南海電鉄の16駅で自動改札に「Visaのタッチ決済」を導入する実証実験が始まります。同社は交通系ICカードの「PiTaPa」や「ICOCA」などにすでに対応していますが、そのうえで、クレジットカードの新しい決済方法をさらに導入する背景とメリットがありました。

南海電鉄の16駅で実証実験

「Visaのタッチ決済」に対応した自動改札機が南海電鉄の駅に登場。クレジットカードのVisaカードを改札にタッチして通過する実証実験が2021年4月3日(土)から始まります。

南海電車に乗るとき、交通系ICカードは後払い式の「PiTaPa」や前払い式の「ICOCA」などが使えますが、今回新たにクレジットカードの「Visaカード」が加わります。駅の改札で「Visaのタッチ決済」による区間利用の運賃支払いは日本初といいます。

ではなぜ、交通系ICカードが十分に普及し定着しているにもかかわらず、南海電鉄はそれとは別の決済方法を追加しようとしているのでしょうか。

「Visaのタッチ決済」は、暗証番号の入力やサインをする代わりに、カードを端末にタッチするだけで決済できるサービスです。対応するカードは、同心円状の扇形の印が券面に付いています。世界規模で導入が急速に進んでおり、日本では対応するカードがすでに3670万枚以上発行されています(2020年12月末現在)。

実証実験は、「Visaのタッチ決済」機能のあるカードやスマートフォン、ウェアラブル端末を入場時と出場時に専用改札機にかざすと、乗車区間の運賃がその都度決済されます。クレジットのほか、Visaデビットプリペイドのカードもマークがあれば利用が可能。もちろん、タッチ決済で改札を通る際に暗証番号の入力やサインは不要で、交通系ICカードと同様、カードをタッチするだけです。

実施駅は南海電鉄の16駅。難波、新今宮、天下茶屋、堺、和歌山市関西空港河内長野、橋本といった主要駅のほか、本格運用を見据え九度山、高野下といった無人駅も選ばれました。

「Visaのタッチ決済」導入に至った経緯

南海電鉄の担当者は3月30日(火)に開かれた「Visa パートナー事例から見るVisaのタッチ決済導入に関する説明会」で、導入経緯について、外国人利用者の増加を挙げました。

関西空港では、2011(平成23)年に1万5000人ほどだった1日乗降人員が、2019年には倍以上の約3万5000人に増加。これにあわせて駅の窓口では、言葉の壁や商習慣の違いなどから対応時間が長くなり、きっぷを求める長蛇の列ができていたといいます。

「Visaのタッチ決済」だと、使い慣れた手持ちのクレジットカードでそのまま電車に乗れます。これにより駅の混雑緩和と利便性向上が同時に実現するほか、コロナ禍で避けられる傾向にあった現金の受け渡しや対面での対応もなくせるといったメリットがあるといいます。

改札での「Visaのタッチ決済」の反応速度は、既存の交通系ICカードFelica)と比べるとワンテンポ遅くなりますが、担当者は「現状は問題なく処理できています。そのうえで、さらに対応が必要かどうかは今回の実証実験で見極めていきたい」と説明します。実験は12月まで続きます。

南海電鉄は「Visaのタッチ決済」のほか、スマートフォンに表示したQRコードで改札を通る「南海デジタルチケット」の実証実験も実施。新型コロナの「収束後」を見据え、受け入れ体制の強化を図る方針です。

「Visaのタッチ決済」で改札を通過(画像:南海電鉄)。