(姫田 小夏:ジャーナリスト

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 ドイツの金融都市フランクフルトでは新型コロナウイルス感染拡大への対応として今なおロックダウンが続いている。そのなかで、住民の数少ない楽しみの1つとなっているのが、食品スーパーへの買い出しである。

 4月上旬、フランクフルトに駐在する瀬良さん夫妻(仮名)は、自宅から車で30分かけて、ドイツ最大のアジア食材のチェーンスーパー「go asia」に向かった。購入したのは、オイスターソースポン酢、蕎麦などだ。

 海外ではいたるところで現地のアジア系住民を対象にした食材店を見かけるが、ドイツのgo asiaは従来の店とは規模が違う。7000以上のアイテムを揃えるgo asiaドイツの首都・ベルリンに初出店したのは2009年2月のこと。以来、店舗数を拡大し、現在はドイツ全土で25店舗を展開している。フランクフルトではツァイル通りという目抜き通りで、大々的に営業している。

 go asiaの品揃えは豊富で、米、味噌汁インスタントラーメンなど日本の定番食品はもちろん、アジア各国の食材や調味料、さらには和食器、茶碗などの生活小物や、電気ケトル、加湿器といった小型家電製品まで取り揃えている。瀬良さん夫妻は「よほどこだわらない限り、go asiaのおかげで食生活に不自由を感じることはありません」と語る。

 ドイツでは、こうしたアジアスーパーが増えている。go asiaのほかにも中国系資本とおぼしき「フレッシュアジア・遠東超市」(2002年開業)、「開元亜超」(2008年開業)、「打醤油」(2015年開業)などが展開している。特に打醤油は欧州最大のアジア食品通販サイトを運営し、欧州以外にアフリカモロッコにまで配送を行っている。在独アジア人のみならず、ドイツ市民もgo asiaを利用しており、「開元亜超」に至ってはドイツ人をもターゲットにした戦略を打ち出している。

国際貨物列車「中欧班列」の影響も

 なぜここ数年の間にドイツの日常にアジアの食材が広まったのか。ドイツ南部の大都市ミュンヘンに16年在住し、日本企業のドイツ進出を支援するKobepublishing社代表の内海志保さんは、「鉄道による商品輸送が本格化したこともあるのでしょう」と語る。

 内海さんが言う鉄道とは、中国発・欧州行きの国際貨物列車「中欧班列」(Trans-Eurasia Logistics、またはChina Railway Express、以下「CRE」)である。

 中欧班列のルートはいくつかあるが、メインルートは、中国の重慶からカザフスタンロシアベラルーシポーランドを経由して、ドイツ西部の工業都市デュイスブルクまでの全長約1万キロを14~15日で結んでいる。

 第一便が運航を開始したのは2011年3月。2年後の2013年に中国が「一帯一路」構想を提唱してから飛躍的に貨物量が増えた。

 さらに、2020年コロナ禍で空と海の輸送が一時的に制限されたことを受けて、年間運行本数は前年比50%増の1万2400本に達した(中国メディア「第一財経日報」より)。1日あたりに換算すると34本、すなわち42分に1本の貨物鉄道が中国からドイツに向けて発車する計算だ。取扱貨物量も前年比56%増の113.5万TEU(20フィートコンテナ換算)になったという。これまで中国から欧州への商品輸送は、船と飛行機が主流だったが、そこに「空よりも安価で海よりも短時間」という鉄道が加わるようになったというわけだ。

寿司は「中国の食べ物」?

 go asiaアジア各国の商品を扱っているが、店舗は中国色が強い。オープニングの際には獅子舞が躍り、店内には赤い提灯がぶら下げられる。そして、パッケージ中国語が書かれた冷凍食品や加工食品が大量に入荷され、「鍋底」(火鍋のもと)などの調味料が棚にズラリと陳列される。

 そのためgo asiaを訪れる現地の人は、次第に「アジア=中国」というイメージを抱くようになっていく。

 内海さんは次のように話す。「これまでドイツでは、『アジアの食べ物といえば寿司であり、寿司といえば日本』というイメージでした。ところがgo asiaのようなアジアスーパーで、“なんちゃって寿司”が売られるようになったため、必ずしも寿司が日本とは結び付かなくなりました。ドイツ人にとって、寿司は日本の食べ物なのか中国の食べ物なのかが、だんだん曖昧になってきています」。

 go asiaで取り扱う商品の国別の構成比(ネット販売部門に限る)を調べてみると、アジア12カ国のなかで、中国を原産国とするものがダントツに多く約46%に上る。そして2位が日本の約21%、3位がタイの約12%、4位が韓国の約11%と続く。

 ドイツに住む中華系市民は約21万2000人。在留邦人はそれよりもはるかに少ない4万4765人(2020年外務省統計)である。在留邦人の割合の少なさ、日本から商品を輸送する際に海を越えなければならない点などを考慮すると、日本アイテムの割合が2位につけているのは、よく“健闘”しているほうといえるだろう。

 しかし残念なことに、ドイツでは日本食の存在感は低い。ドイツ人の“日本産”に対するこだわりもほとんどない。

 内海さんはこう語る。「残念ながらドイツの人たちは日本食を『アジアのどこかの食材』としか見ていないようです」。抹茶もこし餡も中国語パッケージに包まれた中国産が出回ることで、いつのまにか日本人が好んで食べる食材が「中国の食品」と思われてしまう現象が起きているのだ。

 インドカレーがそうであるように、食文化は伝播とともに形を変えていくものだ。だが、本家本元の価値が毀損されるのは残念でならない。ぜひとも「本場の味」の実力発揮に期待したいところだ。

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ドイツ・ミュンヘンにあるgo asiaの店頭ディスプレイ