初代アルトなぜ破格を実現できた?
最近、よく耳にするのが軽自動車の高価格化だ。
【画像】スズキの努力の結晶【歴代アルトを振り返る】 全110枚
いま人気のスーパーハイト軽ワゴンなどでは上級グレードをチョイスするだけで、すでに車両本体価格は200万円を超えることも珍しくなく、そこに気になるオプションをプラスしていけば、コンパクトカーを超える支払総額にすらなってしまうのだ。
これは市場が求める装備を積み上げてきた結果ということもいえるし、その一方で標準装備が義務化となった安全装備などの影響もあるだろう。
もっとも価格が価格だけに、もはや軽自動車といえどもコンパクトカーに匹敵するか、それ以上の機能性を兼ね備えたモデルとなっており、すっかり軽自動車は妥協して買うものではなく、選んでファーストカーとしてチョイスするというものになりつつある。
このように豪華さの一途を辿る軽自動車を見ていると、ふと必要最低限の装備のみを持ったシンプルなモデルを求めてしまうのもまた人間のわがままといえる。
実際、いまでもなおエアコンやパワステが備わらないグレードを用意している軽トラックなどは、引っ越しやホームセンターの運搬車を借りて久しぶりに乗るとなんともいえない楽しさを感じることがある。
そこで今回は、シンプルな軽自動車の代表格である初代アルトを今一度振り返ってみたい。
車両本体価格47万円の衝撃
初代モデルは1979年に登場したのだが、そのときの価格は驚きの47万円だった。
同時期の軽自動車の価格は最も安い部類のモデルでも50万円台半ばだったから、その低価格は驚きをもって迎えられたのである。
また、当時はまだまだ自動車は贅沢品という風潮もあり、軽乗用車でも15.5%にも上る「物品税」というものが課せられていた。
しかし、当時から軽自動車は2プラス2的な使い方が中心だったことに目をつけたスズキは、ボディ形状こそ3ドアハッチバックであるものの、リアシートをミニマムとして商用車登録とした「ボンネットバン(ボンバン)」スタイルとすることで、物品税の課税を回避したのである。
そのためもともと安い価格となっていたところに加え、物品税が非課税となることでユーザーの負担額を大幅に削減。
また、イメージカラーを鮮やかな赤としたことで女性ユーザー層の取り込みにも成功し、発売から2年後にはアルトユーザーの2人に1人が女性となるほど大ヒット車種となったのである。
そしてアルトのヒット以降、他メーカーも商用車登録のボンネットバンを続々とリリースし、80年代は多くのボンバンタイプの軽自動車が街にあふれることになったのだ。
「低価格」は努力の積み重ね
いくら税制のスキを突いたボンネットバンタイプを生み出したとはいえ、当時の軽自動車の下限を大きく下回る47万円という価格を実現するためには涙ぐましい努力があった。
まずはグレードという概念を捨て、モノグレードとした。
当時はスタンダードやデラックスなど、明らかに差別化を図るグレードを用意することでユーザーの購買意欲を掻き立てる手法が一般的だったが、これを廃止することで複数のグレードを作り分けるコストを削減し、生産効率を向上させたのである(のちに2シーターや4WDなどが追加されるが)。
そして、標準装備となるものを必要最低限ギリギリまで省いた。
キーレスなどがない当時は助手席側にもキーシリンダーがあるのが通常だったが、これを省き、ボンネットを開閉するためのケーブルワイヤーまでも省くため、ボンネットに備わるエンブレムを押してロックを解除する方法を採用していたのだ。
また、ウインドウウォッシャーも電動ポンプを使用せず、360cc時代に見られた手動のポンプで噴出するタイプとなっているなど、「あったら便利だけどなくても困らない」装備のほとんどが省かれていたのである。
さらに商用車登録とすることで、乗用車のような厳しい排出ガス基準をクリアしなくてもよかったため、従来モデルのエンジンをベースとした2ストロークエンジンを採用できたのもコスト削減に大きく貢献していた。
このように極限までシンプルさを追求することで驚異的な低価格を実現したアルトであるが、実はその精神は現行モデル(8代目)にも受け継がれており、商用車登録となるアルトバンは引き続きモノグレードとなり、荷物が中心となるリアのウインドウは開閉不可のハメ殺し。
ボディカラーはホワイトのみで、バンパーはペイントではなく材着色となっているという簡素っぷりなのだ。
その結果、いまや必須装備のエアコンを標準装備しながらも73万7000円と、圧倒的な廉価を誇っている。
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