新田真剣佑主演のアクション大作『ブレイブ ‐群青戦記‐』(公開中)で織田信長役を演じた松山ケンイチと、メガホンをとった本広克行監督の独占対談を実施。高校生アスリートたちと戦国武将とが死闘を繰り広げる本作で、松山は敵将としてどっしりと構え、高校生たちを威嚇した。2人が撮影を振り返り、新田の俳優としてのポテンシャルの高さや亡き三浦春馬への想いを語り合ってくれた。

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本作は週刊ヤングジャンプの人気コミック「群青戦記 グンジョーセンキ」を実写映画化した話題作。新田演じる主人公の西野蒼は、スポーツ強豪校の弓道部員で、腕は良くても自分に自信がないという冴えないタイプだ。

ある日、一本の雷が校庭に落ち、蒼ら高校生アスリートたちはいきなり戦国時代にタイムスリップし、刀を持った野武士たちに襲撃される。高校生たちは、弓道、剣道、空手、ラグビーボクシング、野球、科学など、それぞれの部活で培ったスキルを駆使し、織田信長軍との死闘を繰り広げていく。三浦春馬は、信長の軍と敵対する徳川家康役を演じた。

※本記事は作品後半の展開に関する記述を含みますので、未見の方はご注意ください。

■「織田信長という役柄上、高校生のみんなと距離を取ってほしかった」(本広)

――信長役について、最初に本広監督とどんなやりとりがあったのですか?

松山「まず、原作がある映画の場合、原作を読んだほうがいいのかを監督にお聞きします。今回は読まなくてもいいので、思ったようにやってくださいというオーダーをいただきました。また『現場を締めてください』とも言われました」

本広「松山さんは織田信長という役柄上、高校生のみんなと距離を取ってほしかったんです。そうなると、きっと松山さんは現場で孤立しちゃうだろうと思ったけど、信長がいて、ピリピリした感じが出て、すごく良かったです」

――織田信長と言えば、これまで数多くの名優が演じてきましたが、松山さんはどんなふうにアプローチされたのですか?

松山「過去の作品をいろいろと観ましたが、すごく大人しい信長やセクシーな信長、威圧感のある信長など、時代によって求められている信長像は違うんだなと思いました。それで、いまみんなが想像する信長像は、たぶん自分が思うものとそんなに遠くないだろうと思い、ああいう形になりました」

――監督からは松山さんにどんなリクエストをされたのですか?

本広「松山さんはオールラウンドな俳優さんだし、大河ドラマ『平清盛』で主演もされていて、僕よりも時代劇に詳しいだろうから、役柄についてはあまり細かく話はしなかったです。実際にしゃべり方も完璧でしたね」

■「悩んだり挫折したりした経験こそ、宝物になるのではないかと」(松山)

――高校生と武士たちの熾烈な戦いを観て、松山さんはどんなことを感じましたか?

松山「僕は子どもがいるので、どうしても親目線で観てしまいますが、けっこう辛いなと思いました。深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』を初めて観た時の感覚が蘇った感じです」

本広「でも、原作の漫画のほうがもっとエグいんですよ。最初は R-18指定の、ある種ホラー映画のように作るのもいいかなと思ったんですが、プロデューサーからダメですと言われたので、映倫に引っかからないように(笑)、ギリギリのところで編集しました」

松山「高校生は、それぞれの部活の経験者なんですか?説得力があって、演技だけではない空気感がよく出ていたと思いました」

本広「ほぼ全員が経験者です。アメフトのリーダー役だけは、柔道の日本一を獲った子ですが、最初は芝居が全然できなかったので、演出部全員で徹底的にしごいて、彼を役者にしました」

松山「きっと演出部も、このままだとマズイと思ったんでしょうね(苦笑)。彼自身も相当プレッシャーを感じながら頑張ったと思いますが、そういうふうに上から叩かれ、悔しい思いをしたことが、彼にとってはすごく良かったんじゃないかなと」

――松山さんも若いころはそういうことを経験されましたか?

松山「もちろんです。でも、最初から成功して、スルスルいってしまうとおもしろくないだろうし、誰だって怒られたくはないと思いますが、悩んで挫折した経験こそ、宝物になるのではないかと思っています。僕自身もそういう経験をしたことはよく覚えているし、いまでも『ああ、くそーっ』と思うことはあるけど、逆にそれがなくなってしまったら、役者の仕事自体がおもしろくなくなってしまう気がします」

■「新田真剣佑は天才。すばらしいアクションでした」(本広)

――アクションシーンで言えば、やはり新田真剣佑さんはとてもキレが良かったです。

本広「こんな役者がいるんだ!と感動するぐらい、彼のアクションはすばらしかったです。きっと『巨人の星』の星一徹ばりに、お父さん(千葉真一)が子どもの頃から厳しく教えてきたのかなと。お父さんに石を投げられて、それをよけるという訓練もしていたそうですし、ビンタするシーンの叩かれ方も、全部ギリギリのところで身をかわせるんです。どんな殺陣もすぐに覚えてしまうので、周りが追いつくのが大変でした。まさに天才ですが、自分の役者としての弱点もわかっているんです」

――弱点はどんなところなんですか?

本広「感情表現の微妙なニュアンスが出にくいので、そこを見てほしいと言われました。きっと顔が整いすぎているからだと思いますが、確かにそういうシーンでは『もっと深くいこう』という指示を出しました。彼は英語も話せるし、いろんな才能を持っているから今後も楽しみですね」

――松山さんは、新田さんとの共演シーンで、どんな印象を受けましたか?

松山「目がきれいだなと思いました。だから『良き目をしている』という台詞を素直に言えたんです。今後もあのままで、汚れないでいてほしいと思いました」

本広「あのシーンは、蒼が信長に威圧されるシーンで、覚悟を決めて信長に強い視線を向けるシーンでしたが、すごくカッコ良かったです」

■「新田くんは、本当に春馬くんのことが大好きでした」(本広)

――本作では信長と並び、三浦春馬さん演じる徳川家康も、重要な役どころでした。新田さんは三浦さんのことを心からリスペクトされていたので、初日舞台挨拶の最後に、新田さんがなにかを言わんとして言葉に詰まった一幕が心に残りました。

本広「あの時は僕も泣けてきて、なんのフォローも入れられませんでした。」

――本広監督は、本作のテーマに“継承”を挙げていますが、まさに三浦さんの想いが、新田さんに受け継がれていく気がします。

本広「そうですね。役柄でもそうですが、新田くん自身も春馬くんを見て、本当の役者になりたいと思ったそうなので。また、実際に地球ゴージャスの舞台『星の大地に降る涙 THE MUSICAL』で春馬くんが演じたシャチ役を、新田くんが受け継いでいます」

■「三浦春馬くんは、すごくバランス感覚が鋭い人だなと思いました」(松山)

――蒼と家康の共演シーンには非常に心を打たれました。

本広「刀を受け継ぐシーンは、僕も大切に撮りました。また、春馬くんと新田くんがお墓の前で芝居をするシーンでは、あまりにも新田くんの熱がすごすぎて、春馬くんが『僕、マッケンに負けちゃいましたよ』と笑っていたのも印象に残っています。

家康が死ぬシーンは実にあっけなく逝ってしまいますが、あそこは春馬くんが『死にそうになっているのに、べらべら喋るのは変ですよね』と提案されたからそうしたんです。僕たちは、家康の最後のシーンなので、盛り上げなきゃと考えて台詞を設けたんですが…。三浦春馬という役者は、本当に作品全体のことを考えられるすばらしい役者だったなと思います」

――松山さんは、三浦さんの現場での印象はいかがでしたか?

松山「春馬くんが現代の教室で、鎧を着てしゃべっているシーンがとてもおもしろくて。違和感なくそこにいるので、すごくバランス感覚が鋭い人だなと思いました。思えば、あの2つの時代をつないでいたのは家康だったのではないかと。また役柄同様に、次の世代にバトンを渡していくといった連帯感もすごく感じました」

――そんな三浦さんが急逝され、松山さんは同じ俳優として、どんなことを感じたのですか?

松山「やはり心臓が痛くなりました。また、春馬くんのように、普段から頑張って人の背中を押していく仕事をしている人は、自分自身の背中は誰に押してもらっているんだろうかと、すごく考えさせられました」

本広「なるほど。深いですね」

松山「やはり頑張っている人たちもどこかで救われないといけないなと。そういう意味で言うと、自分は春馬くんとは仕事仲間だったので、もう少し仲間として横のつながりを大事にしていかないといけないと、色々なことを思いました」

――松山さんは、そういうチームのつながりをとても大切にしている印象を受けますが。

松山「そういうことができる現場もあるし、自分1人だけで背負いこもうとしてしまう現場もあります。今回の撮影で、高校生アスリート役の子たちは、きっとみんなで苦労を共有し、終わったあとご飯に行ったり、愚痴などを言いあったりしていたと思いますが、そういうことって本当に大事だなと。僕は過去に1人で抱え込み、誰ともご飯に行かなかった現場も経験していますが、いまは、もっと楽にして、重い荷物もみんなで分け合えばいいのかなと思っています。それは仕事に限らず、普通に生きて、日常生活を送っていても感じることですが、そういうことを改めて痛感した現場でした」

取材・文/山崎伸子

松山ケンイチと本広克行監督の独占対談をお届け!/撮影/黒羽政士