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EVへの注目は高まっているが……

text:Kenichi Suzuki(鈴木ケンイチ)
editor:Taro Ueno(上野太朗)

今や環境問題は、喫緊かつ身近な課題として人々の生活に少しずつ、そして確実に影響を与えるものとなってきた。そうした流れの中、クルマに関する燃費規制の強化は、年々厳しくなる一方だ。

【画像】EVのパイオニア的存在【日産リーフ先代と現行を比べる】 全75枚

欧州ではメーカーが販売する全車両のCO2排出量の平均値の目標を1kmあたり95gとする2021年欧州燃費基準が導入されている。

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日産リーフ(現行モデル)

これにあわせ、欧州ではCO2排出量のメーカー平均値を下げるEVやPHEVの新型モデルが数多くデビューし、日本への上陸を果たしている。

一方、日本においても「2050年カーボンニュートラル」の政府目標が発表されたこともあり、走行中のCO2排出量ゼロとなるEVへの注目度もかつてないほどに高まっている。

では、そんなEVが日本において主役となる日が来るのであろうか?

すでに日本では2009年に三菱からアイ・ミーブ、2010年には日産からリーフという2台のEVが発売されている。

どちらも静粛性が高く、動力性にも優れており、ハンドルを握れば誰もがEVの持つ商品性の高さに気づくことだろう。

ところが残念なことに、販売開始から約10年を経るものの、この2台が販売ランキング上位になったことはなく、「日本にEVが普及した」と呼べる状況には至っていない。

だが、欧州の燃費規制に端を発した、今回の新型EVラッシュをきっかけに、日本においてEVのヒット、そして普及が実現するのであろうか?

今回は、EVが日本において普及しえるかどうかを、成功する理由と失敗する理由の双方を挙げて考えてみたい。

日本で「EV普及」成功する理由とは

日本でのEV普及における、最大のポジティブな理由。

それが「日本はEVに向いている」というものだ。

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EV充電ステーション    シャッターストック

まず、日本のクルマの利用方法の特徴となる「1日に走る平均距離が短い」というものがEVに向いている。

航続距離が短くてよいということは、搭載する二次電池が少なくてすみ、クルマの価格も抑えられるし、充電の手間もかからないことになるからだ。

また、全国津々浦々まで送電網が整備されていることもプラスだ。

さらに、全国的に温暖であり、万一、電気がなくなって立ち往生しても、すぐに生命の危険に晒される可能性が低い。国土が広大であったり、砂漠や極寒の地で、クルマが動かなくなることが、そのまま生命の危険に直結する地も世界にはたくさん存在するのだ。

それと比べれば、日本は条件が良いというわけだ。

加えて、10年以上のEV販売に伴い、街中の充電スタンドの数も増えており、急速充電器は2020年の時点で約7700か所(CHAdeMO協議会より)、100V/200Vの普通充電スタンドは約1万4000か所(GoGo EVより)にもなる。

全国約3万か所のガソリンスタンドに比べれば少ないが、世界にある急速充電設備は、約2万4600か所しかない(CHAdeMO協議会より)。

その、3分の1以上が日本に存在しているのだ。世界屈指の充実ぶりといえるだろう。

次にヒットする理由は、「日本は海外発の流行に弱いということだ。かつて、日本で携帯電話といえば、ガラケーフィーチャーフォン)が圧倒的なシェアを誇っていた。

しかし、2007年にアイフォーンが誕生し、すぐに日本にも上陸する。

当初は「値段も高いし、日本でアイフォーンは普及しない」という意見が強かったのだ。しかし、10年たって気づけば、ガラケーはすっかり駆逐されてしまった。なんだかんだと、世界的な潮流には、逆らえないものなのだろう。

とくにクルマは、意外と時代の空気に左右されやすい。

今ではベストセラーと認識されるトヨタプリウスも、デビューした2000年代当時は、「燃費性能は良いかもしれないが、割高であり、走りもよろしくない」と販売に苦戦していた。

しかし、2009年に登場した第3世代のころは、世の中の環境意識が高まりに税制優遇措置などが重なったことで、一気に人気者となった。

ほんの4~5年でクルマに対する世間の目は大きく変わることがあるのだ。今、現在、苦戦しているEVに対する認識も、手のひらを返したように変わる可能性も大きい。

ちなみに、最近になってアップルが自動車業界へ参入するといううわさが飛び交っている。

ソニーもコンセプトカーを発表して、クルマの研究を進めていることをオープンにしている。

もしも、そうした新しい勢力がEVを発売すれば、これまでにないほどの大きな注目を集めることは間違いないだろう。

好条件揃いながら普及しなかったワケ

日本でEVのヒットが難しい理由。

その最大となるのが、成功する理由にも挙げた「日本は向いている」という好条件下で、しかも10年も前から国産メーカーによってEVが発売されているのに、いまだに日本ではEVの販売に苦戦しているという現実だ。

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集合住宅の駐車場    シャッターストック

いくら、欧米や中国でEVが注目されていても、目の前の販売はうまくいってないのだ。

では、なぜ日本でのEVが苦戦しているのか。

筆者は、「駐車場付きの戸建てに住む人しかEVのオーナーになれない」ことがEV不振の最大の理由だと考える。

EVは駐車場で夜間など使っていないときに充電することが基本となる。ガソリン車のようにスタンドに出かけて充電するのでは面倒くさすぎる。

ところが、現状の日本ではEV用充電設備は自宅の駐車場にしか設置できない。月極駐車場や集合住宅の駐車場では、EVの充電ができないのだ。

これでは、欲しいと思っていても購入できる人は限られる。

しかも、EVは、依然としてガソリン・エンジン車よりも割高だ。10年前にEVの発売がスタートしたころは「量産効果が発揮されればバッテリーの価格が下がり、EVは劇的に安くなる」といわれていた。

しかし、発売から10年が過ぎても、それは実現していない。

さらに、東日本大震災の影響で原発が停まり、電気料金の価格は上がっている。そして、発電は火力中心になったこともあり、日本の電気はCO2排出量の少ないものではない。

つまり、EVを選んでも、環境に優しいのかどうか微妙なのだ。

また、軽自動車という強敵もいる。

考えてもみてほしい、郊外に住んで自宅駐車場を持つ人のうち、軽自動車オーナーの割合が高い。その人が「車両価格が高い」、「航続距離が短い」、「使っている人が少ない」というEVを選ぶのであろうか?

よほど、車両価格がこなれて、しかも使っている人が増えない限り、それは難しいのではないだろうか。

そして、最後の理由が補助金だ。

EVの普及は国も望んでいるため、購入に対する補助金が用意されている。

現在のところ約40~80万円の各種補助金が用意されるが、残念ながらガソリン車との価格差を埋めるほどの額ではない。

EV普及に向けたカンフル剤としては増額が求められる。しかし、現在のコロナ禍に対応中の日本政府には、積極的に予算をEVの補助金に回す余裕はない。

そういう意味で、2021年のEV大ヒットは難しいといえるのだ。

長い目でみればEVは普及する

今現在、日本におけるEVのヒットする理由と、それが無理であるという理由を挙げてみた。

もちろん、ヒットしないからといって、EVが消え失せることはないだろう。10年や20年といった長いスパンで考えれば、EVが増えていくことは間違いない。

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マツダMX-30(EV)    マツダ

本来的には、どれだけのペースで増えていくのかが問題だからだ。

ただし、今年、来年という短いスパンでの動きを決めるのはユーザーだ。

メリットとデメリットを勘案し、お金を払う価値があると判断する人が、どれだけの数いるのかがポイントとなる。日本のユーザーが、どのようなジャッジメントを下すのかに注目したい。


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