(金 愛:フリージャーナリスト)

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 韓国で30年余り続いてきた“元慰安婦運動”。一部に偽りや誤りがあったという疑惑も出ているが、元慰安婦の生存者は日本政府を相手取った損害賠償訴訟に力を注いでいる。そんな元慰安婦が提起した2件目の損害賠償訴訟の判決が4月21日に下される。今年1月にソウル中央地裁が日本政府敗訴の判決を下した裁判ではなく、李容洙(イ・ヨンス)氏ら元慰安婦(2020年12月基準の生存者16人)が提訴した裁判だ。

「正義記憶連帯(正義連)は慰安婦を利用した詐欺団体だ」と暴露して波紋を呼んだ元慰安婦の李容洙氏は「慰安婦被害者の恨みを直接解決する」と述べ、ICJ(国際司法裁判所)への慰安婦問題の提起を文在寅大統領に要請、慰安婦問題を突き詰めていく考えだ。訴訟の結果次第で、日韓間の新たな外交的波紋が予想される。

 アジア女性基金や2015年の慰安婦問題合意などの結果、日本政府が元慰安婦に補償した金銭を一部の元慰安婦と遺族たちが受領したが、賠償の要求が終わる気配はない。「永久的かつ不可逆的に解決された」という日本の立場が反映されることもない。

 韓国法曹界は3月25日ソウル中央地裁民事15部(ミン・ソンチョル部長判事)は、故グヮク・イェナム氏やキム・ボクドン氏など元慰安婦や遺族など20人が日本政府を相手に起こした損害賠償訴訟の弁論を24日に終え、4月21日に判決を下すと明らかにした。本件は今年1月に判決が出る予定だったが、裁判所は追加審理が必要として弁論を再開した。

 これに先立つ1月8日ソウル中央地裁民事34部は、同じ趣旨で提起された損害賠償請求訴訟で「日本の不法行為に国家免除(state immunity)は適用できない」として、日本政府に対し、故ベ・チュンヒ氏ら元慰安婦12人に1人1億ウォンずつ支給を命じる判決を下している。これが冒頭に述べた日本政府敗訴の裁判である。

 日本政府は「韓国の裁判権は認められず、控訴する考えもない」という立場を表明し、無対応の原則を貫いている。日本政府は訴訟提起から3年間、訴状送達を拒否して、初公判以降、一度も出席していない。日本政府は1965年に締結した日韓請求権協定と、2015年に交わした慰安婦合意で「慰安婦賠償問題は永久的かつ不可逆的に解決された」という立場を変えていない。 判決そのものを認めず、控訴しなかった。

払っても払っても終わらない訴訟

 2件目の裁判でも日本政府は無対応の原則を固守し、被告側代理人がいない欠席裁判が進行した。最大の争点は、やはり「日本政府に国家免除を適用できるかどうか」だ。 国家免除は「国内の裁判所は外国の国家に対する訴訟に関して裁判できない」という国際法上の原則である。主権国家間では裁判権を行使できず、外交などの方式で解決するという趣旨であり、同原則が適用される案件では、裁判所は審理を行わずに棄却できる。

 慰安婦側の弁護人団は、日本の国家免除はありえないという立場だ。弁護団は「国際慣習法上、裁判を受ける権利と国家免除が衝突する場合、双方を比較して個別に判断しなければならない」と主張し、「国際人権条約などの精神を考慮すると、今回の事件は国家免除の例外を認めなければならない」として、日本の賠償責任を追及した。

  2015年の日韓慰安婦合意で、日本政府が支給した10億円を元従軍慰安婦の一部が受領したことについては、「2015年の合意は、政治的合意に過ぎない。法的拘束力はなく、被害者の賠償請求権は消滅しない」と主張している。

 韓国政府は2015年12月28日に日本政府と交わした「慰安婦合意」に基づき、日本政府が支出した10億円(約108ウォン)を被害者の名誉と尊厳の回復、心の傷の治癒に向けた事業に使うため「和解・癒し財団」を設立、生存していた元慰安婦47人のうち34人と死亡者199人のうち58人の遺族に合わせて44億ウォンを支給した。

 一方、一部の元慰安婦は「日本の真の謝罪がない」と合意の破棄を求めた。文大統領は2018年9月25日、米ニューヨークで行われた日韓首脳会談で、当時の安倍首相に「慰安婦被害者や国民の反対で和解・癒し財団は正常に機能せず、枯死せざるをえない状況」と話し、慰安婦合意で設立した財団を解散させる方針を通告した。

 元慰安婦に対する支払いについては、2014年2月、毎日新聞がアジア女性基金の専務理事を務めた和田春樹東京大学名誉教授の話を引用して報道した。これにより、日本政府が慰安婦問題を解決するため、民間募金を母体とするアジア女性基金事業を通して、1995年韓国人慰安婦被害者207人の28.9%に該当する60人が基金を受領したことが明らかになった。

 この時、日本政府は被害者1人当たり200万円(約2083万ウォン)の慰労金を医療福祉支援金や首相の謝罪手紙などと共に送った。もっとも、 河野洋平官房長官(当時)の謝罪や強制動員認定に対して反省の意を示したにもかかわらず、韓国では「法的な責任を避けるための日本政府の手段にすぎない」という元慰安婦や関連団体などの批判と合わせて受領拒否運動が起きた。「金を受け取った」という指摘についても、「多くの被害者が慰労金を受け取っていない」という論理を展開した。

 それだけではない。韓国では法的に「日帝下の日本軍慰安婦被害者に対する生活安定資金及び記念事業などに関する法律(慰安婦被害者法)」を制定し、生活支援や住居安定と名誉回復事業を施行している。これに関連し、韓国女性家族部は旧日本軍慰安婦の生存者と家族のための日本軍慰安婦被害者生活安定支援事業の名目で、月147ウォンの生活費と看病費、家庭介護費、健康治療費、葬儀費などを支給している。 他にも慰安婦生存者たちは正義連などの民間団体が運営する療養施設で生活や住居支援を受けている。

さらなる賠償金を求める韓国の裁判所

 日本政府から1億ウォンと2000万ウォンを受け取り、韓国政府から毎月140万ウォンの生活費や住居費、葬儀費等を受領している元慰安婦生存者。 被告らは再び損害賠償を請求した理由として、「日本の個人賠償はなく、心からの謝罪はなかった」と述べている。

 現に、李容洙氏はメディアのインタビューで、「もはや信じられるのは法しかない。大韓民国法に切迫した気持ちで訴える」とし、日本の法的責任を問い、被害を回復する手段として、「今回の損害賠償訴訟」と「ICJ提訴を通じた日本の敗訴」を引き出すと公言した。

 韓国の左派団体も、「ICJ提訴を通じた国際法的処罰だけが日本を20世紀最大の人権侵害犯罪から屈服させることだ」と同調している。1965年の日韓請求権協定と2015年の慰安婦合意、さらに日本政府が支給した金銭を受け取った韓国の慰安婦と遺族を完全に無視する発言だ。韓国裁判所は、数回にわたって慰労金および補償金を支払った日本に、1億ウォンの賠償金を出せという立場を取っている。

 韓国は「時間があまりない。慰安婦被害の生存者は何人で、平均年齢は何歳だ」という言葉が、慰安婦問題が表面化して以降30年間、繰り返されてきた。元慰安婦の時間表を掲げる韓国人は日本政府に圧迫を加え、国際社会で日本は“戦犯国家”という汚名を広げている。

 史上最悪の状態にある日韓関係の外交的波紋を考えると、日本政府と韓国政府の慰安婦問題おける立場を折衷する合意点を導き出さなければならないが、戦争暴力の“被害者”という立場を求められている韓国人は最後まで“国家免除”という国際法原則に対する“例外”を主張し、慰安婦政治を国際戦争に拡大しようとする。「合意」を期待できない韓国に、日本は応じる姿勢を見せてはいない。

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