人は誰でも自分の知識や経験、専門性を後進に伝えたくなるもの。研究者であれば、子育てに自分の専門分野を生かしてみたいと思うかもしれない。

たとえば脳研究者が脳科学の視点から、自身の子育てを考えていくとどうなるのか。もちろん、研究と実際の子育てでは勝手が違うことも多々あるはずだし、研究通りにいくこともある。そんな脳研究者による子育て奮闘記が『パパは脳研究者〜子どもを育てる脳科学〜』(池谷裕二著、扶桑社刊)である。

■「歳をとればとるほど神経細胞は減っていく」は本当?脳科学者が教える人の成長の真実

本書は、脳研究者の池谷裕二氏が、娘の4歳までの成長を脳の発達と機能の原理から分析し、子育てのコツとして紹介する。月刊紙「クーヨン」で毎月綴ってきた娘の成長期「研究者パパの悩める子育て」をもとに、大幅に加筆変更したものだ。

幼い頃の性格はいつになっても変わらない、という意味の「三つ子の魂百まで」ということわざは、脳科学的にもある程度正しいという。脳の神経細胞の数は生まれた瞬間が一番多く、あとは減っていく。そして、3歳になるまでに約70%の神経細胞が排除される。生き残る神経細胞は30%ほどで、3歳までに残った神経細胞を一生使うことになる。よく「歳をとればとるほど神経細胞は減っていく」と言われるが、これはまちがい。神経細胞が減るのは3歳までだという。

赤ちゃんは、生まれた環境に順応していくために、どの神経細胞が必要かわからない。だから、無用なほどに過剰な神経細胞を持って生まれてくる。そして、3歳頃までに、神経回路の基礎を作り、必要がないものを捨てていく。

これはあくまで神経細胞の数が減るだけで、能力が落ちるわけではない。それまでに習得できないことがあったとしても、必要なときに残った神経細胞が活躍してくれる。ただし、母国語や絶対音感など、一部の能力は大人になってからでは補いにくいものもある。

表紙

池谷氏いわく、3歳になるまでの一日一日のコミュニケーションが大事。というのも、小学校に上がるまでに、親子がよく接し、大切に育てられた幼児は、そうでない子に比べ、海馬の回路が2倍以上よく発達し、思春期になった後も、自分の感情を上手くコントロールできるようになるという論文がある。

池谷氏が、父親として、脳研究者として、育児の奮闘を綴った本書。脳科学の知識と実際の子育ては合致しないもの。赤ちゃんの脳がどう成長していくかを調査してきた池谷氏でも子育ては初心者。父親としての奮闘ぶりも楽しめる。子育て中の親にも、脳に興味のある人にも参考になる1冊だ。

(T・N/新刊JP編集部)

「歳をとればとるほど神経細胞は減っていく」は本当?脳研究者が教える人の成長の真実(*画像はイメージです)