旅客機の塗装といえば、白ベースに各社のトレードカラーをあしらったデザインが多く採用されています。そのようななか「塗装に適さない説」もある黒ベースをあえて採用したのがスターフライヤー。どのような経緯があったのしょうか。

世界的にも類を見ない「黒ベース」

旅客機の塗装といえば、長年のあいだ白ベースに、各社のトレードカラーをあしらったデザインが多く採用されています。2021年現在の国内航空会社を見ても、JAL日本航空)、ANA(全日空)といった老舗から、スカイマーク、AIRDOといった後進エアライン、ピーチなどのLCC格安航空会社)もこの「白ベース」デザインです。

近年ではLCCジェットスターなどがグレー基調の塗装を採用するといった例外的な動きも見られるものの、そのベースカラーの異端さと言う意味では、北九州を拠点とするスターフライヤーに勝る国内航空会社はないでしょう。同社は就航当時から、ベースデザインが「黒」なのです。

それまで、黒を機体のベースデザインとする航空会社は、世界的に見てもほとんど前例がありませんでした。「黒は太陽光を吸収するため、(温度が上がりやすいことから)精密機械の塊である航空機には適さない」(スターフライヤー)との説が広く知られていたからです。

実はこのスターフライヤーの胴体デザインは、飛行機に直接的に関係するデザイナーではなく、ロボットの開発やデザインを手掛ける、フラワーロボティクス(東京都千代田区)により考案されました。

「真っ黒旅客機」どう決まった?

就航開始前のスターフライヤー機のデザインは、白ベースにいくつもの色を全体に散りばめた派手な「デザインコンシャス」、白とクリーム色をあしらい、曲線的デザインを取り入れた「ラグジュアリー」、そして現行デザインに近い黒ベースの「モダン」、この3種類から選ばれました。

同社のコンセプトは「感動のあるエアライン」「他社とは違うエアライン」。このことから、創業者の堀 高明氏は、機体カラーに黒を選択します。これは、周囲の反対を押し切って、スターフライヤーのコンセプトを通したものだったそうです。最終的には、「モダン」案をベースに、「ラグジュアリー」案の曲線デザインを取り入れたスタイルとなりました。

その後スターフライヤー、航空機製造メーカーであるエアバスとの安全検証を重ね、黒ベースのデザインが安全上、何の問題も無いことを実証。先述の「黒は適さない」問題を解決したうえ、拠点となる北九州空港が移設開港となった2006(平成18)年に就航しました。「真っ黒の旅客機」が世に出されることになったのです。

ちなみに、北九州空港内にあるスターフライヤーの社屋には、当時の案のひとつ「ラグジュアリー」案と思われるデザインを施したモデルプレーンが飾ってあります。「黒を使う」という堀氏の英断がなければ、この模型のデザインが実際のスターフライヤー機にあしらわれ、世に出ていたのかもしれません。

スターフライヤーのエアバスA320型機(2021年4月、乗りものニュース編集部撮影)。