モデラーの斎藤雅英さん(@masa_saitoh)は、ウェザリング(サビ加工)を施した”歴戦の勇士”感あふれるハイゴッグを使ったジオラマを制作。本作は、新型モビルスーツ(MS)であるケンプファーへの乗り換えが間近に迫るパイロットミハイル・カミンスキーミーシャ)中尉の想いをイメージしたという。連邦軍のジムを駆逐した名コンビの“休息”を描いた本作はどのようにして生まれたのか?

【作品写真】役目を終えたハイゴッグが少し寂しそう?新型MSのケンプファーを受領したミーシャ

■飲酒搭乗常習だったミーシャの素直な感情をイメージ

――ガンダムの敵役というとザクやグフ、ドムなどが人気ですが、今回なぜやや地味な存在であるハイゴッグモチーフに選ばれたのですか?

【斎藤雅英】ハイゴッグは決して地味なMSではありませんよ(笑)OVA機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』の第1話に登場したMSですが、連邦軍の北極基地襲撃に3機投入され、1機は撃破されたものの、基地防衛の極地戦仕様のジムを全滅させて基地を制圧する活躍を見せました。

――失礼しました!改めて、制作の理由をお聞かせいただけますか?

【斎藤雅英】YouTubeの『アルファホビー部は帰らない。』というプロカメラマンが主催する視聴者参加型の「ホビ写」(ガンプラをはじめとするホビーをモチーフに撮影した作品)の番組があり、そこでは数ヶ月に1回、テーマを決めた「祭り」が開催されているんです。この3月のテーマが「ジオン祭り」で、何を作ろうか考えていたとき、以前制作した『HGUC 1/144ケンプファー』を脇役にした作品を作ろうと思い立ち、主役にしても違和感のないMSを考えて、ハイゴッグが思い浮かんだんです。

――ハイゴッグケンプファーと乗り継いだパイロットミハイル・カミンスキーミーシャ)中尉を共通項にした物語ですね。

【斎藤雅英】はい。ワンメイクの新造試作機のケンプファーは、おニューらしくピカピカのキャンディ塗装で仕上げましたが、“歴戦の勇士”しかも水陸両用タイプハイゴッグなら対照的にサビた仕上げが面白そうと思い制作、撮影しました。

 撮影後、そのハイゴッグを使って、自分自身のスキルアップのために、ジオラマ的な飾り台を作ってみようと思いました。イメージを膨らませていくなかで、この『入り江にて:戦士の休息』のシーンが目に浮かびました。ミーシャはいつもスキットルを懐に忍ばせ、搭乗中でも常習的に酒をチビチビやっているような親父ですが、きっとキレイな入り江を見つけたら立ち寄ってひと休みくらいはする素直な感情の持ち主なんじゃないか、だったらそういう情景を再現しようと思いました。

――長年のパートナーハイゴッグを労うミーシャの優しい感情が表現されているように感じます。

【斎藤雅英】ミーシャの操るハイゴッグは連邦の北極基地を殲滅させて生き残りましたが、帰還後の機体がどうなったのかは作中では描写がありません。ミーシャはその後サイド6に赴き、新型のケンプファーを受領しますので、水陸両用のハイゴッグは当然地球に置いてきたのでしょう。あくまでも妄想として、激戦を戦い抜け基地に帰還するハイゴッグを労いつつも、新型のケンプファー乗り換えミーシャの気持ちをイメージしました。

■「異次元」などと絶賛されたサビ表現は発生理由から考察

――新型MSに乗り換えミーシャの「今までよくやった」というセリフが聴こえてきそうです。ハイゴッグも、ウェザリング(サビ加工)が施され、見事なまでに“歴戦の勇士”感を醸し出しています。

【斎藤雅英】いくら宇宙での使用が想定されていない機体であっても、宇宙世紀のMSがサビる材質で作られているとは思っていません。ただ、手入れが十分でないと本体ではなく応急修理した個所に鉄粉が混じったり、塗装が弱かったりでサビが発生(付着)するのではないかと考えました。1年戦争末期の時代設定ですから、困窮したジオンの地球残党部隊では人員・物資共に不足していて、修理やリペイントが万全でないことは容易に想像できました。

――素晴らしい考察ですね。実際どのようにして、それらを具現化していったのですか?

【斎藤雅英】サビの発生原因と現れ方を、「塗装面にキズが入り、本体と塗装面との間に海水が浸入し、塗装の下からサビが浮き上がってきた」「構造上、海水が溜まりやすい箇所にサビがこびりついた」と設定しました。また、実際にはサビてはいないんですが、サビ止め塗装のオキサイドレッド色もトータルのサビ表現として取り込んでいます。

 サーフェイサーの上にサビ止め塗装としてオキサイドレッドを調色して下地色としました。次にシリコンバリアを要所要所に吹き付け、米空軍迷彩グレーで基本塗装はいったんフィニッシュ。接触して塗装が剥げそうな個所、海水の通り道や溜まりそうな箇所を楊枝などで、けがいて塗装剥がしを行いました。剥がした箇所の中でサビが出そうなところや、塗装は剥げていないけれどサビが付着して汚れそうな箇所を中心に、4種類のエナメル系塗料でウェザリングを施しました。

 シリコンバリアは初めて使ったので加減がわからず、想定より広く剥げてしまったのですが、オーバーめな表現になったのがかえってよかったのかもしれません。

――SNSなどで多くのモデラーさんから「プラスチックには見えない」「異次元」などの声が挙がるのも納得です。ガンダム制作陣へのリスペクトが感じられる素晴らしいこだわりですね。

【斎藤雅英】ありがとうございます。私は、原作者やデザイナーのみなさんが機体に込めた思いを自分なりに理解して、再現したいシーン(単なるポーズでもOK)=目指すゴールを思い浮かべてから制作に取り掛かることを信念にしています。そして、その目指すゴールを、その時点で「自分ができること」ではなく「頑張ればできること」、すなわちチャレンジによって達成可能なレベルとする。「新しく買った塗料を活かす」でもいいですし「スジ彫りを追加してみる」でもいいと思います。今回も「シリコンバリアを使った塗装剥がし」と「ジオラマベース制作」という初めてのことにチャレンジしています。何か小さなことであっても「新しいこと」に取り組んでステップアップしていきたいと思っています。

――ガンプラライフを満喫されていますね。最後になりますが、斎藤さんにとって「ガンプラ」とは?

【斎藤雅英】そうですね。ガンプラ好きは老若男女大勢いらっしゃいます。そういった方々とのガンプラや「ホビ写」を通じた交流、コミュニケーションはとても有意義で、特に既に還暦を迎えた私に取ってかけがえのない、人生の重要なピースになっていると思います。
 「ガンプラ」とは…、今話題のアニメ作品のオマージュですが「人生を豊かにする為のおまじない、かな」というところでしょうか。

『入り江にて:戦士の休息』 制作・写真提供/斎藤雅英氏 (C)創通・サンライズ