ゴルフGTIや205 GTiより印象の薄い5ターボ
ルノー5(サンク)が、純EVとなって復活するようだ。うれししいニュースだが、1つの疑問を抱かずにはいられない。なぜ今まで、5は復活することがなかったのだろう。
5は、ルノーにとって大切な存在だと思う。過去のイメージから、未来を想像できる。ルノーはあと数年早く、このアイデアを抱いていても良かった。
この引き金を引いた人物こそ、新しくルノーのCEOの座に就いた、ルカ・デメオ。以前はイタリアのフィアットで、コンパクト・ハッチバックの500を担当していた人物だ。500の誕生から13年。フィアットの運命は、デメオの肩にかかっていたようなもの。
そんな彼がルノーのリーダーに就いた。5の復活もうなずける。
欧州大陸から海を超えて、英国や日本へやって来た5。フランスのクルマを象徴する1台として、今も記憶に刻まれている読者は多いことだろう。だがクラシックと呼べるほど誕生は古く、忘れてしまった人も多いはず。
筆者は2代目ルノー5をまだ覚えている。特別なクルマだ。
わたしがAUTOCARで働き始めたころ、1988年に運転していたクルマこそ、自分のルノー5 GTターボだった。だが自動車の試乗レポートで経験を積むごとに5の重要度は下がり、手放してしまった。
それまでに、3台のホットハッチを乗り継いでいた。2代目5のGTターボのほかに、初代フォルクスワーゲン・ゴルフGTIと、プジョー205 GTiだ。しかし今まで、不思議なことにルノー5を考える機会はほとんどなかった。残りの2台は頻繁に思い出すのに。
33年ぶりでもしっくり操作できる
振り返れば運転の楽しいクルマとして、ゴルフGTIと205 GTiは節目といえる重要な存在になっている。一方で5 GTターボは、そこまでではない。
当時の筆者はゴルフGTIや205 GTiより、5 GTターボの方が速く楽しいということに気づいていた。でも、ほかの2台ほど深く記憶には刻まれていなかったように思う。
英国には、まだ公道を走れる状態の205 GTiが1100台以上も存在するらしい。5 GTターボの方は、たった287台。純EVとして5の復活が予定されている今こそ、オリジナルを再評価するベストタイミングだといえる。
筆者の脳みそに眠っていた記憶は、驚くほどしっかりしたものだった。5 GTターボの運転席に座ったのは33年ぶりだったが、思い出す必要もなく、しっくり操作できる。
30年以上の間、この日に備えてか、2代目5の情報が消えずに残っていた。チョークレバーのある位置や、ヘッドライトのオン・オフは左側のレバーをひねること、ボンネットが前ヒンジで固定されていることなど。
トランスミッションのフィーリング、エンジンのサウンド、アシストの付かないステアリングの反応速度も自然と思い出される。まだ5 GTターボのことを知っていた。
同時に、想像以上にか細くも感じられた。製造品質の悪さや、ありきたりの素材で作られているからではない。今の自動車が、そうではない方向に進んでいるからだろう。
記憶の中ほど速くは感じられない
もっとも、たまの週末に乗られるだけのようなクラシックカーとして見ても、製造品質は褒められたものではない。筆者も正直、心もとない。
かつて、ルノー5に乗っていて事故にあったことがある。対向車のBMW 5シリーズがこちらの車線へ飛び出してきたのだ。ルノー5は直前に急停止したが、リアシート側のルーフを残しナイフで切られたように潰れてしまった。
もしほかに誰かが乗っていたら、と思うとゾッとする。BMWは、衝撃の弱さからエアバックすら開かなかったらしい。ドライバーが、居眠りから目を冷ましただけ。
今でも5 GTターボが残ってるということに、思わず興奮してしまう。しかし運転し始めると、5 GTターボに何を見ていたのか少し疑問も抱いてしまった。
想像以上に、記憶の中ほど速く感じられない。「心地よい速さ」という表現が妥当かもしれないが、そう感じるのもレブカウンターが3000rpmを超え、ターボブースト計の針が反応した時のみ。
フロントに収まるのは、プッシュロッド式の1.4L 4気筒ターボ。このユニットの設計が始まったのは、1950年代と古い。
5 GTターボが新車だった頃は、コンパクト・ハッチバックの中で一番すばしっこかった。今の感覚では、ほどほどに活発といった程度だ。
そんな複雑な気持ちのまま、ワインディングに進む。そこでシャシーを充分に機能させると、素晴らしいことを再確認する。思わず、オーマイゴッド、と口にしてしまった。
この続きは後編にて。
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