おなかにいる赤ちゃんと妊婦さんをつなぐ「へその緒」。一般的に、へその緒については、妊娠中は赤ちゃんに必要な栄養や酸素を送る役割があること、そして、出産時には切られることがよく知られていますが、ネット上では「長さはみんな同じなのかな」「もし、赤ちゃんの体に絡まってしまったらどうなるの?」「取れたへその緒は保管しておいた方がいいの?」など、さまざまな疑問を持つ人が多いようです。

 知っているようであまり知らない、へその緒にまつわるさまざまな疑問について、産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

「親子の絆の証し」という人も

Q.そもそも、へその緒とはどのようなものですか。

西さん「一般的に、へその緒は『お母さんと赤ちゃんをつないでいた“ひも”』という程度の認識しかないと思うのですが、実は3本の血管の束で『臍帯(さいたい)』といいます。2本の動脈と1本の静脈でできており、エコー超音波画像診断装置)などで見ると、断面がまるで、ミッキーマウスの顔のように映ることもあります。赤ちゃんはこの臍帯を通して酸素や栄養をお母さんからもらい、不要な物質をお母さんに渡します」

Q.へその緒の長さは皆、同じくらいなのでしょうか。それとも違うのでしょうか。

西さん「へその緒は平均50~60センチ程度の長さで、出産時の太さは約2センチですが、長さ、太さともに個人差があります。基本的には、長さや太さによる胎児への影響は少ないですが、やはり、太い臍帯だとしっかりした赤ちゃん、細い臍帯だと小さめの赤ちゃんになることが多いです。また、『単一臍帯動脈』といって、2本あるはずの動脈が1本しかない臍帯の異常が起こることがあり、その場合は他に合併する異常がないか調べます」

Q.へその緒の長さによっては、おなかの中の赤ちゃんに巻き付いたり、絡まったりすることも考えられるのでしょうか。

西さん「そうしたこともあります。実際、胎児エコーをしているとき、胎児の首や体に臍帯が巻き付いていて心配するお母さんも多いのですが、基本的に臍帯は3本の血管が柔らかいゼリー状の組織に包まれているので、それがすぐに影響するということはありません。ただ、分娩(ぶんべん)の際に過度に引っ張られると、低酸素状態となって、胎児が苦しくなる『胎児ジストレス』が起きてしまう危険性があるため、慎重な分娩管理が必要です。

同じく臍帯が長い場合、ごくまれに『臍帯真結節(さいたいしんけっせつ)』という結び目ができてしまうことがあります。この場合も胎児の動きが活発だったり、分娩時に引っ張られたりすると、胎児ジストレスとなる可能性が通常より高くなります」

Q.出産時、へその緒は誰がどのタイミングで切るのですか。

西さん「へその緒は、生まれてきた赤ちゃんが泣いたことを確認したら、医師か助産師が切ります。病院によってはパパに切らせてくれる所もありますが、基本的には医療行為とみなされるため、日本産婦人科医会では『推奨しない』としています。

赤ちゃんのおなかから、2~5センチ程度の部分を『臍帯クリップ』という専用のクリップで挟み、切断します。お母さん側の残った臍帯は胎盤につながっており、そこを軽く引っ張って、胎盤を取り出します。最終的には胎盤と一緒に廃棄されます」

Q.赤ちゃん側に残ったへその緒は、いつごろ取れるのでしょうか。

西さん「1~2週間で自然に取れます。へその緒から雑菌が入って感染すると怖いので、取れるまでは毎日、沐浴(もくよく)の後に消毒をします。消毒液を染み込ませた綿棒で付け根から、しっかり消毒しましょう。出産した病院で消毒セットをもらえることが多いです」

Q.取れたへその緒が手元にある場合、「保管しておいた方がよいの?」と悩む人もいるようです。

西さん「日本では昔から、へその緒を『親子の絆の証し』として大切に取っておく人も多いようです。医学が今ほど進歩していなかった頃、子どもが病気になると『へその緒を煎じて飲ませる』ことで治ると信じられており、大切に保管されていたようですが、現代ではごくまれに親子のDNA鑑定の際に使われることはあっても、それ以外の使い道はないので、記念として取っておくかどうかということになります。

個人的には『母親とつながっていた』という神秘的な事実を伝えるものとして、いつか、子どもにお話しするときに使ってみようかなと思っています。取っておく場合は、虫やカビがつかないようにきちんと管理しましょう。なお、欧米では、へその緒を残す習慣はないので、海外で出産する場合は事前に伝えておく必要があるでしょう」

オトナンサー編集部

「へその緒」用のケース