かつてのイメージから着実に変化を繰り返し、今や企業がスポンサーについたプロリーグも人気となっている麻雀。ゲームアプリとして楽しむファンも多く、雀荘も薄暗がりでタバコの煙が…というのも昔の話になりつつある。この麻雀人気を支えているのがインターネットでの対局放送やSNSだが、ここで大きな問題を抱え続けている。誹謗中傷だ。トッププレイヤーは、この問題をどう捉えているか。人気プロ雀士2人に、その率直な思いを聞いた。

【動画】トップ雀士たちが集うMリーグ

 どの世界でも、これまで以上に問題視されることが増えた誹謗中傷。特にネット上では、顔が見えない不特定多数から大量に心ない言葉を浴びせられることで、精神的に追い詰められるというケースが多い。人気のプロ雀士にも、対局する度に様々な声が寄せられる。もちろん応援するファンも多いが、それにも増して中傷の言葉は心を斬りつける。話を聞いたのはプロ麻雀リーグMリーグ」でも活躍し麻雀プロ団体「RMU」の代表を務める多井隆晴、同じくMリーグプレーし美人雀士として一気に人気プロの仲間入りを果たした瑞原明奈(最高位戦日本プロ麻雀協会)の2人だ。重いテーマでの話ではあったが、両者ともまずはコメントに対する肯定的な思いを語り出した。

 多井隆晴(以下、多井) 野球とかサッカーみたいに、応援する意味での野次は全然いいんですよ。多井が負けた時に「何やってんだ!多井!」は全然うれしいし、それこそプロらしい。たとえば技術論でも、将来の麻雀の定跡を作ろうぜ!という前向きなものなら、いくらでも協力します。

 瑞原明奈(以下、瑞原) 麻雀についてのことやミスについて思うこと、たとえば「なんであんな牌を切ったんだ!」とかは、プロ野球の野次ぐらいなら全然よくて、むしろ盛り上がると思っています。ありがたいぐらいです。

 ファンの間でも「これは批評か誹謗中傷か」という議論が持ち上がる。ただ少なくとも、この人気プロ2人はしっかりと「批評」を受け止める構えがある。それだけのプロ意識を備えている。ミスをしても「大丈夫」「気にしないで」となぐさめる言葉だけを求めているわけでもない。厳しい言葉の中にも自分を成長させるもの、対局を盛り上げるものがあるとわかっているからだ。ただし、これが度を超えたものについては、語気も含めてガラリと対応が変わる。

 多井 自分の思考を断定的に話す人も多くて、技術論にもなっていないような人格否定、誹謗中傷が見られます。自分は運よく、あまり言われることがないんですが、他の選手に対する言葉によっては、コメント欄を消してしまうこともあります。

 好意的な声を塗りつぶすように送られてくる誹謗中傷に対して、どう考えているか。プロ歴も長く、また数々の大会で優勝をしてきた多井は、著名人に対してよく使われる「有名税」という言葉を持ち出した。

 多井 「有名税」ってあるじゃないですか。それで飯を食っているんだから叩かれて当たり前、みたいな。でもその言葉は、僕らが使う言葉で、僕らが心に置いておく覚悟なんです。「お客様は神様」というのも店側の意見。お客様を大切にして、これから商売をやっていこうという覚悟です。だから僕は後輩に「麻雀というゲームで飯を食っているんだから、うらやましがられるし悪口も言われる」とは言います。でもそれを「有名税」という言葉を使って、言い返されないことをいいことに、外側から好き勝手言っている人はとても多いとも思います。

 プロ歴は浅いが、ネット麻雀で鍛えた確かな雀力、その整ったルックスで一気に人気雀士となった瑞原は、積極的にコメントを見に行くわけではないが、それでも自然と目に入ってくるものは多い。

 瑞原 いい声も悪い声も、どちらも見えます。目に入ってくるという表現の方が正しいかもしれません。人の習性として、どうしても悪い意見の方が印象に残りやすいので、なるべく肯定的な意見や、好意を示してくれる意見をちゃんと見るようにしています。自分の中に蓄積していくものとして、ネガティブなものだけを重く捉えるのはやめようと心がけています。人には好き嫌いがあるし、生理的に、根本的に受け付けないということもあります。そういうネガティブなものは、もうどうしようもないので、あまり気にしないようにしています。麻雀に関する、対策ができるものについてはできる限り対応したいです。

 「嫌なら見なければいい」。この言葉もまた近年、よく用いられるようになったものだが、これだけ情報が溢れる中で、嫌なものだけ避けて生きるのはほぼ不可能。ましてや、人気プロとしてメディアに露出し、SNSでも仕事上、発信を求められる立場ともなれば、使わないわけにもいかない。それだけ「見ない」というのが難しいことは、もっと知られるべきだ。また、同じようなコメントを浴びせられても、人によっては感じ方が違う。それはプロ雀士でも同様だ。

 瑞原 Mリーグチームメイト朝倉康心さんという方がいらっしゃいます。私はどちらかと言えば、何か言われても平気な方で気にしないタイプ。でも朝倉さんはすごく落ち込んじゃうんです。「気にしなきゃいいじゃん」と声をかけたこともあるんですが、「(中傷コメントを)スルーできないことを悪いみたいに言われるのがおかしい」と。それを聞いて、すごく無神経だったなと反省しました。受け取る側がどうこうではなく、やっぱり言っている側の人の問題ですから。

 麻雀というゲームの特性にも、必要以上に選手が叩かれる要因がある。将棋、囲碁、チェスなどと異なり、相手の手牌や山に積まれた牌が見えない「不完全情報ゲーム」だからだ。放送対局の多くは、4人のプレイヤーの手牌を、視聴者が全て見える状況になっている。実際にプレイヤーは自分の手牌と捨て牌が並ぶ河しか情報がないが、視聴者はまさに“神の視点”で見ていることから、プレイヤーの行動が余計にミスに見える。このミスに厳しいコメントが寄せられるせいか、選手が罪を犯したかのごとく「引退」をほのめかすほど反省することもしばしばある。

 瑞原 Mリーグチーム戦で、企業・スポンサーがついている。それを応援しているサポーターがいる。たとえば個人の所属団体のリーグ戦でミスをしてしまった場合は、プロという看板を傷つけてしまうので、謝罪は必要かもしれないです。麻雀プロという肩書を持って戦っている以上、自分のミスに責任がつきまとうのは当然かなとも思います。ただ、謝罪はするけど、責任をとって引退というのは違うかなと。辞めるべきとは思わない。それはスポーツも同じで、ミスは人間につきものなので。

 多井 たまにミスをして「自分はこのまま生きていていいんでしょうか…」というぐらいになってしまう人もいます。でも麻雀はあくまでゲームだし、あまり思い詰めない方がいいです。自動車ハンドルに「遊び」がありますよね。ちょっと操作ミスしても事故が起きないようにするものです。でも麻雀の世界には、ちょっとしたことでクラッシュしてしまう人も多いものです。将来、麻雀の世界にもスポーツ界みたいに、メンタルの対策としてカウンセリングをしてくれる人が出てきてほしいです。

 コメントによって傷つくプロも多いが、それを差し引いたとしても、視聴者からのコメントが放送を盛り上げてくれるという思いがあるのも事実だ。プロになる前は、「観る雀」として楽しんでいた瑞原からすれば、1人で見て楽しむしかなかった麻雀観戦に、彩りを与えてくれるものだった。

 瑞原 自分が思っていることを書いている人がいると、共感というか、1人で見ているんじゃなくて、みんなで見ている感じがしたんです。「コメント」という機能については、非常に麻雀と相性がいいなと思っています。アガリが出たら「わー!」ってなるし、そういう盛り上がりは楽しいし、「今のこの打牌は、この選択がいいんじゃないか」というものも、見ていておもしろかったです。

 多井 自分も含めて、麻雀が上手な人はいないと思っています。でもコメントで技術論を語っている人には、「地元なら負けなし」という結構強い人もまだまだいるんです。僕はそういう人にプロの世界に来てほしい。僕自身「麻雀プロなんて弱いだろう」と飛び込んできたけれど、その分後で恥をかいたし、知らないこともたくさんあったから謙虚に学んできました。

 最後に、今後の麻雀界における無数のコメントへの対応策、ファンへの思いを聞いた。瑞原は心ない言葉を防ぐシステムに期待し、多井はファンへの理解を求めた。

 瑞原 自分が正しいと思うことを主張したくてしかたがない人と、標的を探して批判をしてストレスを発散している人がいます。後者の方は、たぶん学校からいじめがなくならないのと同じで、人間が本質的に備えているものです。「なくしましょう」と言ってなくなるものでもないので、抑止力となるシステム、制度が必要です。簡単に警告が出せるシステムであったり、自分の身分と紐付いたアカウントで、責任を持ってコメントできるような環境にしたり。「このコメント名誉毀損です。事実無根です」と警告できるシステムなど、根本的なところで解決すべきものだと思います。

 多井 僕は人生を麻雀だけにしないようにしています。麻雀は、あくまで生活の一部。アニメも漫画もゲームも映画も好きですから。サラリーマンって7~8時間働いて、その他は自分の時間じゃないですか。なのに、なぜか麻雀プロには24時間「麻雀」を求めるんですよね。オフで僕がゲームをしていると「なんでゲームやっているんだ!」と(苦笑)。ただ、それはもしかしたら麻雀好きな人が「おれなら24時間頑張るのに」と思っているんじゃないかと。そういう気持ちもわかるから、僕はメンタルコントロールできているし「みなさんの分も頑張ります」と思っています。

 長く続くギャンブルイメージから、確かに脱却しつつある麻雀界。最近では芸能界からも著名なタレントが続々とプロ雀士になるケースが増えている。よりこの業界が盛り上がるためには、ファンの力は必要不可欠。その最たるものである「コメント」が今後どんな方向に進むかによって、業界の行き先も大きく変わっていく。
麻雀界における誹謗中傷コメントを考える 人気プロ雀士が語る切実な思いと期待するファンとの関係