2018年の「ダーリン・イン・ザ・フランキスイチゴ役で初めてメインキャラクターを演じ、その後も「Fairy gone フェアリーゴーン」「キャロル&チューズデイ」「社長、バトルの時間です!」など数々の作品に出演。4月放送開始の「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。」のヒロイン・荻原沙優役でも注目を集める市ノ瀬加那さんのインタビューをお届けします。

第15回「声優アワード」で、新人女優賞を受賞した市ノ瀬加那さん

――まず、受賞を知ったときのお気持ちをお聞かせください。

市ノ瀬 実は受賞のお知らせをいただくよりも先に、スケジュールに「声優アワード」という文字が書いてあるのを見てしまったんです。事務所の人に「これは何でしょう?」と聞いてみたら「ノミネートされているのかもしれないね」みたいな話をされて(笑)。それから2週間くらいして、正式に受賞のご連絡をいただいたときは安心しました。声優アワードで賞を取ることは私の声優人生においての夢のひとつだったので、それが叶ったことがうれしかったです。声優になる前に、今の事務所に合格したときにいちばん喜んでくれたのは母だったので、報告するのが楽しみですし、きっとすごく喜んでくれるだろうなと思います。

――2020年は市ノ瀬さんにとって、どんな年でしたか?

市ノ瀬 去年はコロナ禍が始まったことで、急に3月~4月くらいから仕事がほとんどなくなってしまった時期があって、その時期は改めて自分自身を見つめ直す時間にもなりました。今の自分に足りていないものをじっくり考えて、自分を強化する期間だったなと思います。

――足りていないものとは、どんなことだと思われたんですか?

市ノ瀬 技術的な部分はまだまだ手探りな状態なのですが、役に対して、もっと深く向き合えるんじゃないかということを改めて考えました。どんなに頑張っても、上にいる先輩方には簡単に追いつけるものではないとわかっているんですけれど、そこで思考を止めてしまったら終わりだなと思って。それは芝居だけではなく、トーク力や見た目など、今の声優に必要な芝居以外の部分も磨きたいと思った1年でした。

――コロナ禍でアフレコの様式も変わり、スタジオでは最低限の人数で収録するようになりました。市ノ瀬さんのデビュー当時はまだ大人数での収録ができていましたが、振り返ってみて貴重な経験になったという思いはありますか?

市ノ瀬 それはありますね。先輩方の芝居力というのは直に聴くとものすごい臨場感がありますし、本当にそこにキャラクターが存在しているんです。自分はまだその領域まで全然達していないので、とてもありがたい環境で芝居をさせていただいていたんだなと思います。

――初めてメインキャラクターを演じた作品は、2018年に放送された「ダーリン・イン・ザ・フランキス」(以下「ダリフラ」)でした。

市ノ瀬 上京してから2年間、オーディションに受からない日々が続いて、やっと受かったのが「ダリフラ」のイチゴ役だったので、当時はものすごくうれしかったです。初めて台本を手に取った瞬間は今でも覚えていますし、そうそうたるメンバーの中に自分の名前があって、自分のキャラクターのところにマーカーを引く瞬間もすごく感動してしまって……。「ダリフラ」は初めてのメインキャラクターということもあって、納得がいくまで、10回くらいやり直したシーンもありました。でも、収録現場の環境が本当に温かくて、私たちがやりやすい環境で芝居ができるように、スタッフの皆さんがひとつひとつのシーンにこだわって録ってくださって、思い出深い現場です。

――何度もやり直すことは、市ノ瀬さんとしては心が折れるというよりも、逆に前向きな気持ちになれることだったんですか?

市ノ瀬 当時は何も知らないからこそ向かっていける精神があって、やり直しも、もっといいものを出そうという気持ちでしたね。でも、なかなかつかめないシーンがあって、居残りになったときは少しだけ泣きました(笑)。

――(笑)。その後は多くの作品でご活躍されるようになりますが、ご自身の中で印象に残っている役や作品はありますか?

市ノ瀬 どれも自分にとっては大切な作品で、思い入れがあるものばかりなんですけど、劇場版「天気の子」は台本をいただいたとき「夢なのかな?」と思うぐらいうれしかったですね。高校の友達からも「見たよ」と連絡をもらったり、いろんな方から反響をいただきました。「社長、バトルの時間です!」のユトリアは、これまで私が演じたキャラクターの中では珍しくヒロインらしい女の子で、私はどちらかというと影があるキャラクターを演じることが多かったので、陰の部分を消さなくてはいけないという難しさがありました(笑)。

――これから演じてみたい役柄や、出演してみたい作品のイメージはありますか?

市ノ瀬 生と死が常に隣り合わせにあるようなストーリーや、人間のドロドロしている感情が描かれた、すごく重たいストーリーの作品にも出てみたいですし、救いようのないくらい性格の悪いキャラクターを演じてみたいです(笑)。まだそういうイメージが私にはないと思うんですけど、ちょっとずつ殻を破って「こういう役もできるんだぞ!」と思っていただけるように頑張りたいです。

――最後に、ファンの方へメッセージをお願いします。

市ノ瀬 励ましの言葉や作品の感想など、皆さんのひと言ひと言にいつも救われていますし、皆さんのおかげで取れた賞だと思います。これからもよろしくお願いします!

いちのせ・かな/12月20日生まれ。北海道出身。シグマ・セブンe所属。主な出演作に「Fairy gone フェアリーゴーン」(マーリヤ・ノエル)、「社長、バトルの時間です!」(ユトリア)、「グレイプニル」(吉岡千尋)など

撮影=田上富實子 取材・文=仲上佳克

■第15回「声優アワード」受賞者、受賞作品(敬称略)

●主演男優賞:津田健次郎

●主演女優賞:石川由依

●助演男優賞:子安武人島﨑信長

●助演女優賞:上田麗奈鬼頭明里

●新人男優賞:伊藤昌弘、小林千晃土屋神葉

●新人女優賞:逢来りん市ノ瀬加那杉山里穂藤原夏海和氣あず未

●歌唱賞:ワルキューレ

●パーソナリティ賞:安元洋貴

●功労賞:増山江威子津嘉山正種

●シナジー賞:プレミア音楽朗読劇「VOICARION IX 帝国声歌舞伎~信長の犬~」

富山敬賞:関俊彦

高橋和枝賞:榊原良子

キッズファミリー賞:中川里江

●外国映画・ドラマ賞:山路和弘、小宮和枝

●インフルエンサー賞:小岩井ことり

MVS(Most Valuable Seiyu):下野紘

●特別栄誉賞:鬼滅の刃

※今回は、ゲーム賞の該当者なし

※今回は、特別功労賞に代えて、本年度ご逝去された声優を顕彰しました。

第15回「声優アワード」で、新人女優賞を受賞した市ノ瀬加那さん