東急が、定額ホテル暮らしの先行体験を開始。コロナ禍で落ちた稼働率の対策ではなく、元はコロナ禍以前から存在した企画で、「住」の不自由を改善する新しいライププランの提案であることに注目です。

似て非なるホテル暮らしプラン

東急が60泊36万円、30泊18万円(1泊あたり6000円、税込み)で「ホテル暮らし」ができるサービス「tsugi tsugi(ツギツギ)」の先行体験を、2021年4月29日(木・祝)から開始します。

コロナ禍による需要低迷を受け、ホテル暮らしプランの提供が帝国ホテルやニューオータニなどで行われていますが、東急の「tsugi tsugi」は似て非なるものです。

「tsugi tsugi」は、「『ただいま』と帰る場所をツギツギと巡る、旅するような暮らし方」がコンセプト。東急グループのホテルが全国に存在することを活用する形で、旅するように、気分や都合によって、毎日好きな場所を「家」にしてもらおうというものです。

渋谷エクセルホテル東急といった都市部のホテルほか、宮古島東急ホテル&リゾーツなどのリゾートホテルも含めて、全国39の施設をその定額料金で利用可能(土休日やGWでも追加料金なし)。同伴者は1名まで無料で、食事などが優待割引料金になります。

「旅するように」というのも、一般的なホテル暮らしプランと異なるところですが、そもそも「tsugi tsugi」はコロナ禍以前に、元となる企画が提案されていました。

「新しい方向」へ大きく進み出したコロナ禍

「結婚や出産といったライフステージによって住む場所に求めることが変わる」「住宅購入は動けなくなるリスクがある」「引っ越し・住み替えには手間やコストがかかる」「ホテル暮らしは手が届かない」といった、住む場所に関し存在する不自由。

それに対し、2016年度の税制改正で通勤手当非課税上限が月15万円に拡大されたこと、今後テレワークが普及していくだろうことを受け、より自由な暮らし方ができないかと、2018年に東急の社内起業家育成制度で提案されていたそうです。

しかし、当時は「テレワーカーが何人いるのか?」「それを使える人がいるのか?」という社内・社会情勢だったとのこと。

それがコロナ禍で、変わりました。

東急の「tsugi tsugi」は、既存の「住む」の不自由に対する新しいライフスタイルの提案・サービスの提供が出発点にあり、コロナ禍によって働き方が世の中全体でその新しい方向へ大きく進み出したことから、具体化した形です。「ワーケーション」という言葉も、普通に聞かれる時代になりました。

この「tsugi tsugi」を東急は、「定額制回遊型住み替え事業」としています。

コロナ禍以前からの「ホテルの課題」も副次的に改善できる?

今回の「tsugi tsugi」の先行体験実施には、コロナ禍でホテルの稼働率に余裕があったことも後押しになっているそうですが、ホテルの稼働率改善が最初にあったのではないとのこと。また、コロナ禍がなくともホテルでは一定の空室が出るもので、基礎稼働をいかに上げるかが課題であるなか、「tsugi tsugi」は副次的にそれを改善する方法になり得るといいます。

想定しているおもな利用者は、独身者、若者、テレワーカー、フリーランスの人など。今回の先行体験モニターである滝さん(女性、独身、外資系IT会社員、都内在住、一人暮らし、30代)は、体験への参加について次のように話します。

「2020年3月から在宅ワークになって、ずっと家にいるのがつまらないと感じていたなか、旅行感覚でワーケーションできるのでワクワクしています。ただ荷物のことを考えると、トランクルームや輸送サービスがあるといいのですが……」

今回行われる「tsugi tsugi」の先行体験では、ユーザーがどこへどのように移動するか、またそれに関わるコストや心理的負担などの検証が行われ、将来的にユーザー同士、またはユーザーと地元の人がコミュニケーションできる場や、長距離移動にかかる費用や手間を軽減させる仕組みをつくることなどが検討されます。また幅広く事業を行っている「東急」というグループの力を生かし、生活を支える付帯サービスの展開も考えられるとのこと。

この「tsugi tsugi」について、60泊プランは4月16日(金)、30泊プランは5月9日(金)まで、各50名の体験者を募集(応募多数の場合は抽選)。宿泊は連続する60泊、もしくは30泊です。

コロナ禍をひとつのきっかけに、コロナ禍以前から存在した「住む」の課題を改善する試みが進んでいくのでしょうか。「住」「職」「旅」をシームレスにするこの「tsugi tsugi」は、ひとつのニューノーマルになるのでしょうか。

渋谷の街を一望できる渋谷ストリームエクセルホテル東急も対象施設(2021年4月9日、恵 知仁撮影)。