ブラジル・アマゾン川流域の奥地にある、名前を口にしてはいけない場所。そこには、《黄金の悪魔(ジャブ・デ・オーロ)》と呼ばれる男が所有する闇の金鉱山と、一発逆転を狙う荒くれ者たちがいた――。本書は2016年に『NHKスぺシャル』で放送された「大アマゾン」シリーズの第二集「ガリンペイロ 黄金を求める男たち」を書籍化したノンフィクションだ。

「最初にガリンペイロ=金掘り男の存在を知ったのは、1999年に環境問題の取材で、ブラジルに行ったときです。ある川の奥深くに、川底を攫(さら)って金を取っている男たちがいる、と耳にしました。実際に向かうと、おびただしい量の船と、船上で暮らす人々がいた。奥地なので他になにもなく、船上に雑貨屋や娼館までありました」

 いつか取材したい、との思いを持った国分さんは、2014年、「大アマゾン」の取材で同じ場所に向かった。しかし、到着した時にはすべてが摘発され、もぬけの殻になっていたという。

「そこで、他のガリンペイロたちが集う金鉱山を新たに探すことになりました。発見できたのは、実はたまたま。ある町から船で上流に上がっていくと、急に大きな金鉱山の中継地が現れた。中継地の男と仲良くなって、翌年、その金鉱山の主である《黄金の悪魔》に取材させてくれるよう、取次ぎを頼みました」

 地図にはない、いくつもの滝を越えた先に、「黄金の地」は現れる。ピストルを持って現れた《黄金の悪魔》の取材にも成功した。

「その場所や彼の素性を明かしたら殺す、と言われました。最終的には3回取材に赴き、彼が所有する金鉱山5つすべてを買わないか、と持ち掛けられるまでになったんですが……。そもそも彼自身違法に占拠しているので、そんな権利は実際には存在しないんですけどね」

2億6000万円相当の金が出たことも

《黄金の悪魔》を筆頭に、金鉱山に集うのは脛に傷もつものばかり。一発逆転の可能性にかけて、ガリンペイロたちは朝から晩まで肉体労働にいそしむ。金は1グラム130レアル(約4000円)で換金され、金鉱山の所有者に7割、ガリンペイロに3割が入る。この鉱山ではかつて65キロの大物(2億6000万円相当)も出たことがある――。採掘現場を描きながら、男たちの物語も明らかにしていく。

「執筆する際、彼らが語ってくれた話をすべて聞き直し、一人ひとりの物語を綴っていきました。30人以上の話で、原稿用紙600枚。書いた後、すべてをばらして時系列に並べ直し、その人のエッセンスを抽出できるよう試行錯誤しました」

 執筆に2年の時間をかけたというが、拘ったのは“土地”を描くということだ。

「そこには誰でも行ける。でも、そこが行き止まりなのか、その先があるのかは分からない。いつでも出ていけるはずなのに、なぜか出ていけなくなる。そんな土地にいる彼らは、ただの貧困層ではないんです。ほんのひとひらだけど、希望がある。だから自暴自棄になれず、朝から晩まで働くんです。希望があるからこそ残酷なんですよね。

 でも、それは彼らに限った話ではない。僕らだって、希望はあるけど叶うことは少ない。それが残酷に見えないのは、僕たちの社会では、他のことに気をそらすことができるから。隔絶された場所では、そのごまかしがきかないんです」

 過去の素行も分からない、金鉱山でしか生きられないように見えるガリンペイロたち。しかし、本書を通してみると、そう評する我々もまた、限られた場所でしか生きていけないことを思い知らされる。

こくぶんひろむ/1965年、宮城県生まれ。NHKディレクター。手がけた番組に「ファベーラの十字架2010夏」「アウラ 未知のイゾラド 最後のひとり」「北の万葉集2020」等。2011年、『ヤノマミ』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。他の著書に『ノモレ』がある。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年4月22日号)

『ガリンペイロ』(国分拓 著)新潮社