないのかもしれない。

文/サンクレイオ翼

『世界残酷物語』をはじまりとするショッキングなモンド映画の世界/[c] RTI 1962