時間を知ることができない状態での長期的な隔離は、人間の脳にどのような影響を及ぼすのか?それを調べるため、集められたボランティアは今、南フランスのアリエージュにあるピレネー山脈に口を開けた洞窟の中にいる。
世界初と言われるプロジェクト「ディープタイム」では、男性8名、女性7名の参加者が3月14日から4月22日までの40日間を洞窟の中で過ごすことになる。
15名のボランティア参加者は、外部にいる科学者に状況を知らせるためのセンサーのみを身につけ薄暗い洞窟の中へと入っていった。
スマホも時計も、時間を知ることができる機器は一切持ち込みが禁止されている。そこで営まれるのは、時間のない生活だ。
洞窟内は、自然の光が差し込むことはなく、気温12度、湿度95%とかなり寒い。時間を知る機器は使えないが、ペダル式の発電機があるので一応電気は利用できる。また水は45メートルの深さから汲み上げることになる。
フランス・エコール・ノルマル・シュペリウール、認知・コンピューター神経科学研究所のエティエンヌ・ケクラン教授は、「世界初の実験です」と語る。
「これまで、この類の実験では人体の生理学的リズムが対象とされてきましたが、人間の認知機能と感情にくわわる一時的な負荷の影響が調べられたことはありません」
太陽の光も時計もない場所で、脳はどのように時を認識するのか?
「ディープタイム」プロジェクトの公式サイトによると、洞窟内で最大の混乱要因は時間がまったく分からないことだという。本プロジェクトで解明したいのもこの点にあるようだ。
何らかの出来事の最中、時間の認識は変わります。実際に進んだ時間の流れとは無関係に、遅々としてなかなか進まないこともあれば、あっという間に過ぎ去るかのようなこともあります
そのとき何が起きているのか? 知覚された時間と時計が示す基準時間との関係はどのようなものか? 脳は時間をどのようにして把握しているのか?
新型コロナによるロックダウンの影響を探る目的も
プロジェクトの考案者は、自身も実験の参加者であるスイスの冒険家クリスチャン・クロット氏。
彼は新型コロナのパンデミックとそれが私たちの生活に与えた影響にインスピレーションを受けたという。
コロナ禍で人々は強制的なロックダウンを経験したが、それが長期的・短期的な生活にどのような影響をもたらすかまだ分かっていない。
参加者の1人は、「時間のない生活を味わう」ために参加を決意したと話す。PCやスマホによって常に約束や締め切りが通知される現代社会では、絶対に経験できないことだ。
15人の参加者に報酬が支払われることはない。与えられるのは、外部に頼ることなく洞窟内で生き残るための1.5トンの物資だけだ。
まさに今、サバイバル系のフィクション映画がリアルに行われている状況にあるのだ。
1990年代には、ガラス張りの構造物内に完全な生態系を再現して、外部から隔離された密閉空間で長期間過ごすという実験が行われたことがある。
このプロジェクトは100年続けられる予定だったが、いくつかの難題に直面し、結局途中で頓挫してしまった。
果たして彼らは4月22日までの40日間全てを、無事洞窟の中で過ごすことができるのだろうか?このプロジェクトを最後まで見届けていきたい。
References:Deep Time / Christian Clot/ written by hiroching / edited by parumo
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