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パプアニューギニアで今も続く魔女狩り

photo by iStock

 南太平洋にあるパプアニューギニアイギリス連邦加盟国の一国だが、今でも魔女狩りが行われている数少ない国のひとつだ。

 2013年に政府によって極刑に値する罪だと宣言されたにもかかわらず、相変わらず魔女狩りをやめることはない。

 なぜ、いまだに魔女狩りがあるのだろう? パプアニューギニアでは、呪術、魔術、悪霊がいまだに日常生活の中に浸透しており、工業化の発達の影響で、魔女のせいにできるさまざまな問題がを増えていることと関係しているからだ。

【パプアニューギニアの歴史】

 パプアニューギニアの高地は、非常に険しく危険な場所だ。そのため、世界でももっとも孤立した場所のひとつになっている。

 一部の地域は、1930年代後半まで西洋人が足を踏み入れることがなかった。逆に、低地に住む人々は何世紀も前から外の世界と接触してきた。

 そのため、高地の人々の文化はまわりから独立して発展した。例えば、農業は東南アジアから伝わったものではなく、およそ7000年前に高地で独自に発達したものだ。もう少し時間があれば、高地はもうひとつの文明発祥の地になっていたかもしれない。

People Of New Guinea, Part 1

高地ジャングルに住む部族のひとつ。ほかの部族を怖がらせて追い払うために、顔に死霊のようなペイントを施している。ここでは誰もが迷信深く、しょっちゅう伝説や物語を交換しあう。この部族は、自分の霊体が遠くからでも確実に見えるように、多くの時間をかけて互いにペイントし合う(image credit:Trey Ratcliff/ CC BY NC SA 2.0

 パプアニューギニア高地の多くの文化では、最近になってやっと、病気に関する現代科学的な説明がされるようになった。

 忘れてはいけないのは、わたしたちが住んでいる世界は、力学的なシステムで成り立っている宇宙で、良いことも悪いことも、魔女のような知的介在物の意図的な行動のせいではなく、偶然あるいは自然に起こることがあるということだ。

 魔女狩りのほとんどが高地で起こるのは、こうした地域ではいまだに魔女が強く信じられていることの表われだろう。

高地の霊信仰

 パプアニューギニアの人のほとんどは、昔からこの世には自然や先祖の霊がうようよしていると信じている。

 こうした信仰は島国の多くでも根強い。ある文化では、空で生きる種族がいて、夜になると森の中ででかすかな光として見ることができると信じられている。こうした生き物は、魔女と結託している人食い(マンイーター)だと言われている。

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パプアニューギニア、東セピック州ブラックウォーター川流域にあるカブリマン村の踊りに使う男の精霊の仮面(image credit:The Children's Museum of Indianapolis/ CC BY SA 3.0

パプアニューギニアの死、病気、魔女

 古代のパプアニューギニアでは、誰かが病気になったり死んだり、家畜を病気や捕食者に襲われて失ったりすると、それは呪術や魔術のせいだとされていていた。

 こうした精神世界感は連綿と続いていて、高地、低地を問わず、パプアニューギニアの多くの先住民の信仰や習慣にいまだに影響を与えている。

 そのため、パプアニューギニアの人たちにとって、病気を悪霊や魔女のせいにするのは、それほど突拍子もないことではないようだ。これは、教育レベルや知性とは関係ない。

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悪霊を追い払うためのココナッツ魔除け(image credit:Wellcome Images/ CC BY 4.0

現代の魔女狩りにおける社会的影響

 パプアニューギニアにおける魔女狩りは、一般的であるだけでなく、前の世代に比べてむしろ頻度が増えているように思われる。

 例えば、魔女狩りは高地の田舎ではなんの制限もなく、それが都市部にも広まっている。魔女として疑われた人への仕打ちも、当然のことながら厳しいもので、拷問されたり、殺されたりすることもある。

 有名なものは、2013年にある20歳の母親が生きたまま火あぶりになった例がある。その娘ものちに魔女だと言われて拷問されたが、彼女は救出され、なんとか生き延びた。

 パプアニューギニア政府は、これは深刻な問題だと公式に認識していて、魔女だと疑われた人への暴力に対処しようと動き出している。例えば、魔女狩り絡みの殺しは殺人として扱うという法律を制定した。


Hunting Witches in Papua New Guinea | Journal

パプアニューギニアの呪術と現代社会の問題

 魔女とは、この世で物事がうまくいかない理由、損失や病気や死が存在する理由を説明するひとつの手段なのだ。

 パプアニューギニア魔女狩りが頻繁に行われる原因のひとつは、近年、魔女のせいにできる健康問題や社会問題が昔よりも頻発していることが考えられる。

 現在、パプアニューギニアでは急速な工業化が進んでいて、前の世代が体験しなかったさまざまな問題が発生している。

 例えば、工業化や資本主義引き金になり、変動する経済のせいで失業や金融不安のような問題をもたらしている。さらに、グローバルな旅行や貿易が、HIVの蔓延など、これまでよりも多くの病気の種となっている。

 不動産価格の高騰といった現代になって発生した問題までも、病気や死と同様に魔女のせいにされることが多い。物事がうまくいかないと、人はまず、自分の文化的文脈の中で馴染みのある納得のいく説明を求める。

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2005年のパプアニューギニアの女性や子どもたち。多くの若者が都市部へ出て行ってしまった典型的なパプアニューギニアの村の光景。このような村の人口構成はかなり偏ってしまっている。(image credit:Stephen Codrington / CC BY 2.5


 魔術や呪術を信じる心は、パプアニューギニアの文化に深く根差している。特に高地など、パプアニューギニアの多くの社会は、歴史的にみると、世界で悪いことが起きるのは魔女のせいではないという説明を、最近になって受けたばかりだ。

 パプアニューギニアの人々が直面している問題は、工業化のせいで近年は増える一方であることは確かだ。こうしたことが、相変わらずこの地域で魔女狩りが続けられている理由の一部なのかもしれない。

 人は長年の伝統を捨てることはなかなかできないものだ。生活がうまくいかないと、習慣や信念にしがみつきがちになる。これは、魔術に関連する伝統にも当てはまる。

References:Papua New Guinea Witchcraft: Ancient Spirits and Deadly Modern Witch Hunts Live On/ written by konohazuku / edited by parumo

 
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