2020年、日本の自殺者数は11年ぶりに上昇し、前年を上回る2万1081人になった(4.5%増)。男性は前年より23人減ったのに対して、女性は935人も増えて7026人が自ら命を絶った。



※イメージです



 自殺防止の啓発活動として多くの言葉を綴ってきた私にとって、その数字は虚しさを覚える悲しいデータだった。


 どうにかこの連鎖をストップさせたい。そのためにも、自分自身もギリギリ自殺を踏みとどまった立場として、「越えられない夜」と「越えられた夜」にどんな違いがあったのかを考察したかった。


◆孤独死の部屋を“ミニチュア化”する特殊清掃員の女性



小島美羽さん(28)



 そんなときに出会ったのが小島美羽さんである。遺品整理クリーンサービスに所属する、特殊清掃員で遺品整理人。彼女が取り扱っているのは、「越えられなかった夜」が存在した部屋たちだ。


 孤独死。自殺、病気、殺人ーー。さまざまな理由のなか、その部屋で一人、息絶えた人間がいる。そんな事実が漂う部屋の後片付けをし、整理するのが、彼女の仕事だ。


 そして同時に、小島さんはクリエイターでもある。自分が出会った孤独死のあった部屋たちをもとに、ミニチュア模型を製作して展示会を行ったり『時が止まった部屋:遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』という書籍の出版も行った経歴がある。



小島さんが製作したミニチュア作品。首吊り自殺のあった部屋をもとに再現されている



 故人が最後の瞬間に過ごした部屋に触れてきた彼女が思う、「その夜を救えたかもしれないストッパー」が知りたかった。そうして実現したのが、この対談だ。


 前編「「きれいな自殺なんてない」死にそこねた私と、特殊清掃人が見たリアル<yuzuka×小島美羽>」では、私たちの考える自殺の現実についてを取り上げた。魂が抜け落ちた後、虫にたかられながら朽ち果てる遺体、なかったことにされる遺書。なにをどうとっても、自殺は決して美しいものではないということが伝わってくる内容だったと思う。


 とりわけ自分が亡くなった後に残したメッセージを破棄される可能性を考えると、なんとも苦しい気持ちになった。「死んだら私の気持ちを分かってくれるかもしれない」という思いすら空振りになる可能性があるのだとしたら、自殺はあまりにも大きな代償を伴うギャンブルだ。


 対談の後半では、遺された人たちに対する思いから、自殺をしないために身につけるべき考え方についてまでを話した。死を意識したことのある人、ない人。両方に読んでほしい。越えられなかった夜を過ごした主人を見送ったその部屋たちには、一体どんなメッセージが残されていたのか。


◆遺された人たちが、できたことはあったのか



yuzuka。コロナ禍のためリモートで取材をおこなった



yuzuka:DMにくる相談の中に、残された側の人たちもいます。どうすれば止められたんだろう、どうして気づけなかったんだろうって。だけどそれってすごく難しいことですよね……。


小島美羽さん(以下、小島):私も「前兆があったんじゃないか」って、よく言われますけど、まったくない方だってたくさんいると思いますから。自殺をした方には、昨日まで普通に会話をしていたのに……っていう方、すごく多いと思います。


yuzuka:そうですよね。反対に「死にたい死にたい」って何回も言われすぎて、まさか本当に死ぬわけがないと思っていたという方もいました。「死にたい」って、私はやっぱり人や状況によって重さが違うと思っていて。「しんどい」くらいの気持ちで「死にたい」を口にすることもあれば、本当に死にたいタイミングで口からこぼれることもある。それを見極めるのって、厳しいと思います。


小島:遺族の方もどうしたらよかったんだって、いつまでも自分を責めてしまうの、すごく苦しいですよね……。言葉から思いを悟るのもとても難しいことだと思っています。だからといって、常に電話して、おせっかいなおばさんみたいに根掘り葉掘り聞き続けるってのも違う気がするし。


yuzuka:答えのない問題ですよね。「とにかく関わって、相談にのってあげて」って、口で言うのは簡単なんですけど、めちゃくちゃ大変なことだと思うんです。実際、私のところにも自殺したいという方からたくさん連絡がくるんですけど、そのなかに、定期的にリストカットの画像とか、屋上の画像と一緒に「今から死にます」という連絡を送ってくる、ある女の子がいて……。


 その子とは、かれこれ4年くらいずっとそんなやりとりがあるんです。返さないと余計に腕を切ってしまったり、精神状態が悪くなってしまう。緊急性が高いのでできるだけ対応しているのですが、やっぱり私にも自分の生活があるし、難しいなと感じることはあります。だから「話を聞いて寄り添ってあげて」っていうのも、ものすごく酷なことを求めているなとは思います。


◆「聞いて欲しい」に応える電話窓口が全然つながらない



小島:ひっぱられてしまう部分もあるし、相談に乗りつづけるのって難しいですよね。


yuzuka:はい。そういうときに機能すべき場所が、自治体やNPOが設置している電話相談窓口なのかな、と思うんですけどね……。私に相談してくる多くの方も、あそこに電話をかけたって言うんです。でもやっぱり、永遠に回線が繋がらなかったと。繋がった方にあったことがありません。


 そこからさらに孤独を感じて、ストッパーどころかトリガーになってしまうケースもあるのではと、ときどき思います。でも、あそこもボランティアでなりたっているわけですから、これ以上規模を拡大することも難しいし、求められない。だけど、いつでも機能する場所を作ってほしい……と思いますね。


小島:そうですね。「死にたい」って言う人たちって、死にたい気持ちと同じくらい「話したい」って気持ちがあると思うんです。座間市の事件、あったじゃないですか。自殺願望を持つ若者をTwitterで誘い出して、自宅アパートで9人も殺してしまったという。あのときも、死にたいからというよりは、話を聞いてほしくて会いにいってしまって、殺された子がほとんどだったと報道されていました。


yuzuka:そうですよね。「自殺防止センターの電話なんて意味がない」みたいな人もいますけど、あれがもし100%繋がって誰かと話せる状態なら、踏みとどまる人って結構いるんじゃないかなって思うんです。ただ、運営が本当に難しいのも分かるから、今の状況を責めることもできないなって思います……。そういう場所、いつか作れたら良いなと思っています。


◆どんな人?趣味は?故人に思いを馳せる理由



特殊清掃の仕事をおこなう小島さん



yuzuka:小島さんがこの仕事を通して、亡くなった方たちに思いを馳せるようになったのって、どうしてでしょう?


小島:仕事をしていくなかで「これってどういうことだろう?」って、疑問に思うことがたくさんあったんです。例えば浴槽で自殺された方の部屋で作業をしているとき、大きな石が置いてありました。なぜだろうって考えて、死ぬときに浮き上がってこられないように自分の身体に乗せたのではないかと考えました。残された状況や物で、その人がどう生きて、どう死んでいったかが見えてきます。それを知るのって、必要なことだと思うんです。


yuzuka:それを考えすぎたら、自分のメンタルにまで影響してしまいませんか?



小島さんのミニチュア作品より



小島:もちろんそうなってしまいそうなときもありますが、それでも必要なことだと思います。遺品整理をしていくなかで得た情報って、遺族の方にとっても大切な場合が多いんですね。


 だから、もちろんまずは作業に集中して淡々とこなしますけど、遺族の方と会ったときには、自分なりに分かったことを伝えたい。出てきた写真とか、どんな趣味があったとか、思い出とか。だから、私は考え続けたいです。



小島さんのミニチュア作品より



yuzuka:今後も、そこから得た気持ちを作品に変える活動を続けていかれますか?


小島:はい。私の作品を見た人から「肯定してもらえた気持ちになった。生きようと思えた」って、連絡が来たときに、伝わっているんだなって思いました。だからやっぱり、これからも続けていきたいと思います。


yuzuka:私も、これから先も作品を通して死に対する思いを伝えていきたいです。死にたい気持ちを肯定しながらも、何か道しるべを見つけてほしい。本やコラムを通して、私は「言葉」という形で、小島さんは「ミニチュア模型」という形でそれぞれ伝えていく。やっぱり私たちって、ちょっと似ている気がします。



『君なら、越えられる。涙が止まらない、こんなどうしようもない夜も』(大和書房)



小島:そういえば、yuzukaさんの本『君なら、越えられる。涙が止まらない、こんなどうしようもない夜も』を読んだとき、すごく似ているなって思った部分がありました。全体を通していえることなんですけど、「この人しかいない」とか、「ここしかない」って、本当に危険だと思っていて。そうじゃないんだよって伝えてくれる言葉が書かれてあるのは、救いになっていると思います。


◆素敵な人以外からかけられた言葉なんて、どうでもいい



yuzuka:ありがとうございます。本の中に「素敵な人以外にかけられた言葉なんてどうでもいい」という言葉を書きました。これって一見あたりまえのことなんですが、すごく大切で、だけどそう思うことが難しいと思うんです。でも、私は人生の中で、この考えを本当の意味で習得できたのはすごく大きなことだと思っていて。というのも、一時期ものすごく誹謗中傷がたくさん来た時期があったんですね。とくに容姿にまつわることだったんですけど、生まれつき持っていた部分を攻撃されるって、すごく辛いんですよね。


 私はその状況で自殺も考えたし、中傷を受ける原因となった顔も整形しました。でも、整形した顔をのせても、ある掲示板で、5000件ほどの誹謗中傷が殺到していました。「こんな顔なら死ぬわ」「整形してこれなんてやばい」「バケモノ」そんな言葉たちです。いつもなら挫(くじ)けてしまうと思うんですけど、突然ふと、思ったんです。こんな言葉をかけてくる人の中に、素敵な人なんて一人でもいるのだろうか?って。


 私の尊敬する素敵な人たちに、こんなことを言いそうな人がいる?って考えてみたら、いないって気づいて。じゃあ、こんな奴らの言葉、気にする必要ないよねって思いました。そこからはまったく気にならないし、それが原因で死にたいなんて思わなくなりました。


小島:そういう人たちって、何も想像せずに攻撃するんですよね。


yuzuka:本当にそうです。無神経な人って、その言葉がどんな意味を持つかも考えていないし、何を言ったかすら、覚えていないです。



小島:私、そういうことに「怒る」のもすごく大切だと思います。憎しみは何も生まないっていうけど、怒りのパワーってすごいです。なにくそっていう復讐心を生きる気力に変えてほしい。私自身も誹謗中傷を受けたことがありますが、ちゃんと怒ってすっきりしました。


yuzuka:わかります。私、「表に出てるんだからそんなことスルーしなよ」って言葉が本当に嫌いで。なんでやられたままで我慢しなくちゃいけないの?って。だから最近は言い返してます。自分の中で溜め込んじゃうと、自分が悪いんじゃないかって思ってしまうから。ネットに限らず、ひどいことをされたら相手にしっかり怒りを感じることも大切なのかもれません。
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◆死ぬ前に、死ぬほど足掻いてみてほしい
「死にたい」という気持ちをバカにする人がいる。


「生きたい人もいるのに」と、怒る人さえいる。


 だけど私はどうしても、それを正しいとは思えないのだ。だってそこには「越えられない夜」が、確かに存在していて、「死にたい」という思いを抱えた誰かが存在するのだから。だから私はまず、誰かのその思いを肯定したい。


 小島さんとの対談で改めて思ったのは、自分自身についても、友人についても、「自殺を止める」というのは、とても難しいということだ。


 だけど、だからこそ、私も、そして彼女も思っているであろう共通の思いは、どうか、最後に目一杯足掻(あが)いてほしいということだ。しんどくても、突き詰めて考えて、生きる希望を探してほしいということだ。そしてもう一日、もう一日、と、少しずつ生き延びてほしい。


 そうやって生き延びた私だからこそ思うのは、多分その先に、希望はある、ということだ。


 周囲の人間にできることは、これから先、考え続けることだと思う。そこに何があれば良かったのか、どうすれば、その誰かを引き止められるのか。


 これってもう、他人事じゃない。素敵な人に、これ以上死んでほしくない。こんな世の中、間違っていると、そう、強く思う。


 これから先、私も、小島さんも、こういった活動を続けていくと思う。続けながら、考えて、考えて、考え続けるだろう。きっと、答えはないけれど、それで何かが変わると信じて。


 私も伝え続けたい。たとえそれが薄っぺらい言葉に聞こえたとしても。


 君なら越えられる。涙が止まらない、こんなどうしようもない夜も。


<取材・文/yuzuka>


小島美羽
1992年、埼玉県生まれ。2014年より遺品整理クリーンサービス(株式会社ToDo-Company)に所属し、遺品整理やごみ屋敷の清掃、孤独死の特殊清掃に従事する。孤独死の現場を再現したミニチュアを2016年から独学で制作開始し、国内外のメディアやSNSで話題となる


悩みを抱えたときの相談先


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・厚生労働省「まもろうよ こころ
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【yuzuka】コラムニスト。精神科・美容外科の元看護師でもある。著書に『君なら、越えられる。涙が止まらない、こんなどうしようもない夜も』『大丈夫、君は可愛いから。君は絶対、幸せになれるから』など。Twitter:@yuzuka_tecpizza