軍によるクーデターから2カ月以上が経過したミャンマー。軍への抵抗を続ける市民を抑えつけるため兵士が実弾発砲という強硬手段に出ることも度々で、女性や子供を含めた犠牲者は増加の一途、事態収拾の道筋が全く見えない状況だ。

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 こうした中、民主派の動きに呼応するように、長年軍と対立関係にあった少数民族の武装組織が「軍政に反対する市民の動きを支援する」「市民の人権、生命を守るために戦う」などとして、3月下旬以降、軍の施設や部隊への襲撃、攻撃を激化させている。

 こうした動きに、軍も少数民族武装勢力の拠点を空爆するなど反撃に出ており、激化する戦闘の被害から逃れるため、多くの少数民族が山間部のジャングルや隣国タイなどへ避難している。現在のミャンマーはまさに「内戦状態寸前」の様相を呈してきた。

国軍記念日の軍事パレード、日本は参加見送り

 3月27日、首都ネピドーで国軍記念日を祝う軍事パレードが挙行され、ミン・アウン・フライン国軍司令官が兵士、部隊を閲兵した。

 この記念式典にはインドバングラデシュパキスタン、タイ、ベトナムラオスなど周辺国のほか、ロシアと中国の軍関係者などが参列した。日本大使館でも招待状を受け取っていたが、「軍のクーデターを追認する結果となる」との政治的判断から大使や駐在武官(1等陸佐)の参列を見送った。

 一方、この国軍記念日に合わせて、ミャンマー全土では反軍政の市民による抗議デモ、集会などが相次いだ。この動きに軍は、「反対運動参加者には射殺を含む厳しい措置で臨む」との事前警告通りに、各地で実弾を使った鎮圧に乗り出し、1日の数としては過去最高となる100人以上の市民が犠牲となる凄惨な事態となった。

少数民族武装勢力が各地で攻勢

 また同じ27日、軍は少数民族の武装勢力にも攻撃を加えた。東部カイン州では「カレン民族同盟(KNU)」による攻撃の報復として、軍がKNUの拠点に対して空爆を実施したのだ。

 一方、翌28日には北部カチン州やシャン州で「カチン独立軍(KIA)」が軍・警察の拠点4カ所に対する攻撃を実施、兵士や警察官30人を殺害、武器多数を奪うという事案も起きた。

 これら少数民族の武装勢力と軍との衝突は激しさを増している。インターネットを通じて報道を続ける地元メディアによると、4月6日には「カイン国民解放軍(KNLA)」やKNUがモン州ドゥパラヤ地区などで軍と戦闘状態になったほか、アイヤルワディ地方でも軍の拠点への攻撃が行われたという。

 4月7日には同じアイヤルワディ地方のカレイ市の一般道でマシンガンによる発砲も加わった激しい戦闘が起きたと地元ニュースが伝えている。

クーデターにより少数民族との停戦交渉も行き詰まり

 このように各地で軍と激突している少数民族武装勢力が、非武装無抵抗運動を続ける民主派の市民と連帯する動きが強まっている。

 ミャンマー135にも及ぶ多民族からなる国家であるが、人口のおよそ7割を占めるビルマ族による政権運営が続いており、少数民族は自治を求めて政府との内戦が続いてきた。政府は2011年からこれら少数民族と停戦交渉を続けてきたが、そのすべてと停戦合意文書の署名に至ったわけではない。

 3月30日には「アラカン軍(AA)」「タアン民族解放軍(TNLA)」「ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA」が連名で軍に対し、「市民へのテロを止めないと市民の革命に協力する」との声明を出した。

 またアウン・サン・スー・チー政権下で停戦協定を目指して交渉を進めていた「KNU」や「シャン州復興協議会(RCSS)」など10の少数民族武装勢力もこれまでに軍との間の和平交渉を打ち切ることで合意した。その上で「平和的デモで反軍運動を続けるあらゆる人々と固く連帯する」として市民支持、軍制反対の姿勢を明確にしている。

 このように和平交渉を進めていた少数民族武装組織に加えて和平交渉に不参加だった「KIA」や「ワ州連合軍(UWSA)」なども軍との対決姿勢を明確にしている模様で、少数民族武装勢力が合従して軍・警察との衝突が各地で勃発し始めており、本格的な内戦となりそうな気配が濃厚なのだ。

 軍による空爆や戦闘の巻添えを避けるため、少数民族を中心とする一般市民は山間部や隣国タイへ避難せざるを得なくなっている。

 報道によれば、これまでに国境を越えたタイに逃れた市民は約1万2000人に上っているという。当初はミャンマー国内に送還しようとしていたタイ政府、タイ国境警備当局、タイ軍も、人道的見地から現在ではミャンマーから難を逃れてきた市民の保護に乗り出している。

放火や爆発事件、著名人拘束といった不穏な動き

 このように本格的内戦の懸念が高まる中、都市部では「不穏な動き」が目につくようになっている。

 4月6日、ヤンゴン・ミャウン郡行政事務所が火災に見舞われた。放火の疑いがもたれているが容疑者は不明という。同様に、放火が原因とみられる行政事務所の火災が各地で頻発している。

 実はこうした行政事務所など公の機関では「不服従運動(CDM)」に同調する職員により業務が停滞しているところも少なくない。そのため、そういう機関を狙った軍関係者による「見せしめ」の放火との見方が出ているという。

 また4月6日にはヤンゴンの南オッカラーバのバスターミナルでバスが爆発する事件も発生した。爆発物によるものだったが、現時点で事件の背景は不明だ。現地では「軍関連バス会社のバスを狙った反軍政の市民による抵抗運動の一環」という見方と、「治安攪乱を目的とした軍によるヤラセ」という見方に二分されているという。

 ただ非武装無抵抗戦術を続けている市民の側が、爆発物を使った抵抗を試みる可能性は低い。そのため、「軍による謀略」との見方が強まっているようだ。

 不穏な動きは他にもある。最近、芸能人など著名人の身柄拘束が相次いでいるのだ。俳優のチットゥーウェーさん、歌手のエーティンチョースウェさんのほか、学者、映画監督、モデル、コメディアンなどが拘束の対象となっている。いずれも市民の反軍政運動に賛同あるいは支持をネットなどで表明したことが拘束の理由とされているが、拘束された場所やその後の処遇などの詳細は不明だ。

 こうした火災、爆発、そして著名人の拘束の背景には、止まらない抵抗運動に対する軍幹部らの苛立ちがあるのかもしれない。

国際社会からの働きかけにも手詰まり感

 一方、軍による武力弾圧に対し、国際社会からは強い批判が起こっているが、それがミャンマーの国軍の行動を改めさせるほどの成果は上げていない。

 たとえば国連安保理が非難や制裁決議で統一行動をとろうとしても、中国やロシアが反対し、足並みがそろわない状況が続いているのだ。

 ミャンマーも加盟する東南アジア諸国連合ASEAN)も緊急の外相会議や首脳会議などでミャンマー問題の「平和的解決」の道筋を探ろうとしているが、「内政不干渉」を理由に消極的な加盟国もあり、なかなか実効性の伴った対処策が見いだせていない。このように、ミャンマー問題の外交的解決は「手詰まり状態」となっている。

 そうした中でも軍には、反軍政を訴える市民、そしてその市民との連帯を強めようとする少数民族武装勢力に対する人権無視の強圧的手段による鎮圧を改める素振りなど全く見えない。出口が見えないミャンマー情勢は、さらに混迷の度を深めようとしている。

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国軍記念日にあたる3月27日、ミャンマーの各地で軍のクーデターに抗議する市民が行動を起こした。ヤンゴンの街頭に集結した市民の中には、軍や警察に対抗するため弓矢を準備する者もいた(写真:AP/アフロ)