(藤原 修平:在韓ジャーナリスト)

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 韓国・文在寅ムン・ジェイン大統領の支持率が、就任以来最低の34%まで落ち込んだ。引き金は、公営企業である韓国土地住宅公社(LH)の職員らによる新都市予定地区への土地投機疑惑である。政府の発表前にLHの職員らが土地を購入したことが問題になっている。

 それにしても、よくも今まで高い支持率を維持できたものだと逆に感心する。政権発足から4年が経とうとしている時期の34%という支持率は、実は歴代トップである。しかも、ついこの間まで40%前後に踏みとどまっていたのだ。

 政権発足からその後の推移を見てみると、一部の期間を除いて文大統領がずっとトップを保っている。つまり韓国の大統領として、文在寅氏は優等生なのだ。

失政とスキャンダル続きの文政権

 しかしながら、文大統領のこれまでの政策は、どう考えてもその高い支持率に寄与しているとは思えない。

 数々の疑惑が指摘されていた曺国(チョ・グク)氏を法務部長官に任命した際の大騒動は、日本でも大きく報じられた。また、元慰安婦のハルモニ(おばあさん)を支援する団体の代表、尹美香(ユン・ミヒャン)氏のスキャンダルもあった。尹美香氏は慰安婦支援活動で名を上げて与党所属の国会議員となったが、元慰安婦への寄付の不正流用が発覚。検察に在宅起訴され党職を停止された。だが大統領は何ら言及していない。

 トランプ時代のアメリカに追随して取り組んだ北朝鮮政策は、文政権の一丁目一番地だったはずだ。だがそれも2019年2月にハノイで開かれた米朝首脳会談の失敗で、事実上頓挫した。

 そればかりか、朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長や呉巨敦(オ・ゴドン)釜山市長といった与党の有力者によるセクハラ疑惑も相次いだ。特に朴市長は事件が明るみに出ると我が身の苦境を恐れたのか自殺とみられる死を遂げた。

 これだけでも政権にとっては相当の痛手であるはずだが、それに輪をかけるように、国民の生活が危機的な状況に陥っている。

 文政権は不動産価格高騰への対策を何度も打ってきたが、まったく効果がない。とくに「アパート」と呼ばれる高層マンションの価格が首都圏で急騰し続けている。学生がバイトを失い商店の経営者が苦しい日々を余儀なくされるコロナ禍であるにもかかわらず、不動産価格上昇のしわ寄せによって、物価上昇に歯止めがかからない状況だ。

高支持率の本当の理由

 これだけの失政や悪条件にもかかわらず、なぜ文大統領の支持率は40%前後を堅調に維持していたのか。

 それは文政権の政策に対する国民の判断というよりも、まるで神話とも言えるような「文政権は国民を裏切らない」という妄信が韓国に浸透していたからだと思える。

 支持率40%とは、現与党の絶対的な支持層が国民全体に占める割合でもある。つまり、34%という支持率は、文政権の“神話”が染み込んだ岩盤が、いま崩れつつあることを意味している。

 岩盤が堅固だった要因としては、コロナ対策の成功を謳った文大統領プロパガンダが挙げられる。韓国でコロナ感染は、確かに日本よりも抑えられてはいる。だが、諸外国の機関による評価を見ると、日本とほとんど変わりがない。それにもかかわらず、文大統領は自国のコロナ対策を「K-防疫」と命名し、それが「大成功」だと自画自賛し、世界に向けて大々的にアピールしようとした。ところがワクチン接種の遅れのほか、日本と同じように自粛が長期にわたり、経済や国民の生活が疲弊している。もはや、コロナ対策では支持率を支えることはできないのだ。

 また、安倍前首相が政権の座にいたことも、支持率維持の要因として大きかった。

 韓国で2019年7月に始まった日本製品ボイコットは、韓国に対して戦略物資の輸出管理強化を打ち出した安倍政権への対抗運動だった。「ノージャパン」とともに「ノーアベ」と書かれたプラカードを、そこかしこで目にしている。

 つまり、日本製品ボイコットとは、韓国の歴史認識に異論を唱える憎き安倍首相を打ちのめそうという激情から発したものだった。そのため日本を批判する時には、ほぼ必ずと言ってよいほど、「アベ」が連呼された。それは日本語を学生に教える大学教授や、日本との貿易に関わっているビジネスマンでもそうだった。安倍首相は悪役として韓国人の脳裏に焼き付いていた。

 ところが、その安倍首相が任期を前に辞職した。あれから半年が過ぎた今、韓国でノージャパンが下火になったと日本のメディアが報じているが、それは「アベ」という敵が消えたことと無縁ではない。

 この日本製品ボイコットに文大統領は便乗してきた。日本製に頼ってきた製品を自国で生産すると宣言した。もちろん、韓国社会が純粋に自国技術の向上を望むのであれば、それは大いに結構なことである。だが、単純にそういう話ではかった。文大統領が行っていたのは、アベ・ジャパンを打倒するという国民の敵愾心を煽り、ナショナリズムを刺激することだったのだ。

韓国に不信感を募らせるバイデン政権

 そのような韓国に対し、中国包囲網を形成しようとするバイデン政権は不信感を募らせている。

 3月23日付の朝鮮日報では、米国務省が作成中の『2020年国別人権報告書』に関する記事が大きく掲載されていた。記事によれば、その報告書には「北朝鮮の人権とともに、韓国与党勢力の不正腐敗とセクハラの事例まで言及」されている。しかもそのなかには、あの曺国氏、尹美香氏、朴元淳氏の名が列挙されているという。

 親北の文大統領北朝鮮の人権問題から目を逸らしてきた。それは、この問題を取り上げることが「韓半島の平和」の足かせになると文大統領が考えているからだとの意見がある。

 そうした文大統領のこれまでの姿勢について、人権を重視するバイデン大統領は容赦ならないと考えているのだ。

 文大統領がアメリカから信頼を得るには、日韓関係の改善も必要となる。2021年1月に東京入りした姜昌一(カン・チャンイル)韓国大使も、自らを任命した文大統領の意を汲んで茂木敏充外相に一日も早く会いたいだろう。とはいえ、紆余曲折の末に当時のバイデン大統領の尽力もあって結んだ慰安婦合意を一方的に反故にした相手から急に微笑まれても、とてもではないが本気とは思えない。

 文大統領の執政には、国をまとめて未来へ向かおうというイニシアチブはほとんど感じられない。それらしきことをしてはいるが、標語を言っているようなものだ。国際関係でも北朝鮮や中国、それにアメリカの顔色ばかり伺っているだけで、対日政策にしても、何ら関係改善に向けた具体的な動きを見せない。

 韓国社会の対日感情を鑑みれば、日本との対話は時期尚早である。いや、そんなことよりも、アメリカが本気で怒りだす前に、与党や政府関係機関に巣くった腐敗の除去に精を出した方がまだ良さそうだ。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  「身内と北朝鮮を優先」韓国の人権状況を米国が酷評

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