(舛添 要一:国際政治学者)

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 大阪府感染者は、4月7日が878人、8日が905人と急増している。そのため、吉村洋文知事は医療非常事態を宣言した。また、府内の公道での聖火リレーを止めることを決めた。

 7、8日の感染者数を見ると、兵庫県328人・311人、京都府が93人・83人、奈良県81人・88人と高水準である。関西圏での感染の拡大が目立つ。

 一方、東京都は555人・545人であり、都の要請を受けて、政府はまん延防止等重点措置を適用する。期間は4月12日から5月11日までの1カ月。また、京都府沖縄県にも、4月12日から5月5日まで、同じ措置を適用する。

 神奈川県が118人・175人、埼玉県が158人・154人、千葉県が76人・94人である。首都圏もまた、じわじわと感染が拡大している。

「自粛疲れ」の日本

 緊急事態宣言は、大阪では2月末、東京では3月21日で解除されたが、大阪の感染者数の推移を見ると、3週間遅れで東京も同様な状況になることが予想される。4月5日から5月5日まで実施される大阪のまん延防止等重点措置がどれくらい効果があるかは、これからの感染状況を見ないと分からない。しかし、状況は非常事態宣言下よりも悪化しているのに、対応は宣言下よりも生ぬるいというのは合理性を欠いている。

 それは、今回もまた、科学よりも政治を優先させた結果である。感染状況が悪化すれば、宣言を解除した菅義偉首相の責任が問われる。そのために、何とか重点措置で切り抜けようとしているのである。しかしながら、日本全国では、3451人・3447人と、1月末の水準まで感染者が増えている。

 このところの人出は、コロナ発生前と変わらないくらいに多い。このウイルスについて多くのこと、たとえば若者は重症化しにくいといった特徴が分かってきている。そのために油断も生まれるし、自粛疲れということもある。最近は、20代、30代の若者の感染が増えている。

 ヨーロッパ大陸でも、このところ感染が急拡大している。直近の1週間の1日当たりの平均感染者数は、フランスが3万6560人、イタリアが1万7956人、ドイツが1万3039人である。各国政府は、都市封鎖など厳しい措置を講じ、懸命にウイルスの抑え込みにかかっている。

 ワクチンについては、ヨーロッパの人口9億人の約1割しか接種が終わっていない。フランスが18.5%、イタリアが18.7%、ドイツが18.1%である。これに対して、イギリスは55.5%である。

 因みに、イスラエルは112%、チリは58.4%、アメリカは50.4%、中国は10.2%、ブラジルは10.4%、ロシアは8.5%である。日本は、まだ1%でG7の中では、最も遅れている。

ワクチン効果で日常が戻りつつあるイギリス

 ワクチン接種の進んだイギリスの1日の感染者数は1月のピーク時には約6万8000人だったのが、4月6日には2379人である。成人の半分がワクチン接種を終えた効果だ。同じ日に、日本は2655人で、英国を上回っている。日本では、医療関係者もまだ接種が完了していない状況で、遅れに遅れている。これでは、救える命も救えなくなってしまう。

 イギリスでは、ワクチン接種の効果で日常が戻りつつあり、4カ月ぶりにパブが営業を再開した。しかし、カウンターで飲むのは駄目で、外で6人以内で座ってしか飲めないという厳しい条件つきである。日本の緊急事態宣言まん延防止等重点措置は、それ以上に緩い条件であり、これでは感染は止まらないであろう。

 そして、そのように改善する状況の下でも、イギリス政府は、イングランド全住民が無料で週2回ウイルス検査ができるようにしたのである。30分で結果が出るという。ワクチン以前に、日本では検査が不十分な状態がまだ続いており、それが日英の差となって現れている。

ワクチン調達力に優れたアメリカ

 バイデン大統領は、4月17日までにアメリカの成人の国民の9割にワクチン接種を実施する方針であり、着々と実行に移している。接種会場の確保など、細かい形式にはこだわらず、迅速さを第一に作業を進めている。

 ただ、感染者数については、1月初めには25万人であったものが、3月半ばには5万4000人にまで下がったが、このところまた増加し、6万5000人レベルにまでなっている。その背景には、トランプ前政権下で、マスク着用などの感染防止策に反対する動きが強く、その流れがまだ続き、規制を緩めてしまっていることがある。

 しかし、アメリカにおけるワクチン接種の急速な進展を見ていると、アメリカの機動性、動員力、物資調達力、情報力などを再認識させられる。世界一の大国として危機管理に長けていることがよく分かるし、もちろん接種に連邦軍も動員している。この点についての日米格差を考えると、太平洋戦争における敗北を、今回のワクチン戦争で日本は繰り返しているようである。

 お隣の中国でも、6月末までに全人口の4割にワクチンを接種する予定である。全官僚機構を動員するとともに、接種者に無料のアイスクリームを配るなど工夫を凝らしている。ワクチン開発にもいち早く成功しているし、そのワクチンを今や外交の道具として活用している。

ワクチン接種で出遅れる中、変異株感染が拡大

 日本でも変異株が急速に感染拡大している。

 関西ではイギリス型(N501Y)が主流となっているという。一方、仙台市ではコロナウイルスの80%がE484Kであり、東京も半数がそうだという。イタリアのメディアは、これを「日本株」と報道し、ワクチンが効きにくいと警告している。

 ただ、東京でも急速にN501Yが増えている。ウイルスは2週間に1度は変異を繰り返す。ウイルスも生き残りに懸命なのであり、変異型は感染力が強まっている。

 ところが、変異株の検査がまた徹底していない。東京では陽性者の5〜10%のみであり、いつになったら40%という目標が達成されるかわからない状況である。幸い、ワクチンは変異株にも効果があり、特定の変異株対応のワクチンもすぐに製造できるという。

 そのワクチン接種であるが、日本はG7の中で最も進行が遅い。高齢者は4月12日から接種を始めるというが、すべての高齢者が2回の接種を完了するのはいつになるのか。

 英米のように国産の優れたワクチンを持つ国の強みを見せつけられると、自国でまだ開発できていない日本の遅れを痛感する。

 今回の新型コロナウイルスワクチン開発は非常に早かったが、それは画期的な技術革新のおかげである。ファイザーやモデルナは、メッセンジャーRNAによるウイルスの遺伝子情報から、病原体タンパクを人工的に大量生産する手法を開発したのである。

ワクチン開発に遅れた理由

 そもそも、日本はなぜワクチン開発に遅れたのだろうか。

 第一に、研究者も予算も足りない。300人という研究者の数はアメリカのCDCの50分の1である、人材が圧倒的に不足している。感染症医学部の中でも人気の低い専門分野であり、優秀な学生は選択しない。いわば二軍であり、それがアメリカのメジャーリーグと対戦しても勝てるはずがない。

 しかし、日本にもノーベル賞級の遺伝子工学の専門家はいる。ところが、感染研が独占体制を維持し、外部の優秀な研究者を排除している。たとえば、ワクチン開発には安全性が確保された実験室が必要だが、最高レベルの安全性が確保されているP4レベルは国立感染症研究所にしかないのである。少なくとも、P4レベルの研究室が最低3つは必要であり、各分野の研究者が感染研の縄張りから自由に利用できるようにならねばならない。

 予算にしてもアメリカの10分1であり、2020年度予算の第一次補正で100億円、第二次補正で1400億円、第三次予算で1200億円が計上されたが、合計しても2700億円であり、これでは欧米には太刀打ちできない。

 第二の問題は、十分な治験数が日本では集まらないことである。そのために、ワクチンや新薬の承認が遅れるのである。そこで、治験数を増やすために、海外での治験も法的には可能なので、東南アジアなどと協力するとよい。治験によってもたらされたる研究開発の成果を共有できれば、多くの国が連携するはずである。

 第三の問題は、副反応による事故の場合の免責体制が未整備なことである。過去に厚労省の担当課長が刑事訴追されるケースがあり、厚労省ワクチンの承認に過剰に慎重になっている。今回のコロナの場合は、ワクチン製造メーカーは免責とされるが、官僚についてはそうではない。国会での議論が必要である。

 治験数、承認スピードとも関連するが、第四の問題は供給の遅れである。アストラゼネカのワクチンは血栓症を引き起こすとして、EUは30歳以下への接収を控えるようにした。また、ファイザーやモデルナなども、世界で争奪戦が繰り広げられており、予定通りに日本に供給されるかどうか不明である。

 日本がすでに契約を結んでいる3社以外のワクチンでも、有効なものは輸入して、接種のスピードを上げるべきである。たとえば、ジョンソンジョンソンワクチンである。これは一回の接種で済む。また、ワクチンの専門家によれば、中国のワクチンも十分に安全で効果があるという。政治的思惑を抜きにして、中国からの輸入も一つの選択肢である。

 ワクチンとの戦争には武器が無ければ戦えない。今必要なのはワクチンである。

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