3月10日、米ゲームプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」が、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した。プレイするだけでなく、ゲーム制作も行えるシステムで注目を集めている。メタバース(※)を語る上でも欠かせない「ロブロックス」とは、どんな会社なのだろうか。デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に話を伺った。

(参考:【写真】3Dシューティングゲームまで楽しめるようになった『フォートナイト』

(※)オンライン上に作成された仮想空間。ユーザーたちは、その中で自由に行動することができる。

 「『ロブロックス』は、ユーザー同士が作ったゲームで遊んだり配信できることが特徴のゲームプラットフォームです。2004年創業と歴史も長いですが、伸びてきたのはここ数年ですね。その理由として、子どもたちがスマホやタブレットなど、デジタルデバイスを使うようになったのが大きいと思います。あとはコロナで在宅時間が増えたこともありますね。デイリーのアクティブユーザーは3300万人以上もいて、昨年と比較して85%も伸びています。アメリカの子どもの50%は『ロブロックス』プレイヤーなんです。

 『ロブロックス』というと、メタバースの話が多いですが、それを牽引してるのが子どもだという点が興味深いですね。現代の子供にとってゲームという存在は、大人にとってのスマホやSNSのようなものです。友達とオンライン上で遊んだり、コミュニケーションする遊び方は、今まで大人が作ってきたゲームの常識とは明らかに違います。これが『ロブロックス』の大きな特徴ですね。

 なぜ子どもたちがゲームを作れるかというと、『ロブロックススタジオ』があるからです。これは無料で使えるゲームツールで、プログラミングができなくてもゲームを作れるんですよ。今800万人以上のゲームディベロッパーが『ロブロックス』にいて、1000万円以上収益を得ている人もいるようです。メタバースを会社が作るのではなく、子供がゲームやエンタメ領域で作っていくという意味では、すごくわかりやすい例ですね。

 新しい傾向として、自分たちが遊びたいゲームを作成したり、新たなゲームの遊び方を見つけたりと、知恵を出し合って楽しむスタイルにプラットフォームが進化しているのがおもしろいですね。また『ロブロックス』自体も、クリエイターたちに真剣に向き合ってる印象を受けます。音楽や、映画、アートなどの表現者をリスペクトしているプラットフォームですね」

 海外では「ロブロックス」と比較されることも多い「Epic Gamesエピックゲームズ)」の『Fortniteフォートナイト)』との違いについて語ってもらった。

 「メタバースに、ビジネス的な意味で先にたどり着いたのが『フォートナイト』ですね。これは子どもではなく、大人(企業)発のメタバースです。『フォートナイト』は1つのゲームとして完成されているのに対して、『ロブロックス』は広げていける余地があるという違いがあると思います。

 たとえば、映画のキャラとコラボするとなると、『フォートナイト』だったらバーチャルアイテムを作るとかになると思いますが、『ロブロックス』なら、自分でキャラクターを作ったり、動き方まで決めることができます。プレイヤーか、ディベロッパーかの違いですね。『フォートナイト』はプレイヤーとして楽しむのに対し、『ロブロックス』では自らもディベロッパーになれます」

 「ロブロックス」やゲーム業界において、現在ジェイ氏が注目していることについて伺った。

 「このあと『ロブロックス』のユーザー数や利益がどこまで伸びるのか気になりますね。ゲームのプラットフォームとしてスケールできるのかでいうと、全世界にはまだたどり着けていないですが、これから参入できる市場はたくさんあると思います。現に『ロブロックス』の時価総額は382億ドル(約4兆1400億円)と、『Apex Legendsエーペックスレジェンズ)』を作成した『Electronic Artsエレクトロニック・アーツ)』より上なんですよ。すごいことですよね。

 ゲーム業界がどうなっていくかでいえば、今はコロナで需要が高まっていますが、コロナの終息後にどうなるのかも興味があります。学校が始まったら今までほど時間が使えなくなるかもしれないし、あとはゲームに飽きる人たちが出てくるかもしれない。ただ現在のゲームへの需要はすごく大きいですし、テクノロジー企業やプラットフォーマーなど、業界にとっては追い風ですよね」

 最後に、メタバースとユーザーの今後の動向を予測してもらった。

 「ゲームクリエイターはこれから注目されそうですね。今でもiOSやアンドロイドクリエイターはいますが、今後はさらにゲームを作りたい人が増えるんじゃないでしょうか。『ロブロックス』のように、プログラミング経験がなくても作れる、“ノーコード文化”がゲーム業界に入ってくるとすれば、それはすごく大きいポテンシャルになりますね。現に音楽では、楽譜が読めなくてもツールがあれば曲を作れますし。ゲームもそうなってくると、ゲームディベロッパーが増えていくと思います」

 これまでハードルが高かったゲーム制作を、プログラミングの知識不要で実現させた「ロブロックス」。潤沢な制作費や人材をもつ大手企業にはない、個人クリエイターならではのユニークなゲームも出てくるだろう。(堀口佐知)