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想像を大きく裏切ったクリオV6

translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
筆者の想像を大きく裏切るようなクルマは、それほど多くはない。しかし今から20年前に誕生した、ルノークリオ(ルーテシア)V6は、そんな1台だった。

【画像】ルノー・クリオV6 ご先祖の5ターボと最新クリオ(ルーテシア)を比較 全87枚

憧れの美女とディナーデートを高級レストランで楽しんで、支払いを終えて店を出ようかという時、パパがイカツイSUVで迎えに来たような、そんな気分になった。期待に胸を膨らませていた内容と、実際の展開との間には大きな隔たりがあった。

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ルノークリオ(ルーテシア)V6 フェイズ2(2003〜2005年)

退屈な友人と地元のハンバーガーショップで過ごした週末より、失望感は大きい。忘れられない思い出にはなるけれど。

ルノークリオV6には、強く期待させるだけの内容があった。タダモノではない見た目のボディに、TWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)が開発した3.0L V6エンジンをミドシップ。ル・マンでの優勝を決めたメンバーが関わっていた。

残念な仕上がりになるとは、想像できない。でも実際はそれに近かった。車重は重くなりすぎ、直線加速はルノークリオ172より少し速い程度。それ以上に問題だったのが、ハンドリングだった。

限界領域の挙動は、筆者がそれまで試乗したクルマの中で最もトリッキーフェラーリ348の方が、まだ少しだけテールスライドを楽しめた。うっかり、路肩の生け垣に突っ込む前に。

クリオV6はそれさえ難しかった。コーナーではグリップ頼り。グリップがコースオフか。新車当時、筆者は「駐車場で眺めている状態が最高」と表現した記憶がある。

2年間で再設計を受けたフェイズ2

少なくない批判的な反応が出たことを受けてかどうか、ルノーはすぐに次へ動いた。クリオV6は2年をかけて再設計され、フェイズ2として生まれ変わった。今回ご紹介するクルマも、その1台だ。

サスペンションもまったくの新設計。ダンパースプリングだけでなく、動作角などすべてが違う。タイヤは特注品で、ホイールベースも伸ばされていた。少しだけパワーアップし、ギアはショート化されている。

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ルノークリオ(ルーテシア)V6 フェイズ2(2003〜2005年)

しかしフェイズ2も、当時の評価としては飛び抜けて良いクルマではなかった。目立った速さもなく、インテリアの仕上げもイマイチ。小回りは効かず、ステアリングフィールには違和感があった。

そして、シフトレバーは丁度いい場所よりずっと前方にあった。今回、再試乗して思い出した。

現在の印象は、その頃とはまったく異なる。一部を除いて。そもそも最新のスポーツカーという厳しい見方ではなく、懐かしいクラシックモデルとして振り返っている。多少のことも容認できる。沢山の弱点があっても、命に関わるほどではない。

昔のように、手荒なドライビングスタイルで試そうとは思わない。コーナーに突っ込んでも、サイドウインドウからストレートを見定めたいとも思わない。

歳をとって、心が清められたわけではないはず。何かに追われている時は、周りを見る余裕がなくなる。時を経て余裕のある今なら、見過ごされていた魅力が引き立ってくる。

改めて眺めるルノークリオV6 フェイズ2は素晴らしい。同じくらい耳に届くサウンドも素晴らしい。

運転する時間が長くなるほど好きになる

自然吸気のV6エンジンを載せたコンパクトカーのフィーリングは、筆者も忘れかけていた。豊かなトルクが幅広い回転域から生み出され、刺激的なノイズが放たれる。この見た目のクルマには、完ぺきなサウンドトラックになっている。

奇妙なほどしなやかな乗り心地と、しっかり抑え込まれたロードノイズで、長距離ドライブにも驚くほど適していそうだ。7.8km/Lという燃費を受け入れられるなら。

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ルノークリオ(ルーテシア)V6 フェイズ2(2003〜2005年)

運転する時間が長くなるほど、好きになる。弱点も味わえるようになっていく。シートに座ってクルマに刺激的なショーを見せてもらうような、現代の高性能モデルと違って、クリオV6の場合は一生懸命ドライバーが頑張らないといけない。

滑らかに走らせるには、シフトチェンジのタイミングが大切。ライン通りのリニアなコーナリングには、事前の計画と正確な操作が求められる。大幅に改良を受けた、フェイズ2のクリオV6でも変わらない。

最新モデルのテイストとは楽しみ方が違うが、これはこれで楽しさ溢れている。運転席から降りるのが悲しく感じるほどだった。

非常に優れたクルマとまではいえないが、非常に魅力的なクルマだと思う。2021年に売られている大部分の新車より、眺めていることも運転することも、はるかに楽しめる。特にフロントからリアに流れる、ボディサイドのラインが好きだ。

クリオV6のご先祖といえるミドシップのルノー5は、ラリーカーのホモロゲーション取得目的で製造された。クリオV6にはそんな要件はなかった。ワンメイク・レースが開かれた、クリオトロフィーとの共通性も実際は多くない。

均質化していくクルマへの可能性

ルノーが利益を上げられたのか疑問だが、恐らく少額に過ぎなかっただろう。発表から20年後にAUTOCARで取り上げられ、ブランドイメージを上げることも期待していなかったはず。

悲しい現実だが、電動化技術が一般化し均質化されていくクルマたちにあって、ルノークリオV6のようなモデルは希少さを増していく一方。筆者がもう一度クリオV6へ乗るのにも、今回以上に特別な理由が必要になるだろう。

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ルノークリオ(ルーテシア)V6 フェイズ2(2003〜2005年)

クルマ好きにとっても、暮らし方の変革期が迫っている。それでも、技術を持つ人が集まって異端児のルノークリオV6が生み出されたように、未来にも可能性が広がっていると信じたい。

番外編:中古車でルノー・クリオV6を楽しむ

ルノークリオV6が搭載するエンジンは、チューニングされているものの内容は控えめ。際どいトリックも用いられていない。同様にトランスミッションも堅牢。

中古車を探す場合、まず最近までメンテナンスが施されてきたかどうかを確かめたい。挙動が不安定だから、サスペンションなどに狂いがないかも確認しておきたい。クラッシュした過去を持つ例も少なくない。

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ルノークリオ(ルーテシア)V6 フェイズ2(2003〜2005年)

ボディに事故の損傷がないか、修復が適切かもチェックポイント。購入後に費用がかさむことにもつながる。

状態の良いクリオV6 フェイズ2なら特に、今後の値上がりも期待できる。英国へ上陸したクリオV6は、フェイズ1とフェイズ2を合わせて約600台。割合は4:6でフェイズ2の方が多いようだ。

英国で現在ナンバーを取得しているクリオV6は、133台。そのうち84台がフェイズ2となっている。とても珍しいモデルといえ、今後その価値や希少性はさらに上がる可能性はある。


【20年後に振り返る魅力】ルノー・クリオ(ルーテシア)V6へ再試乗 3.0L V6をミドシップ