筆者は福島の処理水放出が決定されれば、国内の反対意見と同時に、中韓からもクレームが来ること必定だと書いた*1

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 予想されたとおり、早速中韓が批判し始めた。日本は覚悟をもって決めたわけであるから、一歩も引かずに反論しなければ、「国家の信頼」にかかわる。

 中韓の理不尽、無節操をこそしっかり国際社会に訴えなければならない。

 慰安婦・徴用工問題や南京事件のように、言われっ放しや姑息な妥協で当面を凌げばいいという考えは許されない。

 以下では、処理水問題で中韓の批判をかわすために、慰安婦・徴用工問題や南京事件での対応を瞥見して、その轍を踏まない方策を探求する。

*1=原発処理水放出で韓国、中国にどう対応すべきか 世界に訴えるプロパガンダで理不尽なクレームに反撃せよ| JBpress (https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64904)

問題の発端は日本側にある

 慰安婦や徴用工問題では、日本国内の「反日日本人」2の発言などが出発点となってきた。日本人による根拠のない批判を韓国が受け継ぎ、同国の反日団体が繰り返すうちに、どんどんフレームアップしてあたかも真実であるかの如くなっていった。

 南京事件も同様で、東京裁判以降は沈静化に向かっていたが、1970年代に入り朝日新聞の本多勝一記者が中国誂(あつら)えの現場を見て報道して以降、南京に記念館が建てられ、中国系米国人のアイリスチャンまでもが加担して世界に広まっていった。

 どこまでも反日日本人が仕掛けたものである。

 それが韓国や中国で国家意思も作用して拡大され、日本に逆移入されると、国内の反日NGOなどが国連人権委員会(現在は同理事会)に出かけて訴えるという具合で、日本発が中韓の反日団体と共鳴し、刺激し合って自己増殖していった。

 慰安婦・徴用工、さらには南京事件の経過に徴するならば、処理水問題も同様に考えられる。

 ただ、処理水については地元の漁業関係者や全国漁業協同組合連合会(全漁連)などが、反日日本人のような悪意からではなく、ただ「風評を防ぎたい」一心で「風評被害を恐れる」などという発言がきっかけとなる点で、歴史問題とはやや異なっている。

 したがって、ここは関係者が政府や東電の施策を信頼して、「風評」などの言葉を一切発しないことである。

*2=麗澤大学客員教授で慰安婦や徴用工問題に詳しい西岡力氏によると、日本国内の反日マスコミ・学者・運動家が事実に反する日本非難キャンペーンを行ってきたという。こうした反日マスコミ・学者・運動家を一括して「反日日本人」とした。

漁業関係者がいうべき言葉

 中韓は日本の処理水問題に神経を集中している。漁業関係者らの「被害」の言葉を待っているといっても過言ではなかろう。

 こうした状況を勘案すれば、残念ながら、風評被害をもたらす元凶は「漁業関係者の発言」ということになろう。

 現地の人たちの「被害」という何気ない発言を、中韓は待ってましたとばかりに受け取り、やはり「被害があるではないか」と言わんばかりに言い募るであろう。

 漁業関係者や全漁連が中韓の罠(トリック戦術)に嵌まらないためには、漁業関係者や全漁連が一切「被害」を言わないことである。

 日本政府やIAEA(国際原子力機関)は、トリチウム放出は原発を持っているどの国も行っており、しかも日本は基準をはるかに下回るように希薄化して放出するので問題ないとしている。

 万一被害が出た場合には政府や東電が補償することも明確にしている。

 そこで、中韓にクレームをつけさせないためには「被害」について「表向き」には言及しないこと。ここが肝心である。

 それどころか、漁業関係者たちが言うべき言葉は、「全く安全だ」と言う類の言辞であり、さらに言えば、「被害があるかのように韓国などが風評を作り出している」といった逆攻勢の発言である。

「風評被害」ということを地元の人たちは言いたくても言えないという抑圧、そこから募る不満・不平もあるであろうが、中韓が現地の声を強引に捻じ曲げて「被害」に仕立てることは見え見えだからである。

外務省と大使がやるべきこと

 中韓が理不尽なクレームをつけてきたならば、日本政府(外務省)はしっかり反論し、徹底的に相手の言い分を打ち消さなければならない。

 処理水については多くの省庁が関係しようが、窓口を1省に絞って行うことが大切である。

 ところが、従来は理不尽な言いがかりを打ち消すのではなく、日本が「行った施策」を説明するにとどめてきた。

 慰安婦問題が世界に広まったのはクマラスワミ報告3の影響が大きい。しかし、この報告は欺瞞に満ちており、政府(外務省)も一度は反論を書き提出もしたが、すぐに取り下げ、日本は慰安婦の人権を尊重し補償してきたなどとした。

 世界の常識では「強制連行」していないならば「補償」しないのが正しいわけで、強制連行していないのに日本が補償したというのは通じない。

 したがって、日本の施策の説明では、世界を納得させることはできず、ますます事態を悪化させた。

 麗澤大学の西岡力客員教授は「国内でも外務省OBらが口をそろえて、歴史問題に関する反論は外交にはなじまない、慰安婦強制連行はあったかもしれないなどという発言をして、動きが遅い外務省を支援していた」(「安倍政権が外務省を変えた」、『WiLL』2021年1月号所収)と外務省の体質を批判し、実名を挙げている。

 慰安婦問題について「事実に基づく反論をしてはならないという主張」を武藤正敏氏(2012年まで駐韓大使)は『日韓対立の深層』(2015年刊、悟空出版)で行い、宮家邦彦氏(外務省OB)は「慰安婦問題南京事件で事実に基づく反論を政府が行うべきではない」と、WEBマガジン『WEDGE Infinity』(2015年5月25日)で行っているという。

 2人とも、外交問題で現在も論陣を張っている人士である。日本が、中韓に嘘八百を言われっ放しに来たのは、こうした人を育てた外務省体質が影響したのであろう。

 武藤氏は「そもそも軍による『強制性』がなかったと言い切れるかどうか。資料がないというのは理由になるのか。軍人による強制連行を資料として残すとも考えられません」と書いている。

 国家の品格は言うに及ばず、軍隊の尊厳、軍人の名誉を傷つけること甚だしい。嘘を言う必要はないが、どんどん論破して国益を増大する方向に持って行くのが、国家を背負う全権大使ではなかろうか。

 宮家氏は「いわゆる『従軍慰安婦問題』や『南京大虐殺』について、歴史の細かな部分を切り取った外国の挑発的議論に安易に乗ることは賢明ではない。過去の事実を過去の価値基準に照らして再評価したいなら、大学に戻って歴史の講座をとればよい」という。

 西岡氏は同誌翌月号では「韓国良識派 真実への挑戦」の表題で、韓国でも反日種族主義を批判するなど、日韓関係の真実を求める声が強くなっているので、「新たに就任する相星孝一駐韓大使が、過去の何人かの大使のように、韓国人に適当に聞こえの良いことばかり話して任期を終えないことを望む」と注文している。

*3=河野談話などをベースに、第2次世界大戦中の従軍慰安婦問題についてまとめ、当時の国連人権委員会に提出した報告で、強制連行などについて言及

日本売りの駐中国日本大使

 駐中国日本大使は駐韓大使よりもさらに情けない。歴代大使に無力な姿が見られたが、中でも民主党政権の丹羽宇一郎大使時代は顕著であった。

「日本は日本人だけのものでない」という首相の民主党が派遣した大使であり、丹羽氏は「日本は中国の属国として生きていけばいい」という考えの持ち主であったので、当然といえば当然であった。

 野田佳彦・温家宝会談で温家宝首相は尖閣問題を「重大な関心事」と表現したが、その後の報道で中国外務省は温首相が「核心的利益」と述べたと発表し、爾後共産党指導部は「核心的利益」を使い始めた(櫻井よしこ著『中国に立ち向かう覚悟』)。

 外交は国益をかけた戦いであるし、併せて「日本の品格」や「軍人の名誉」もかかっている。

 品格や名誉が貶められれば反撃しなければならないが、「細かな部分」などと看過する姿勢から「害務省」と揶揄されてきたのだ。

 外交は国民にすぐには見えず直接関係なさそうであるが、外交と国防こそが国の大事と言われるように、両者はコインの表裏の関係にある。

 しっかり国民に見えるようにするために、筆者は外務ではなく「国務」とした方が良いと提案したことがある。

韓国は「恨」、中国は「感情」で動く

 朴槿恵・前大統領が「日本への恨みは1000年経っても消えない」と言ったように、韓国の反日は、日本が一時的に半島を併合したことからきている。

 衛生環境を改善し学校を創って教育を普及したことなどは、日本から見れば善政であるが、韓国にとっては古来の習俗を強制的に変えたとなり、取り付く島がない。

 現実に韓国もトリチウム水を海洋に放出しているにもかかわらず、日本の処理水についてはめちゃくちゃな非難をしまくる。

 しかも、自国は日本に放出の同意など求めたこともないのに、日本が放出しようとすると、「同意を得る必要がある」と言い募る。

 中国は「感情」をカウントする必要があるといい、南京事件の30万人という数値には「感情」が入っているという。

 捕虜などの殺傷を入れても3万~4万人であるから、残りの26万~27万人が感情として入ったわけである。

 広島原爆記念館では犠牲者は14万プラスマイナス1万人となっている。プラスマイナスの部分を一定の変動、すなわち感情からきたものというのだ。

 実際は損傷が酷くて正確に数えられなかった概数でしかないことを知りながら、南京事件で膨らませる「感情」と一緒くたにする。あきれてものが言えないが、これが彼らの常套手段でもある。

 靖国神社参拝でも、昭和60年までは首相が8月15日であろうが他の日であろうが、また年に何回参拝しようがクレームしなかった。

 ところが、昭和60年を境に、盛んにクレームをつけるようになってきた。

 一に、中国共産党指導部が政権運営上の駆け引きから導入したもので、「感情」という言葉で欺瞞しているに過ぎない。

 習近平氏の国賓来日が近づくと、海警船の尖閣諸島侵入が減り、コロナの蔓延で訪日が叶わなくなると途端に侵入頻度が増えてきた。すべてが理不尽な「感情」のなせる業であろう。

 中韓のクレームは理論的な根拠に基づくものではなく、恨や感情に基づくもので、すべては政治的な駆け引きの道具として持ち出しているに過ぎない。

おわりに

 ネットを見ると、「慶州(キョンジュ)の月城(ウォルソン)原発の敷地の地下水が、広範囲にトリチウムで汚染されているという事実が、韓国水力原子力(韓水原)の独自調査で明らかになった」という。

 韓水原は、「地下配管や使用済み核燃料貯蔵槽などを地下水に含まれていたトリチウムの主な流出源と見て、設備の交替や補修などの対策を推進してきたことが確認された」としている。

 しかし、今回流出が確認されたトリチウムは、原発の敷地の境界に設置された地下水観測井でも高濃度で検出され、原発の外部にまで拡散している可能性を排除できないとみられるが、韓水原と原子力安全委員会は「該当する観測井はすべて原発区域内にあるため、原子力法上、外部流出といえる『環境放出』とはみられない」とし、「国民に対する公開」規定を適用しなかったし、流出の規模も把握していないという。

 いうまでもなく、韓国はトリチウムを含んだ水を日本海などに放出しているし、原子炉部品にも欠陥が見つかるなど、韓国では原発の欠陥や事故が危惧されている。

 本来であれば、日本にクレームなど付けている余裕はないはずだ。

 中国は沿岸部ばかりでなく内陸でも原発を稼働させている。3月の全国人民代表大会では原発の積極的な推進も決めた。

 沿岸の原発は東シナ海や南シナ海にトリチウム水を流しているし、内陸の場合は河川放流か大気放出をしているはずである。

 いつものことながら、中国は国民の健康にかかわる問題でも発表しないし、発表しても信じることはできない。

 新型コロナウイルス感染症の顛末で、日本人は中国がいかなる国かを十分知ったに違いない。

 自国はほとんど秘密のベールで被いながら、日本の処理水放出では「周辺国と協議」せよと、勝手なことをいう。

 ともあれ、どんな説明にもいちゃもん付けてくるのが中韓である。

 日本は論理的説明を何事につけ重視してきたが、中韓に対してはそれだけでは通用しない。まずは両国の情報公開が不十分であり、また相手の現状は日本以上に粗雑であることなどに言及して反論する必要がある。

 歴史論争でなかなかけりが付かないのは、日本が「施策の説明」にとどめ、相手の理不尽なクレームへの反論を控えてきたからである。

 処理水問題についても、「施策の説明」(どうせ聞く耳を持たない)以前に、相手のクレームの理不尽さや相手国の実施状況などについて果敢に言及し、論破することが大切である。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  やっぱりか、韓国「処理水、影響なし」でも日本攻撃

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