映画界の最高の栄誉として謳われる第93回アカデミー賞が、いよいよ日本時間の4月26日(月)に発表となる。昨年は韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(19)が作品賞など4部門に輝く快挙を成し遂げ大きな話題を集めた。

【写真を見る】映画ファン&映画制作を目指す人は必見!『映画大好きポンポさん』で描かれる、アニメならではのリアリズムとは

今回のアカデミー賞新型コロナウイルスによる相次ぐ公開延期も相まって、劇場公開vs配信という構図が大きく取り沙汰されることに。デヴィッド・フィンチャー監督の『Mank/マンク』やベトナム戦争時にアメリカ中が注目した裁判を描いた『シカゴ7裁判』といったNetflix作品や、アカデミー賞の常連スタジオであるサーチライト・ピクチャーズが贈る『ノマドランド』(公開中)、気鋭のスタジオA24が手掛けた『ミナリ』(公開中)などが2020年の映画界の頂点を競い合う。

■映画づくりに奮闘する青年と敏腕プロデューサーを描く『映画大好きポンポさん

世界中の映画ファンがその結果に熱い視線を注ぐ、ハリウッドが一年で一番盛りあがる夜を迎えようとしている一方、架空の街“ニャリウッド”ではアカデミー賞ならぬ“ニャカデミー賞”を目指すクリエイターたちが日夜映画づくりに没頭しているようだ。そんな彼らの奮闘を描いたのが、『映画大好きポンポさん』(6月4日公開)だ。

2017年にイラスト投稿サイト「pixiv」に投稿され、またたく間に80万ビューを突破。「このマンガがすごい!」や「マンガ大賞」などに入賞した杉谷庄吾【人間プラモ】の同名作品を原作にした本作は、これまで数多作られてきた“映画づくり映画”とは一味違う視点から、映画づくりの舞台裏と、クリエイターたちが作品に込めた想いが描かれていく。すでに目の肥えた業界人から絶賛の声が寄せられている本作は、映画が好きでたまらない人にこそ刺さる作品に仕上がっているのだ。

“映画界の巨人”と呼ばれる伝説のプロデューサー、J・D・ペーターゼンを祖父に持つ敏腕プロデューサーのポンポさんのもとで、製作アシスタントをしているジーン。映画を撮ることに憧れながら、自分には無理だと卑屈な毎日を送っていた彼は、ある時任されたCM製作でそのセンスが認められ、ポンポさんが次に手掛ける映画『MEISTER』の監督に抜擢される。10年ぶりに復帰する伝説の俳優マーティン・ブラドックを主演に、そしてポンポさんの目利きにかなった新人女優のナタリー・ウッドワードをヒロインに迎え、波乱万丈の撮影がはじまることに。

■ニャリウッド映画界の最高の栄誉・ニャカデミー賞に注目!

そんな本作のなかで、映画づくりのひとつのゴールとして登場するのが“ニャカデミー賞”だ。映画が完成した先に待ち受けているのは、観客からの忌憚のない評価と、作品とともに映画の歴史に刻まれていく栄誉にほかならないことは、現実の世界と同じだろう。

劇中に登場するニャカデミー賞の会場は、アカデミー賞の会場であるドルビーシアターにそっくりのデザインで、受賞発表直前の独特の緊張感も再現されている。撮影現場でポンポさんから言われる「まちがいなくニャカデミー賞獲っちゃうぜ」の言葉で、ジーンが一瞬にして大きなプレッシャーを感じてしまう描写からも、その賞の大きさが窺えるはずだ。

しかも『MEISTER』に出演する伝説の俳優マーティンは6度も受賞しているとのこと。ちなみにアカデミー賞での俳優部門の最多受賞者はキャサリン・ヘップバーンの4度で、ジャックニコルソンやメリル・ストリープら錚々たる大物でも3度まで。

圧倒的な佇まいにたまに茶目っ気たっぷりの表情を見せるマーティンと、ポンポさんの祖父であるペーターゼンのコンビは、ハリウッドの名コンビとして名高いロバート・デ・ニーロマーティン・スコセッシ以上の大物ということだろう。

■“編集”を主軸に映画制作を描く!玄人も唸るリアリズム

古くはフランソワトリュフォー監督の『映画に愛をこめて アメリカの夜』(73)や深作欣二監督の『蒲田行進曲』(82)、また最近では社会現象級のヒットを巻き起こした『カメラを止めるな!!』(17)など、映画づくりの舞台裏を描く作品のほとんどに共通していることは、誰もがイメージするであろう撮影現場での出来事にフォーカスを当てていることだ。しかし『映画大好きポンポさん』では、映画づくりに欠かせないものでありながら、この種の作品で見落とされてきた“編集”の過程に物語性を授けていく。

「映画を生かすも殺すも編集次第」。劇中のポンポさんの言葉に象徴されるように、映像作品のクオリティの大半は、編集にかかっているといっても過言ではない。それを示すように、本家アカデミー賞では編集賞が設立された第7回から前回の第92回までの85回のうち、編集賞と作品賞を同時に受賞した作品は34本。編集賞にノミネートされずに作品賞を受賞した作品はわずか10本しか存在していないのである。

撮影時以上に大きな決断を迫られることも少なくない編集作業は、映画づくりのなかでもっとも苦渋を伴うものともいえる。本作の劇中では、監督であるジーン自ら編集室にこもって『MEISTER』の編集作業を行なうのだが、自らの内面と向き合いながら編集で“切っていく”ジーンの姿にアニメーションならではの描写が活きており、コンピュータに向かう一見地味な作業をエモーショナルに見せている。

はたして、新人監督であるジーンは編集作業を乗り越えて映画を完成させ、ニャカデミー賞の舞台にたどり着くことができるのだろうか…。

本家アカデミー賞の後は、ニャカデミー賞を目指すポンポさんたちに注目してみてほしい!

文/久保田 和馬

アカデミー賞の次は“ニャカデミー賞”に注目!/Matt Petit / [c]A.M.P.A.S.