2014年はプロ野球創立80周年のメモリヤルイヤーだ。
1934年、日本で最初のプロ野球選手が誕生し、ベーブ・ルースルー・ゲーリッグらが名を連ねた大リーグ選抜軍との日米野球が開催。そして同年12月には大日本東京野球倶楽部が設立され、日本プロ野球の歴史がスタートした。

NPBの公式ページでは「プロ野球80周年」と題し、2014シーズン中、12球団のキャップワッペンとして付けるシンボルマークを発表している。
そのシンボルマークのテーマは「歴史・伝統・未来」。
このテーマにふさわしい、プロ野球史を知るための歴史書が、昨年末に発売された『日本プロ野球ユニフォーム大図鑑』だ。

著書はユニフォーム研究の第一人者であり、かつて『プロ野球ユニフォーム物語』を上梓した綱島理友。その著者自身による増補改訂版ともいうべき本作は、「物語」から「図鑑」にタイトルが変わったように、より資料性の高い作品になっている。

思い返せば2005年、『プロ野球ユニフォーム物語』が発売された時にお金がなかった私は、そのあまりの高値(税込7,350円)に泣く泣く購入を断念し、知人が買った一冊を借りてなめ回すように読んだものです。その後絶版となり、「あぁ、やっぱり買っておけばよかった」と何度思ったことか。
あれから8年。今回は上・中・下巻の3冊セットで8,820円! 前作よりも高値になってしまったけど迷わず購入。いやぁ、買ってよかった!

全3巻+小冊子(3冊セットの場合のみ付いてくる付録。独立リーグ編)で633ページ。掲載ユニフォーム数約800点。
2005年から2013年シーズンまでのユニフォームが追加されたのはもちろん、古のユニフォーム点数も大幅に増えている。
そして前作と大きく違うのが、写真の掲載点数が非常に多くなっていること。しかも、1930~60年前後の古い写真もすべてデジタル加工でカラー化されているため、伝説の選手たちがカラーで蘇るという贅沢な仕上げになっている。さすがは8,820円。
現在のセ・パ12球団はもちろんのこと、球団合併によって消滅したチーム、解散してしまったチームも含め、過去にNPBに所属したプロ野球チームの歴代全ユニフォームが精密なイラストで再現され、各球団関係者やかつて実際に袖を通した選手たちへの丹念な取材で導かれた解説文はうんちくや新情報が満載で読み応えバツグン!
今はなき阪急ブレーブス近鉄バファローズ南海ホークスといったチームをユニフォームを通して振り返ることができるのはもちろん、名古屋金鯱軍や東京セネタース、高橋ユニオンズ後楽園イーグルスなど伝説のチームも全て掲載。もちろん、日拓「七色のユニフォーム」、福岡ダイエーの「鳥顔ヘルメット」、千葉ロッテの「サンライズピンク」や「ギザギザ模様シリーズ」などなど、歴代問題作も全て振り返ることができてしまう。

上・中・下巻、それぞれ個別販売もされているので、好きな球団が掲載されている巻数だけ購入することも可能だが、やっぱり頑張って3冊セットで買うことをオススメしたい。
全体を俯瞰で見ることによって、「ファン開拓に躍起になっていたパ・リーグは結果的に冒険作、問題作が多い」とか、「監督が変わると軒並みユニフォームが変わる」、「同じタイミングで、似たようなグラデーションを採用している」といった流行まで見えてくる。
そしてそこにこそ、球界の「歴史・伝統・未来」を考えるためのヒントが眠っているはずなのだ。

著書である綱島理友が、解説文やまえがき・あとがきなどで何度も提起しているのもその点だ。
綱島の基本姿勢は「ユニフォームはそう簡単にモデルチェンジすべきではない」というもの。ところが、前著『プロ野球ユニフォーム物語』が契機となったかのように、2005年以降、各チームが毎年のようにモデルチェンジを繰り返すという皮肉な状況が生まれている。
綱島は、この「ユニフォーム・ブーム」ともいうべき日本球界の現状に、アメリカのユニフォーム事情と比較することで疑問を提している。

《アメリカのメジャーリーグでは、戦前からユニフォームモデルチェンジを行っていない球団がいくつもあります。(中略)日々、変わりゆく世の中で、唯一変わらないのはベースボールだけ。それこそがベースボールナショナルパスタイムとしてアメリカ人に愛され、心のよりどころとなっている所以だと思うのです。》

ルー・ゲーリックやテッドウィリアムスといったレジェントたちと今の選手が着ているユニフォームに大きな違いがないというアメリカ。
対して日本は、素材や裁断方法、印刷技術といった各メーカーの技術開発が、ユニフォームのデザインにも影響を及ぼしているという。
たとえば、日本でメッシュ生地が生まれたのが1970年代。ところがアメリカでは、マイナーリーグでは採用しても、メジャーではつい最近までメッシュ生地は採用されなかった。いったいなぜか?
それは、メッシュではユニフォームの素材として薄すぎて風格が出ないからだ。2000年に中日ドラゴンズに来たエディ・ギャラードは、「メッシュはマイナーリーガーのユニフォームだから」と、あくまでニットユニフォームを着ていたエピソードが紹介されている。
《アメリカにはベースボールの文化があります。そこからネオ・クラシックという哲学が生まれ、ユニフォームもその思想のもと作られています。だから、格好よく見える。
しかし、日本のスポーツメーカーのデザインするユニフォームの場合は、まず前提に技術やテクノロジーがあって、それにデザインが引っ張られてるように見えます。そこに野球文化はあまり感じられません。》

綱島はこうも語る。
《スポーツの中でベースボールほど過去とリンクしているスポーツはありません。多くの記録が存在し、過去は重要な要素として、常に現在とリンクして生き続けます。》

2014年、日本のプロ野球では、読売ジャイアンツ中日ドラゴンズが新ユニフォームで臨む。
巨人の場合、左袖には日本一の回数22回を示す星のマークが刺繍され、ビジター用では故・川上哲治が監督に就任した1961年から92年まで着用していた青を基調としたデザインに変更。同様に中日も、落合GMの「最も強かったときのものを」という提案をもとに初めて日本一に輝いた1954年のデザインがベースのクラシックタイプを採用。
奇しくも両チーム「伝統」がキーワードになっているのは、綱島の願いが届いたのかどうなのか。

「歴史・伝統・未来」を見据える80年目のプロ野球は、もうすぐキャンプインだ。


日本プロ野球ユニフォーム大図鑑』全3巻セット(8,820円)
◆上巻◆(2.940円)
【掲載球団】読売ジャイアンツ阪神タイガース中日ドラゴンズ、東京セネタース、オリックス・バファローズなど
巻頭の「ユニフォーム進化論」では、第一号のベースボールチームであるニューヨークニッカボッカーズまでさかのぼり、日米のベースボールユニフォームがどのように進化し、変遷してきたのかをたどることができる。

◆中巻◆ (2.940円)
【掲載球団】横浜DeNAベイスターズ福岡ソフトバンクホークス北海道日本ハムファイターズ千葉ロッテマリーンズなど
松竹ロビンス、高橋ユニオンズ後楽園イーグルスなど伝説のチームも。巻末特集の「チームのロゴデザインとチャンピオンマークコレクション」では NPB全球団のマーク、優勝記念マーク、イベントマークなど各球団が使用してきたマークを掘り起こして掲載。 デザイン学、CIやマーク考察としても楽しい。

◆下巻◆ (2.940円)
【掲載球団】埼玉西武ライオンズ広島東洋カープ東京ヤクルトスワローズ東北楽天ゴールデンイーグルスなど
また、近年急激に増えている企画イベント用ユニフォームや復刻ユニフォームカテゴリーを別にして掲載。さらにオールスターゲーム、日本代表、幻のリーグなども紹介している。

※全3巻セット購入者への特別付録として独立リーグ(四国アイランド、BC、関西独立、日本女子プロ野球)のユニフォームをまとめた小冊子付き
オグマナオト)

日本プロ野球ユニフォーム大図鑑(全3巻セット)綱島 理友/ベースボール・マガジン社 ユニフォームで掘り起こすプロ野球史。全3巻+小冊子で633ページ。掲載ユニフォーム数約800点。