「4月だとどうなるんだろう」そんな風に私が首を捻っていたのは金曜日、CL準々決勝でレアル・マドリーリバプールの対戦が決まった時のことでした。いやあ、このコロナ禍のご時世、ヨーロッパ各国の出入国規制がバラバラなため、16強対決でイギリス勢と対戦したチームは開催地を変えるなど、イロイロ苦労をしていたんですけどね。中でも最低な目に遭ったのがアトレティコで、スペイン政府がイギリスからのフライトを禁止しているのを受け、チェルシーとの1stレグは中立地であるブカレスト(ルーマニア)で開催。ところが、イギリススペインもプロスポーツ選手の移動には隔離期間を設けておらず、イギリスからの帰国もスペイン居住者なら許されることから、2ndレグはロンドンのスタンフォードブリッジって、どう考えたって不公平じゃないですか。

一応、このフライト規制は3月いっぱいとのことで、期間を延長するかどうかは来週にならないとわからないらしいんですけどね。下手をすると、マドリー4月6日の1stレグをエスタディオアルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)でプレーすることはできず、14日の2ndレグはアンフィールドという、お隣さんとまったく同じ扱いにされる恐れもなきにしろあらず。まあ、EL16強対決ではグラナダがロス・カルメネスでの初戦に2-0と勝ち、ノルウィイ入国に規制があったため、中立地のブダペスト(ハンガリー)で戦った2試合目では2-1と負けながらも勝ち上がるという、ラッキーなスペイン勢もいましたからね。

それが準々決勝では、32強対決1stレグのホームゲームをトリノのユベントス・スタジアムで戦わされたレアル・ソシエダを0-4と圧倒。オールド・トラフォードで0-0とした後、16強対決では総合スコア2-1でミランを下したマンチェスター・ユナイテッドと当たり、今度はホームゲームが中立地、アウェイゲームが相手のホーム開催になるかもしれないというのはちょっと皮肉。同じく、16強対決ではディナモ・キエフを総合スコア4-0で破ったビジャレアルにしても、ウクライナでは無観客試合でなかったなど、今季のヨーロッパの大会ではしばしば、平等な条件でプレーできない例があとを絶たないんですが、それでも突破できれば何だっていいですよねえ。16強対決でトッテナムに逆転敗退を喰らわしたディナモ・ザグレブと準々決勝で対戦する際、エメリ監督のチームが開催地変更の必要もなく、2試合とも無観客というのもいいクジを引いたと思いますよ。

え、早々と私が準々決勝の話をしているのは何か、このミッドウィークの試合で語りたくないことがあるせいなんじゃないかって?そうですね、実は火曜には今季、初めてマドリーの試合を見に行くことができたんですが、久々にメトロのFeria de Madrid(フェリア・デ・マドリッド)駅から、ベルデベバス(バラハス空港の近く)まで、30分の道のりを歩いたのは結構、いい運動になったかと。といっても以前、RMカスティージャ(2部B所属のマドリーのBチーム)の試合に行った時とは違い、車もほとんど通らない周辺は本当に侘しく、スタジアムもVIPの座るパルコ(貴賓席)や取材陣、控え選手の待機する正面スタンドだけが解放。あとはシートで覆われていたため、そんな中、仰々しく、CLのアンセムが響き渡るのはかなりシュールな光景だったかと。

それに輪をかけたのが、サンティアゴ・ベルナベウとは違い、スタンドの層が低いため、吹きっさらしの風に悩まされた上、短い屋根につけられた暖房もほとんど効果なしという、冬季のスタジアム観戦の辛さで、いえ、最近の気温の高さに油断して、ヒートテックを着ていかなかった自分も悪いんですけどね。今更ながら、そんなことを思い出すって、一体、どのくらい自分がスタジアムに行けなくなってから経つのかって感じですが、何にしろ、TV中継のイメージ音声も現場では聞こえませんし、ファンがいない試合っていうのは、至って寒々しいものですよ。

といってもアタランタとの2ndレグはかなりマドリーにいい目が出て、ジダン監督は累積警告で出場停止のカセミロを補うため、先週末のエルチェ戦で試した3CB制をリピート。中盤にはモドリッチクロースがダブルボランチで入り、そこにバルベルデが加わったんですが、いえ、立ち上がりこそ、初戦で0-1と負けているスコアを早くイーブンに戻そうと意気込む相手に攻め込まれていたりしたんですけどね。その10分間程を凌ぐと、徐々にマドリーは自分たちのペースを取り戻し、前半34分にはGKスポルティエッロから思わぬプレゼントをゲット。ええ、彼のゴールキックが近くにいたモドリッチに渡り、ドリブルでエリア内に切り込んだ彼がラストパスをベンゼマへ。そのシュートがバッチリ決まって、マドリーのリードが倍になったとなれば、もう大船に乗った気でいていい?

いえ、まあ、相手はゴール量産型のチームでしたし、後半にはガスペリーニ監督がフィジカルの問題で温存していたサパタを投入。「後半により多くのチャンスを作って、延長戦入りを狙う」作戦に出てきたため、6分に敵GK前まで迫りながら、ビニシウスがシュートを外してしまった時にはそこここで溜息が漏れていましたけどね。でも大丈夫。というのも、「Seguro que en la próxima que tenga voy a marcar/セグロ・ケ・エン・ラ・プロキシマ・ケ・テンゴ・ボイ・ア・マルカル(次のチャンスが来た時はきっとゴールを挙げるよ)」と常に前向きな彼の2度目のドリブルでは、後ろからトロイに倒され、それもエリアに入っていたとされて、ペナルティを獲得できてしまったから。

このPKはもちろん、2月初旬のヒザの手術から、この試合に照準を合わせて、リハビリをしてきたセルヒオ・ラモスが決め、点差が安全圏に入ったところで、ジダン監督はキャプテンをミリトンに交代。いやあ、この時、当人はあと10分プレーしたいとお願いしていたんですけどね。来週はコロナ過密日程により、今回もギリシャジョージアコソボと3試合ある2022年W杯予選のスペイン代表戦にマドリーから、彼が1人参加となることも考慮したか、30分程の休憩をもらうことに。何にせよ、39分にムリエルがFKを直接決めて、アタラタンが1点を返したのは、後でGKクルトワも「ボクのニアサイドに蹴るつもりだったのにムリエルに先を越されたって、マリノフスキが言っていたよ。自分の予想もそうだったけど、ムリエルは上手く蹴ったね」と説明していたように、ラモスのせいではありませんからね。

おまけに40分にはビニシウスと交代でピッチに入ったアセンシオが、最初に触ったルーカス・バスケスからのクロスを3点目に変えてくれたとなれば、最後は余裕で3年ぶりのマドリー準々決勝進出が決定。いやあ、昨季はバレンシアとの16強対決2試合で計8点も取っていましたし、前評判は高かったアタランタでしたけどね。名誉の1点を決めたムリエルも「ウチがプレスをかけても簡単に抜け出されてしまうし、ノックアウト方式の対戦でもボールを持った時に落ち着きがある。En el Calcio casi nunca ves a jugadores con esta calidad/エン・エル・カルチョ・カシー・ヌンカ・ベス・ア・フガドーレス・コン・エスタ・カリダッド(カルチョじゃ、滅多にあんな質の高い選手たちにはお目にかかれない)」とシャッポを脱いでいたんですが、まあ、勝因はそんなところ。

小さいスタジアムの近い距離で見ると、何だか練習試合みたいなゆったりしたプレーぶりなのに、当人も「Me siento con 27/メ・シエントー・コン・ベインテシエテ(自分は27才みたいに感じているよ)。大事なのはピッチでやることで、パスポートじゃない」と話していたモドリッチを始め、クロースベンゼマラモスと30代の主力は皆、CL優勝を何度も経験しているベテランですからね。グループリーグでも現在、セリエAの首位を独走するインテルに2連勝して、相手を敗退に追いやっていたことを考えると、アタランタに快勝したのも当然かと思えますが、ホント、才能のある選手が多いチームは羨ましい。そんなひがみを私が久々に覚えてしまったのは…。

そう、翌水曜、逆転突破を目指してスタフォード・ブリッジチェルシーに挑んだアトレティコが呆れるぐらい、力負けしていたから。ちなみにこちらはお隣さんと逆で、最近の基本になっている3CB制を伝統の4-4-2に変えてスタートしたんですが、アタランタ同様、高い位置でプレスをかけた攻勢が続いたのは開始から15分ぐらいだけ。その間にルイス・スアレスがリュディガーに突き飛ばされたり、カラスコがアスピリクエタに押されてエリア内で倒れたりしながら、アピールの甲斐もなく、PKをもらうことができなかったのは残念だったかと。

そうこうするうち、早くもボールをキープするのに疲れてきたか、チェルシーにフィジカルで負けるようになってきたアトレティコだったんですが、まさか34分、自分たちのFKを跳ね返された後、あんな高速カウンターを発動されようとは。ええ、敵エリア目掛けて爆走するヴェルナーに誰も追いつけず、反対側でラストパスを受けたツィエクにGKオブラクを破られてしまったから、さあ大変。でもその時はどちらにしろ、2点は必要なんだからと、自分を慰めていた私だったんですが、この日はシメオネ監督の修正策も全然、当たらないんです。

前半にイエローカードをもらったロディを後半頭からエルモーソに代え、3CBに戻しても、精彩のなかったカラスコを下げ、デンベレを入れても、コケまでがボールをすぐ失くすという有様のパスが繋がらない病を発症したチームではラチが明かず。とうとう、14分には、いくらここ5年以上、CLアウェイ戦でノーゴールとはいえ、エースのスアレスをコレアに代えるって、これだけでもう、「Fueron mejores, no pudimos recuperar el balón/フエロン・メホーレス、ノー・プディモス・レクペラール・エル・バロン(相手の方が良くて、ウチはボールを取り戻すことができなかった)」というシメオネ監督が相当、切羽詰まっていたのがわかるかと。

もちろん、コレアが入ったからとて、アトレティコのボールポゼッションが上がる訳もなく、その10分後には、丁度、FA(イングランドサッカー協会)に課された10週間のサッカー活動禁止処分が終わり、来週には代表戦でイギリスに戻ることになるトリッピアーをレマルに代えたものの、形勢逆転などは夢のまた夢。満を持して先発に戻ったジョアンフェリックスだけが、枠内シュート3本と奮闘していましたが、とにかくゴールが入らないことには話になりません。それどころか、36分にはCK中にサビッチがリュディガーにcodazo(コダソ/肘打ち)を見舞ったとして、レッドカードで退場って、もうこれ、一体、何の罰ゲームなんですかあ。

挙句の果てにロスタイム4分にもカウンターを受け、途中出場のエメルソンに止めの2点目を決められているようでは、2012年にEL優勝を果たしたブカレストのスタディオヌル・ナツィオナル同様、2014年のCL準決勝2ndレグで1-3とチェルシーを下し、リスボンでの決勝進出を果たしたスタンフォードブリッジのゲンのいいイメージも苦い思い出に塗り替えられてしまいますって(総合スコア3-0)。いやあ、試合後のシメオネ監督も「esta Champions nos costó desde el inicio. Hay que aceptarlo/エスタチャンピオンズ・ノス・コストー・デスデ・エル・イニシオ。アイ・ケ・アセプタールロ(今季のCLには最初から、苦労させられていて、それは受け入れないといけない)」と言っていたんですけどねえ。

1stレグのスコアレスドローを目指した消極的なゲームプランからして、いけなかったんじゃないかと思ってしまうのは別として、どうにもマドリーアタランタの差と、トゥーヘル監督就任後のチェルシーアトレティコの差に似たものを感じてしまって、やるせないんですが、覆水盆に返らず。今季のCL16強対決ではバルサセビージャも敗退していますし、ここは「Confianza máxima en este equipo/コンフィアンサマキシマ・エン・エステ・エキポ(このチームには最大の信頼感がある)。ウチはリーガで素晴らしい戦いぶりで、優勝することもできるんだから」というコケの言葉通り、お隣さんが2018年、キエフでの決勝で負けたリベンジを期すリバプールとの準々決勝に専念してくれることを祈るばかりかと。

まあ、そうそう話は簡単ではないんですが、とりあえず今週末のリーガの予定も話しておくと、現在、首位のアトレティコと勝ち点差6のマドリーは土曜午後4時15分(日本時間翌午前0時15分)から、ビーゴ(スペイン北部の港町)でセルタ戦。結局、エルチェ戦で足慣らしした後、また筋肉系の負傷を起こしたアザールは、全ての元凶と見られる右足首の再手術こそ、しないことになったようですが、復帰の予定は立たず、ラモスアタランタ戦に出るため、ムリをしていたか、お留守場になりますが、この試合の後は2週間の各国代表ウィークに入りますからね。優勝戦線には2位のバルサも絡んでいるため、ここはしっかり勝ち点3を取っておきたいところかと。

一方、アトレティコは日曜午後6時30分(日本時間翌午前2時30分)から、アラベスをワンダメトロポリターノに迎えるんですが、最近、リーガでもあんまり調子が良くないんですよね。前節では弟分ヘタフェから、1点も挙げられず、スコアレスドローでしたし、得点、失点の両面での不安が増えるばかりなのも辛いところ。ただ、欠場となるのは累積警告のジョアンだけで、特にケガ人も今はいないため、ここ5試合で1分け4敗、18位の相手に遅れを取ることはないと思いますが、さて。

そしてヘタフェも日曜、こちらは午後2時(日本時間午後10時)という、日本でも生中継を見やすい時間帯にエルチェとコリセウム・アルフォンソ・ペレスでホームゲーム。興味を惹くのは、相手のエスクリバ監督は丁度、2015-16シーズンにヘタフェを率いており、その時もチームはシーズン前半を8位で終わりながら、突如、12試合白星なしという大スランプに。残り数試合でエスクリバ監督を解任したものの、ヘタフェは2部降格してしまったなんて暗い過去があるんですが、実は彼には2017-18シーズンにビジャレアルを、2019-20シーズンにはセルタを率いてコリセウムで敗戦した後、どちらも解任に繋がるという因縁が。

まあ、今は17位でかろうじて降格圏入りを免れているエルチェが相手とはいえ、ヘタフェも15位とあまり威張れるようなところにはいませんからね。先週はクーチョとカバコがケガで長期離脱という、ショックな知らせもあったものの、マドリーミニダービーでは出場寸前で試合が終わってしまった久保建英選手の活躍する機会もあるかもしれませんし、今は気長にボルダラス監督のチームが調子を取り戻すのを見守るばかりでしょうか。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
サムネイル画像