「おいしい」と評判で、メディアにも取り上げられる飲食店ではよく、店の前に入店待ちの行列が見られます。人気店ほど行列も長くなり、1時間近く待つようなこともありますが、長い行列ができる飲食店で、複数人で訪れた来店客の代表1人が行列に並び、入店できそうな段階で全員を呼び寄せ、一緒に入店する光景を見かけることがあります。しかし、後ろに並んでいる客にとっては、呼び寄せられた人数分だけ入店する時間が遅くなるため、たまったものではありません。

 こうした行為はモラル違反にとどまらず、違法とはならないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

軽犯罪法適用は?

Q.そもそも、行列に割り込む行為は違法なのでしょうか。

佐藤さん「行列に割り込む行為の中でも、悪質なものについては軽犯罪法違反になる可能性があります。軽犯罪法1条13号は『威勢を示して』『公共の乗り物、演劇などの催し物、割り当て物資の配給』を待っている公衆の列に割り込んだり、その列を乱したりする行為を禁じています。

『威勢を示して』とは簡単に言うと、人を恐れさせることです。例えば、列に並んでいる人たちに暴言を吐いたり、威圧的な態度を示したりする場合が該当するでしょう。その他、各地の条例で一定の割り込み行為を禁じていると考えられ、その場合、条例違反に問われる可能性があります。

ただし、飲食店にできた行列に割り込んだ場合は『公共の乗り物、演劇などの催し、割り当て物資の配給』に該当しないため、軽犯罪法違反には問われません」

Q.では、人気の飲食店に訪れた複数人の代表1人が行列に並び、入店できそうな段階で全員を呼び寄せて一緒に入店することも、軽犯罪法違反には問えないのでしょうか。

佐藤さん「先述した通り、飲食店にできた行列に割り込む行為は『公共の乗り物、演劇などの催し物、割り当て物資の配給』に該当しないため、軽犯罪法違反には問われません。これは、どんなに人気の飲食店でも同様です。

これが仮に電車やバスを待っている場合で、代表1人が行列に並び、順番が来そうな段階で全員を呼び寄せて割り込む行為であれば話は別です。例えば、呼び寄せた人が、後ろに並んでいる人から『順番を守れよ』と言われ、威圧的な態度で反抗した場合などは、軽犯罪法違反に当たる可能性もあるでしょう」

Q.電車やバスの行列に割り込んで軽犯罪法違反に当たると判断された場合、どれくらいの量刑が科されるのでしょうか。

佐藤さん「先述した軽犯罪法違反については、拘留や科料が科される可能性があります。拘留とは、1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置する刑です(刑法16条)。科料とは、1000円以上1万円未満の金銭を徴収する刑です(同17条)。『1000円ぐらいか』と軽く考える人もいるかもしれませんが、有罪となれば前科がつきます」

Q.威圧して割り込むのではなく、さりげなく無言で行列に割り込んだり、「すみません…」などと言いつつ、低姿勢で割り込んだりする場合も違法行為になり得るのでしょうか。

佐藤さん「さりげなく無言で行列に割り込んだり、低姿勢で割り込んだりする場合、『威勢を示して』には該当せず、軽犯罪法違反にはならないでしょう。

ただし、法律で刑罰を定め、禁じている行為は、社会生活を営む上で特に問題のある一部の行為に過ぎません。法律で禁じられていなかったとしても、周囲に迷惑をかける行為は道徳上問題があり、マナー違反です。みんなが気持ちよく生活できるよう、マナーを守ることが大切です」

Q.割り込み行為が実際に立件されたことはあるのでしょうか。

佐藤さん「軽犯罪法違反の罪で起訴に至ることはありますが、数は多くないでしょう。割り込み行為についても、それだけで立件に至ることはあまりないのではないかと思います。ただし、威圧的に所定の行列に割り込めば違法であり、起訴される可能性のある行為です。単なるモラルの問題ではなく、法的責任を問われる可能性がある行為と認識する必要があります。

また、たとえ法律で禁じられた割り込み行為ではなかったとしても、多くの人に迷惑をかけることになり、それがきっかけでトラブルに発展することがあります。割り込まれた側が不快に思い、暴力沙汰になったり、割り込んだ側が注意されて感情的な口論になったり、いろいろな問題が起こり得ます。

こうしたトラブルになってしまうと、割り込み行為とは別の法的責任が生じることもあります。周囲への思いやりを忘れず、マナーを守って生活することが大切でしょう」

オトナンサー編集部

割り込み行為に法的問題は?