東武東上線の旅客列車で野菜を輸送し、池袋駅で直売する日本初の取り組みが始まりました。並べられた野菜は、埼玉の直売所でその日に売れ残ったもの。背景には社会課題を解決したい思いがありました。

東上線で運んだ野菜、帰宅ラッシュの池袋駅で即完売!

2021年3月18日(木)、帰宅ラッシュ18時台の池袋駅構内に、埼玉産の野菜を特別価格で販売する直売所が登場しました。

これは、東武東上線を活用した「TABETEレスキュー直売所」と題した実証実験の一環。売られている野菜は、埼玉県東松山市のJA埼玉中央東松山農産物直売所「いなほてらす」で、その日に売れ残ったものです。

池袋での「販売品」となった売れ残り野菜は、キャベツ、ホウレンソウ、ニンジンなどがコンテナボックス7つぶん。これらを東松山市内にある東上線森林公園駅から快速急行に積み込み、池袋駅まで運びました。

いなほてらす」の営業が終了した16時から2時間強を経て、池袋駅構内のイベントスペースに並べられた野菜は、イベント性と特別価格もあってか、わずか30分ほどで捌けてしまうほどの盛況ぶりでした。

この日本初の取り組みは、東武鉄道東松山市、JA埼玉中央、東松山生産者直売組合、そして株式会社コークッキングが連携して実施。売れ残り野菜はコークッキングが買い取り、同社のメンバーが池袋まで輸送して販売まで行っています。

大命題は「フードロスの削減」

コークッキングは、飲食店の売れ残り品と消費者をマッチングするアプリ「TABETE」を運営している会社です。JR東日本とも連携し、東京駅「グランスタ」のテナントで売れ残った飲食物をJR東日本の社員向けに販売する取り組みも行っていますが、今回のような野菜の売れ残り品の「行商」や、列車の利用は初めてだそう。

取り組みの背景には、「フードロスの削減」という社会課題の解決があります。今回は、東松山市との縁をきっかけとして、フードロス削減と農家の収益性向上を目指した取り組みだといい、この理念に共鳴した東武鉄道が協力して実現しました。東武としては、新たな輸送サービスとして今回の事業性を検証し、沿線の魅力発信や誘客、利便性の向上につなげる構えです。

歴史的にも野菜などの行商は、鉄道が支えてきた経緯があります。昭和の時代は、農家の人がうず高く積んだ野菜を背負って列車に乗り、都心部へ売りに来る光景が見られ、京成電鉄では2013(平成25)年まで行商人専用車を仕立てていました。

ただ東武の場合は現状、行商のような大きな荷物を想定した手荷物のルールはなく、列車に積み込めるのは本来、あくまで「手回り品」のみ。今回は実証実験という形ですが、事業化となれば、ルールの策定も検討するということです。ちなみに今回の取り組み、東武は野菜輸送の付き添いスタッフひとり分の運賃(森林公園~池袋間の往復)だけで受けているのとのこと。

実証実験は3月31日まで原則として毎日実施されます(売れ残り野菜がない場合や輸送障害時などを除く)。単に売るだけでなく、社会課題の解決という使命を帯びた令和の行商スタイル、今後広がっていくかもしれません。

東上線の森林公園駅で快速急行に野菜を積み込む(画像:東武鉄道)。