高校のチアリーディング部の元女子部員が練習中に大けがをした事故で、同校を運営する学校法人を相手取り、1億8000万円余りの損害賠償を求めて提訴した。

【映像】学校管理下の障害発生件数 全体の約3分の1が「部活動」だった(7分ごろ~)

 訴状などによると、愛知県岡崎城西高校のチアリーディング部に所属していた元女子部員は1年生で入部4カ月だった2018年7月、学校の体育館で人の肩の高さまで持ち上げられた体勢から前方に宙返りをする練習中に首から落下。下半身不随となる大けがをした。当時、顧問の教師やコーチは不在で、練習方法も不適切だったなどとして、学校を運営する安城学園に対し、1億8000万円余りの損害賠償を求めている。

 当時、チアリーディング部は教諭が顧問を務めていたものの、具体的な技術指導や安全指導はほとんど行っておらず、学外コーチに一任していた。一方、学外コーチは立ち会える時間の中で指導は行うものの、部員全員に安全意識を浸透させる立場ではないとの認識を持っていたという。安城学園は事故の責任については認め、賠償額について争う方針だ。
 

■“一部の犠牲”で成立してきた部活動「子供がリスク背負う構図を変えて」


 教員の負担軽減などを理由に、2017年に制度化された「部活動指導員」。学外コーチはどこまで部員たちの責任を負うべきなのだろうか。教育社会学者で、部活動や教員の長時間労働の問題に詳しい名古屋大学の内田良(うちだ りょう)准教授は「状況にあわせて練習方法や練習量を変えていく必要がある」と指摘する。

「この事故は、外部コーチも顧問もいない中で危険な練習をやったことが問題だ。もし顧問やコーチがその場にいないのであれば、通常の筋力トレーニング、近くを走るなど、もっと安全な練習や危険性の低い練習をすればよかった」

 また、活動量が増えて倒れる生徒や、負担が重くのしかかる教員の存在も忘れてはならない。内田准教授は「部活動は一部の犠牲の上に成り立っている」と話す。

部活動は楽しいから過熱してきたが、それは一部の犠牲の上に成り立っている。活動量を減らして、先生の負担も小さくしていかないといけない。部活動は『たくさんやらないと勝てない』と思いがちだ。そのために、みんなでルールを作るべきだ。例えば、全国大会に参加する要件に『練習は週4日まで』とする。それ以上やったチームは参加できない。週4日間を一生懸命頑張るために、効率のいいトレーニングをする。今までみたいに『たくさんやれば強くなるんだ』という物語ではなく、限られた日数の中で効率的に練習をして試合をする。みんながルールを守って、お互いに同じ条件の中で競争することもできる。そういうルールがあれば、いろいろな犠牲も小さくなっていくのかなと思う」

 そもそも、ヨーロッパなどでは放課後スポーツや文化活動は、一般的には学校以外の場所で行われる。「日本のように学校が抱えているのは珍しいこと」と内田准教授は話す。一方で、部活に対する現場の教員の考えもさまざまだ。

「先生は当然ながら授業を教えようと思って教員になる。ところが平日の夜、あるいは土日が、やったこともない競技で時間がつぶれていく。『自分はなんのために教員になったんだろう』と思う先生が半分いる。一方で『部活が楽しかった』という思いで教員になる人もいる。指導して、生徒が試合に勝つと大喜びする。部活に生きがいを見出している先生が半分いる」

 独立行政法人日本スポーツ振興センターの調査における2019年度の「小中高生における学校の管理下の死亡・障害件数」は、死亡の発生件数が56件(内8件が部活動、4件が保健・体育)、障害発生件数が363件(内139件が部活動、56件が保健・体育)だった。

 大人のサポートによって成り立つ部活動。子供たちが楽しく安全に活動するには「維持する方法を模索しなければならない」と内田准教授は訴える。

部活動の盛り上がりに伴って、回していくために無理やりでも指導につく。事故が起きると自分のせいにされる。指導者としては納得いかない側面もあるだろう。こういった大人側の事情で指導体制が不十分になって、結果、リスクを背負うのは子供だ。一生涯、身体が不自由になったり、あるいは命を落としたり、大人の制度設計の不備を子供が身体で受け止めることになる。この構図は変えなくてはいけない」

 若者マーケティング機関のSHIBUYA109 lab. 所長・長田麻衣氏も「部活も教育の一貫。事故現場に大人が誰もいなかったことは問題だ」と話す。

「教員は授業もやっていて、毎日の部活動は教員だけで補えない。そういうときは外部のコーチを招くしかない。私も軽音楽部の外部コーチをしていて、顧問の先生ができないときに私が外部コーチとして行っている。特に同じ部員なのに練習量に差が出ると、トラブルになりがちだ。フィジカル的な危険を防ぐだけではなく、大人がその場にいることで、部員同士がスムーズコミュニケーションできるケースもある」

 問われる部活動における大人の責任。子供の未来を守るためにも、新しいルールを作る必要がありそうだ。

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)
「部活中の事故で下半身不随に…」“大人側の事情”でリスクを背負う子供たち 教育社会学者の訴え