コロナ禍が長期化し、生活環境の変化や自分や家族への感染の不安などによって、心身に支障を来す人も出てきています。そんな中、高齢者でも「うつ」を発症する人が増えているようです。高齢者のうつには「元気がない」「趣味に興味を示さなくなった」「部屋にこもって出てこない」などの様子がみられるといい、周囲から、「認知症なのではないか」と勘違いされるケースもあるようです。

 ネット上では「退職して、家にいる父親がうつかもしれず、様子の変化に戸惑っている」「認知症との見分け方が知りたい」「どんな治療をするんだろう」など、さまざまな声が上がっています。高齢者のうつの特徴や、周囲の人が知っておきたい変化のサインについて、精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

「眠れない」「体重が減った」などに注意

Q.高齢者の「うつ」とは、どのようなものですか。

田中さん「高齢者のうつは、意外と『うつ』に見えないのが特徴です。例えば、『体調を過剰に心配する(心気)』『部屋の中を動き回る(焦燥)』『訳が分からないことを言う(妄想)』といった精神症状が頻繁にみられます。それらに加え、普段よりも元気がない▽うっとうしい気分が続く▽やらなきゃいけないけど、やる気が出ない▽眠れない▽食が細くなって体重が減る、などの症状がみられれば、うつの可能性があるでしょう。ちなみに、高齢者のうつの診断基準は若年者のものと同じです」

Q.コロナ禍以降、うつを発症する高齢者は増えているのでしょうか。

田中さんデータはないのですが、コロナ禍が1年以上続き、メンタル不調を来す人が増えているのは確かです。特に、中学生と高齢者のメンタル不調者が増えている印象があります。中でも高齢者は精神科のクリニックや病院を受診することをためらい、受診までに何カ月もかかっている点が気になります」

Q.高齢者のうつは、どのような要因によって発症することが多いのでしょうか。

田中さん「一般には、高齢になるとともに脳機能が衰え、うつをはじめ、認知症や不安障害などを発症すると考えられていますが、原因はそれだけではありません。『もともと神経質だけど、他人思いな性格』の人が高齢になって、何らかのストレスを受けると、負のスパイラルから抜けられなくなり、うつを発症することがあるのです」

Q.高齢者のうつは若年者とどう違うのですか。若い人にはあまりみられない、特有の症状・傾向はあるのでしょうか。

田中さん「高齢者特有のストレスとして、持病が悪化したり、新たな身体疾患を発症したりするなど、体調を心配しやすくなることが挙げられます。特にこの1年は、ウイルス感染に対する不安が増大しましたし、人間関係が希薄になって、家族にも友人にも相談できず、どんどん不安を増幅させているのかもしれません。こうした心配を抱え込みやすいのも、高齢者のうつの特徴といってよいでしょう」

Q.実際はうつなのに、認知症や不安障害と勘違いされるケースもあるようですが、これら3つはどのような点が似ているのでしょうか。

田中さん「高齢者のうつ、認知症、不安障害などの区別は、われわれ、心療内科や精神科の医師でも慎重な判断を必要とします。先述の通り、これらが似ている点は焦燥、分かりやすく言うと『落ち着きのなさ』がみられることです。家の中をうろうろと歩き回るケースはしばしば、認知症の徘徊(はいかい)と見間違われます。また、『どうしたらいいか分からない』『感染したらどうしよう』などと不安ばかり訴えるケースではしばしば、不安障害と勘違いされることがあります。

さらに、うつと認知症オーバーラップし、うつから始まって、だんだん認知症になってくるケースも少なからずみられます」

Q.自分がうつであることに高齢者の本人が気付くためのサイン、兆候などはありますか。

田中さん「高齢者本人が自分自身のうつに気付くのは、とても難しいと思います。精神科のクリニックや病院を受診し、医師に病名を告げられて、やっと、心身の不調がうつによるものだったと理解してもらえることもしばしばです。ただ、本人が気付きにくいとはいっても、普段と比べて眠れないこと、食欲が出ないことなどは自覚しやすいかもしれません」

Q.家族や周囲の人から見て、「高齢者のうつかもしれない」と判断するためのサインや様子の変化はありますか。

田中さん「高齢者のうつを見逃さないためには、家族や周囲の人が焦燥、心気、妄想以外にも睡眠障害や食欲低下、体重減少、気分のふさぎがないかチェックするとよいでしょう。高齢者が急に『いなくなりたい』『死んでしまった方がまし』などと言い出したら危険信号です。全体の雰囲気として元気がない感じがみられたら、精神科のクリニックや病院を受診することをおすすめします」

Q.高齢者のうつを治すことはできますか。

田中さん「治療可能です。高齢者のうつは病状にもよりますが、抗うつ薬などによる薬物療法が行われます。高齢者は薬の副作用が出やすいため、少ない種類の薬を少量から使います。なお、軽症の場合には薬を使わず、食事の内容を見直し、散歩などで活動性を上げ、睡眠を改善させることが有効です。こうした生活の改善は、うつからの回復のみならず、認知症予防にもつながることが知られています」

Q.今後、さらなる長期化が予想されるコロナ禍において、高齢者のうつのリスクを軽減したり、発症を防いだりするために高齢者自身や周囲の人が意識・行動するとよいことは何でしょうか。 

田中さん「最近はコロナ禍の影響からか、若年者の間で『むしろ、孤独を楽しもう』というような風潮が出てきたように感じます。しかし、コロナ禍が長期化している中で『もともと神経質だけど、他人思いな性格』の“うつ予備軍”の高齢者にとって、孤独な状況が続くのはよくありません。自宅の中でもきちんとマスクをした上で、家族や周囲の人と会話する時間をつくることが必要になってきています。

高齢者を孤独にさせないように家族や周囲の人が声を掛け、気に掛けることが大切でしょう。まずは電話やメールで連絡してみてください。高齢者側も感染予防に努めながら、ぜひ、家族や周囲の人と交流する時間を取り戻してもらえればと思います。その際にはマスクうがい手洗い、換気などを忘れずにお願いします」

オトナンサー編集部

高齢者の「うつ」が増えている?