米国務省が3月末に発行した「2020年国別人権報告書」で、韓国の文在寅ムン・ジェイン)政権の関係者の名前が多数登場した。韓国では、「人権弁護士出身」を誇る文在寅大統領によって三流人権国家へ転落したとのため息が漏れている。

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韓国の人権蹂躙事案が続々

「国別人権報告書」とは、米国の国務省が、各国における前年度人権状況を議会に報告するため毎年作成している年次報告書だ。海外に派遣されている米国の外交官たちが、人権活動家など多様なルートを通じて得た情報をもとに報告書の草案を作成し、国務省の民主・人権・労働局が専門家の諮問などを経て最終確定し、公開している。米政府は、海外貿易や対外政策を決定する際にこの報告書を根拠資料として活用しているため、報告書で取り上げられているだけでも該当国家の政府はかなりのプレッシャーを感じる。

 今回の報告書では、韓国関連の人権蹂躙事例として、○対北朝鮮ビラ散布禁止法による表現の自由の制限、○曺国(チョ・グク)前法務部長官の不正行為や汚職問題、○尹美香共に民主党議員の慰安婦支援団体運営関連横領事件、○朴元淳(パク・ウォンスン)前ソウル市長や呉巨敦(オ・ゴドン)元釜山市長のセクハラ事件、○刑事上の名誉毀損法の存在、○軍隊内の同性愛不法化の法律などを列挙している。

 まず、昨年、文在寅政権の統一部が主導して与党が単独で国会で可決した「対北朝鮮ビラ散布禁止法」については、以下のように記述している。

「統一部は南北境界地域の住民たちの生命と安全を保護するためのものだと明らかにしているが、批判論者たちは(政府が)活動家や脱北者たちの表現の自由を抑圧し、北朝鮮人権蹂躙及び北朝鮮住民の生活を改善するための市民社会の努力を妨害していると見ている」

「潘基文(パン・ギムン)前国連事務総長も政府に対し、改正を通じて提起される人権問題を是正するよう要求した」

 報告書は、韓国政府が北朝鮮関連NGOの活動を制限するという人権団体の主張を載せたほか、統一部が対北朝鮮ビラを散布するNGOの「自由北朝鮮運動連合」や「クンセム」に対する運営許可を取り消した事実や、北朝鮮人権および脱北者定着支援活動に参加している25個のNGOに対する点検に着手した事実も取り上げた。

「韓国政府の腐敗や透明性」という項目では、曺国元法務長官が昨年に続き、2年連続で紹介された。曺氏については、夫人などの家族がさまざまな不正スキャンダルで検察の調査を受けたという点が2019年の人権報告書で詳細に言及されたが、今回も具体的に言及された。

「曺長官と妻の鄭ギョン心(チョン・ギョンシム)氏、そして彼の家族と関係のある者に対する腐敗捜査が続いている。2019年12月、韓国検察は曺元長官を収賄や不当利益、職権乱用、公職者倫理法違反、その他の犯罪容疑で起訴した。韓国裁判所は、2019年8月、曺氏家族の腐敗容疑が明らかになると曺氏の甥が曺氏の妻と共謀して証拠を隠滅したと判断した」

慰安婦関連団体のあの人物の事例も

 尹美香議員は、正義記憶連帯の理事在職時代の慰安婦基金流用事件が紹介された。慰安婦運動のゴッドマーザーとして知られている尹氏は、2020年4月の総選挙の出馬をきっかけに、李容洙(イ・ヨンス)氏をはじめとする元慰安婦らから、これまでの不正事実が暴露された。韓国検察はその年の9月、尹氏が個人口座などを使用して42億7000万ウォンの寄付金を募集した行為、政府から虚偽申請などを通じて3億6000万ウォンの補助金を受領した行為、重症の認知症を患っている元慰安婦のキル・ウォンオクさんから7920万ウォンを寄付もしくは贈与として受け取った行為などについて、横領、背任、詐欺、準詐欺など、8件の容疑で起訴し、現在一審裁判が進行中だ。報告書は尹氏の事件について次のように記述している。

「(2020年)9月、検察は初選議員である尹美香を、日本軍慰安婦を支援するNGOの『日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯』理事長在職期間に、詐欺、業務上横領、職務遺棄および資金流用や関連するその他の犯罪にかかわった容疑で起訴した」

 与党から追い出された金弘傑(キム・ホンゴル)議員については、「金大中(キム・デジュン)前大統領の息子で初選議員の金弘傑が、国会議員候補者登録の際に財産を縮小報告した容疑で、9月18日、党から除名された」と紹介された。

 金弘傑氏は2020年4月の総選挙で比例代表候補に選出されて選挙管理委員会に58億ウォンの財産を申告した。しかし、8月の高級公職者の財産公開内訳では、約68億ウォンの財産を申告し、総選挙のためにわざと財産を縮小して申告したという疑惑を受けた。共に民主党は彼を党から除名したが、金氏は一審で80万ウォンの罰金刑を受けただけで国会議員職は維持している。

目を引く公職者によるセクハラ

 報告書はまた、「差別、社会的虐待、人身売買」項目の「セクハラ」部門で、「昨年の一年間、ずっとセクハラが深刻な社会問題になってきており、公職者たちが関わって世間の目を引いた事件を含め、数多くのセクハラ容疑が報道された」とし、朴元淳前ソウル市長や呉巨敦前釜山市長を取り上げた。

 朴前市長に対しては被害者の訴状を引用して、セクハラ内容まで記述した。

「2017年から朴前市長は、同意なしに被害女性の体に触り続け、不適切なメッセージや写真を送り、被害女性が部署を移しても嫌がらせは続いた」「朴前市長が自殺した後、被害者は声明を発表し、朴前市長が下着だけを着ている写真を送ったり、事務室の隣の寝室で抱いてほしいと要求したりしたと明かした」

 呉前市長に対しては、「女性職員と不必要な身体接触を認めた後、(2020年)4月に辞任した」とし、「(同年)8月に強制わいせつで起訴された」と述べた。

 報告書では、名誉毀損に対する刑事裁判が存在する問題についても触れている。

「韓国政府と大衆は名誉毀損を幅広く規定して刑事処罰する名誉毀損罪を利用して公論を制限して、マスコミと個人の表現を侵害したり、検閲したりした」

文在寅大統領共産主義者と非難したコ・ヨンジュ前放送文化振興院の理事長が名誉毀損で有罪判決を受けた」

 コ・ヨンジュ理事長は2013年、ある保守派団体の学術会で「文在寅氏が共産主義あることを確信する」と発言し、新千年民主党(共に民主党の前身)から名誉毀損で告発され、昨年の二審判決では懲役10カ月に執行猶予2年という懲役刑が言い渡された。報告書は、「韓国内の保守派NGOは、高位公職者を批判する自由が民主主義の土台であることを認める法と食い違った結果だと非難している」と付け加えた。

 他にも、「言論の自由」と関連し、大学の建物の中に文在寅大統領を批判する張り紙を貼った25歳の男性が50万ウォンの罰金を宣告された事実も紹介された。2019年11月、韓国・天安に所在した檀国大学のキャンパス内の建物1階に文在寅大統領を非難する張り紙を貼った青年が警官によって検挙された。大学側は「学校は一般に開放されている」とし、青年に対する処罰を望まないと法廷で証言したにもかかわらず、韓国の裁判所は「無断侵入罪」を問い、青年に50万ウォンの罰金を科した。韓国内ではこの裁判に対し、「権力の顔色を伺う警察や裁判所が25歳の青年を前科者にした」という非難が巻き起こった。

 報告書の発刊を主導した米国務省の民主・人権・労働局のスコット・バスビー首席副次官補代行は韓国の中央日報とのインタビューで、韓国の人権問題に対して米国が注目していることを示唆した。

「人権報告書は個別国家に勧告や提案をしない。ただ、報告書に盛り込まれたアイテムが我々の関心事かと聞かれたら、『もちろんだ』と言いたい。該当国家がその問題を扱うべきだと提案するのかと問われれば、答えは『イエス』だ」

米議会での公聴会を巡り、米韓で激しいさや当て

 米議会は4月15日の午前10時(現地時刻)から韓国の対北朝鮮ビラ禁止法に対する聴聞会を開催し、インターネットを通じて世界に生中継する。聴聞会のため、米議会は5人の証人を採択したが、そのうち4人が同法案に批判的な人々だ。韓国の統一部は「聴聞会は議決権のない政策研究会に近い」と説明したが、米下院関係者は「聴聞会をけなそうとする政治的描写だ」と反発するなど、開催前から両国が神経をとがらせている。

 今、バイデン時代の米国は文在寅政権に対し、「民主主義の価値を共有する同盟」なのかを問うているのだろう。人権問題を巡って米韓間の摩擦は激化する見通しだ。

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人権弁護士出身の文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)