「徐行」は、どれくらいのスピードなのでしょうか。法令ではクルマがすぐに止まれるスピードとされますが、実はこの質問、ややこしい問題を秘めています。

あいまいなままの方がいい?「徐行」の考え方

道路交通法で「徐行」とは、「車両等が直ちに停止することができるような速度で進行すること」とされています。また道路標識の「徐行」は規制標識であり、速度規制などと同様に強制力を持つものです。

では、「徐行」とは何km/h程度のスピードなのでしょうか。ある自動車教習所の指導員に聞いたところ、「とても難しい問題」との答えが返ってきました。

「法令では、具体的な速度は明示されていません。しかし、学科試験などで『おおむね10km/h以下』との回答が正解となる問題が見られます」(自動車教習所指導員)

法令では具体的なスピードが明示されていないにも関わらず「10km/h以下」となるのは、そのように具体的な速度を示した最高裁判例などが影響しているとのこと。しかし、「本来はあいまいなままにしておくべきだったところ」だと指導員は指摘します。

速度を意識しすぎるのは禁物か

というのも、道路交通法では徐行すべき場所として、道路標識などがあるところのほか、「左右の見通しが利かない交差点に入ろうとし、または交差点内で左右の見通しが利かない部分を通行しようとするとき」「道路の曲がり角付近」などを規定しているものの、「たとえば大きい交差点を右折する場合などを考えても、10km/h以下に抑えるというのは相当無理があります」とのこと。

つまり、徐行の速度の考え方は場所によってどうしても違いが出てくるため、一定の速度を当てはめるのは実態に即さないというわけです。「運転免許試験の実技試験や、警察の取締りなどでも、杓子定規に『10km/h以下』を当てはめるケースはほとんどないでしょう」といいます。

この指導員は、ペーパードライバー教習などで徐行をアドバイスする際には、何キロとは明示しないといいます。「何かあったらすぐに止まれる速度というのは、やはり感覚で覚えてもらいたい」ということです。

ちなみに、路面などに「最徐行」と書かれていたり、駐車場など私有地において「10km/h以下」や「8km/h以下」と看板などで具体的に明示されていたりするケースがあります。いずれも法的な意味はなく、「最徐行」は注意喚起のための強調表現です。とはいえ、そのような場所では十分に速度を落とす必要があるといえるでしょう。

徐行の標識(画像:写真AC)。