岸谷五朗・寺脇康文が主催する演劇ユニット、地球ゴージャスの最新公演『The PROM』が間もなく、大阪・フェスティバルホールで幕を開ける。本公演は、地球ゴージャスにとって初の海外作品。2018年にブロードウェイで開幕し、2019年にはトニー賞7部門にノミネートされ話題に。そして、2020年12月にはNetflixにて映像化、メリル・ストリープニコールキッドマンらが出演して注目を集めた。物語の舞台はアメリカの高校。卒業を控えた学生たちのために開かれるダンスパーティー「プロム」に、インディアナ州の高校に通うエマは同性の恋人アリッサと参加しようとするが、多様性を受け入れられないPTAがプロムを中止にしてしまう。しかも、それが原因でエマはいじめを受けてしまい……。そこに、この騒動を知った落ちぶれかけたブロードウェイスターたちが自分たちの話題作りのため、エマを助けに街へやってきて――。主人公のエマを演じるのは葵わかな。NHK連続テレビ小説『わろてんか』でヒロインを務め、ミュージカルへの出演は本作で3作目となる。先日、全36公演の東京公演を終えたばかりの葵が、岸谷、寺脇とともに来阪し、作品の魅力や意気込みを語った。

「一体となって前に向かうエネルギーを感じてほしい」

葵わかな

葵わかな

エマを演じる葵は「東京公演全36公演を無事に走りきることができてホッとしています。エンターテインメントの可能性を信じながら稽古をしてきた2ヶ月間だったので、実際に舞台に立った時にどんなことが起こるのかすごく楽しみだったのと同時に、不安もありました。ですが、約1ヶ月という公演の中で、歌やダンス、エンターテインメントに富んだこの作品が持っている明るさや大切なものがお客様に届いたのではないかと感じています。大阪の皆様にも、一体となって前に向かって行こうとするエネルギーが生まれるあの空気感をお届けしたいと思いますので、しっかり感染対策をして臨んでいけたらと思っています」と東京公演を振り返った。

岸谷五朗

岸谷五朗

名門のジュリアード音楽院を卒業したにもかかわらずいまひとつパッとしない俳優のトレトン・オリバー役の寺脇は、見どころについて、「キャッチーな歌とダンス、そして群舞ですね。『自分らしく生きる』ということがテーマですので、お客様一人一人が自分の生き方を明るく考えていただけるのではないかなと思います。本当に気持ちが明るくなる作品です。観てくださった方はみんな、『泣き笑いをしたよ』と。涙を流しつつ顔はにこやかだったというご感想をいただきました。僕もこの作品を観た時は涙が出て、でも顔は笑っていました。そういう思いにさせてくれる作品です」と語った。

本作の演出を手掛け、落ち目のブロードウェイスター、バリー・グリックマンを演じる岸谷は「地球ゴージャスは、ずっとオリジナル作品を作ってきました。今の時代に何を発表すべきか、今の時代にやる演劇とは何かということを考えながら地球ゴージャスを25年間続けてきて、おそらくタイトルを表にしていけば、僕自身の年表になるくらい、その時、何を考えていたか分かる作品を作ってきました。この『The PROM』は、ブロードウェイの作品で、今、コロナ禍でみんなが窮屈な思いをしている、苦しい思いをしている時にぜひ届けたい作品になりました。この作品を観てもらって、皆様に心の栄養、心の元気を与えられたら最高だなと思っていて、それにふさわしい作品にどんどん進化していきました。大阪でもっと素晴らしい作品になるように、我々は挑んでいきたいと思っています。上演できることを祈りながら、これから大阪まで過ごしたいと思っています」と挨拶した。

葵は最後に「音楽やお話のスピードが本当に明るく、エネルギーを巻き起こしていくようなテンポ感なので、この明るさがエンターテインメントにとって大事なところだと思います。現代の社会に生きている方たちにも壁を作らず、すんなり届いてくれるような、そういう優しさを持った作品だと思うので、私自身は恐れもせずにこの作品を皆さんに届けたいという気持ちです。ぜひ受け取ってください」と意気込んだ。

「そこにいるだけで周りを明るくする人になれたら」

続いて、葵に単独インタビューを実施。まずは「恐れもせず届けたい」という発言の真意を尋ねた。

葵わかな

葵わかな

――会見の最後に「私は恐れもせず」とおっしゃっていました。そのお気持ちをもう少しお聞きしたいです。

今回、主人公という立場でカンパニーに入らせていただくということもありましたし、それ以上に大きかったのは、やっぱり今のこの状況でした。昨年も出演する舞台が中止になって、その前には劇場からお客様が減っていく様子を肌で感じていました。これまで恵まれていたことに、お客様がたくさん入っていた劇場を観ていたので、すごくショックが大きかったです。先ほど、五朗さんもおっしゃっていましたが、この作品は今の時代に届けるべきものだと私もすごく思います。でも、どれだけこちらが思っていても届かなければやっぱり成り立たない。そういう怖さが大きくて、受け止めてもらえるのかどうか不安がありました。

でも、東京公演の幕が開いて、1ヵ月公演する間に、皆様のリアクションや人づてに聞いたご感想、私のSNSに書き込んでくださるコメントなどを通して、ちゃんと届いている、皆様に元気や、勇気、前向きな気持ちを与えることができたのではないかとちょっと自信になる瞬間がありました。1ヵ月やりきった今は、もう次に向かって自信を持って、よりブラッシュアップしていこうと思っているので、そういう意味で「恐れもせず」という言葉を使いました。

――そうなんですね。この作品のテーマの一つが「自分らしさ」。葵さんがご自身で思う自分らしさはどういう部分ですか?

私は常に変化していきたいなと考えながら生きていて。もちろん、変わらない部分も大事ですが、どちらかというと変化し続けることの中に変わらない自分らしさがあるような気がしています。それは自分が大切にしていることや考え方、変化し続けたいというところは失わずにいたいなと思っています。昔はそれがすごく嫌だったのですが。自分で言うのもなんですが、私はすごく真面目なんです(笑)。何か目標や目的があったら、それに対してひたすらに突き詰めるタイプなんです。そこをコントロールしながら、というのがベストですが、その部分があるからこそ、テレビでお仕事させていただくなかで、急にやってみたいと思った舞台の世界に飛び込ませていただきました。その自分らしさは変わらずに持っていたいなと思います。

葵わかな

葵わかな

――『The PROM』と出会い、エマという役を通してご自身の中で新しい価値観が芽生えたなど、何か変化はありましたか?

逆境に置かれる主人公というのは、どの作品にもいると思うのですが、エマはその中でもとてもポジティブだなと感じていて。劇中、エマの悩みが些細なことをきっかけにして解決するシーンでは、エマが自分で頑張ろうとする姿が印象的でした。もちろん周囲の助けはありつつ、結局踏み切って、自分を鼓舞して立ち上がったのはエマ自身で。そこはすごくかっこいいというか。自分のやりたいことのために自分自身も周りをも変えていくポジティブオーラがあって、1つのキャラクターですが、人としてすごく素敵なことだと思います。この子がいるだけで周りが明るくなるとか、何かに幸せな影響を及ぼせる人ってすごくかっこいいし、素敵です。そこはすごく尊敬しますし、私自身もそうなれたらいいなと思います。

――劇中、特にお気に入りのシーンはありますか?

やっていて楽しいなと思うのは「You Happened」という曲です。プロムへのお誘いに行く曲で、エマだけじゃなく他の生徒達も相手を誘って、歌って踊るナンバーなのですが、それがもう……! エマたちは17歳なのですが、17歳らしいキラキラ感にあふれていて。学生たちがプロムに対してどれだけワクワクしているかが出ていて、すごく好きです。しかも、すごくリアルで。アンサンブルの皆さんが「誰々が誰々に告白するって!」「頑張れよ!!」とそれぞれのキャラクターが立ったお芝居をされているのも見どころです。私もアリッサ(演:三吉彩花とキャッキャしています。あの感じはとても楽しいです!

葵わかな

葵わかな

取材・文=Iwamoto.K 撮影=福家信哉

葵わかな 撮影=福家信哉