教師の過酷な勤務実態の訴えが話題となっている「#教師のバトン」にも「現場のさらなる負担となっている」との投稿が寄せられている「教員免許更新制」。教師を続けるために10年ごとに30時間以上の講習受講などが必要な制度ですが、教師の在り方を検討している中央教育審議会(中教審)は4月30日、「教員免許更新制小委員会」の初会合を開催しました。

 3月の諮問の際、萩生田光一文部科学相が抜本的な見直しを視野に、早急に結論を出すよう求めていたものです。そもそも、教員免許更新制はなぜ導入され、現状はどうなっているのでしょうか。

源流は「問題教員対策」論議

 更新制の源流は臨時教育審議会(1984~87年、当時の中曽根康弘首相直属の審議機関)での「問題教員対策」論議までたどることができます。結局は答申に盛り込まれませんでしたが、1990年代を通して「宿題」としてくすぶっていました。

 それが表に出たのは、森喜朗首相(当時)の私的諮問機関だった教育改革国民会議です。2000年12月の最終報告に「免許更新制の可能性を検討する」ことが盛り込まれました。早速2001年4月、町村信孝文科相(同)が中教審に、更新制の検討を含めた教員免許制度の在り方を諮問したのですが、中教審は2002年2月の答申で、導入には「なお慎重にならざるを得ない」と結論付けました。代わりに「指導力不足教員」対策を強化するとともに、教職に就いてから10年目の研修を義務付ける「10年経験者研修」(10年研)を導入しました。

 しかし、2004年10月に中山成彬文科相(当時)が再度、更新制を含めた教員養成・免許制度の在り方を諮問すると、今度は中教審も抗し切れず、2006年7月の答申で導入を容認しました。ただし、不適格教員の排除を直接の目的とするのではなく、教員が「自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ていくという前向きな制度」と位置付け直してのことでした。

 その結果、新たに授与される免許には10年の有効期間を設けるとともに、既に免許を持っている現職教員にも10歳刻みで、前後2年間のうちに、大学などで30時間の免許更新講習を受講することを義務付け、手続きをしなければ免許状が失効するという制度が2009年度から導入されました。

更新講習自体が負担に

 ただ、10年研もそのまま残されたため、都道府県独自の研修も含め、似たような研修が重なってしまう結果となりました。さらに、教職に就いてから別の種類の教員免許を取った場合にも、それぞれについて更新講習を受けなければなりません。一方で、教育現場の多忙さや講習受け入れ枠の偏りなどから、「受けたい講習、研修が受けられない」との不満も高まり、文科省は負担軽減策や選択幅の拡大など改善も重ねました。

 それでも、ますます、学校現場が多忙になる中、教員自身が講習を探して申し込み、勤務の都合を調整して更新講習を受けること自体、相当な負担になっているのも事実です。また、更新講習を修了した後には、自分で都道府県教育委員会(免許授与権者)に手続きをする必要がありますが、更新講習を受けるだけでいいと勘違いしたり、忙しくて手続きを忘れたりする「うっかり失効」も毎年、生じています。手続きミスをしてしまうだけで、教育職員としての身分を失うのみならず、場合によっては失職してしまうのでは、何のための制度か分かりません。

 さらに、50代の教員が更新講習を受けずに退職してしまい、再任用しようとしても免許状が失効していて再任用できず、教員不足に陥るといった問題も各地で起こっています。また、更新講習の受講には条件があり、実務経験のない「ペーパーティーチャー」は採用予定がなければ、更新講習が受けられず、多様な人材の活用を阻んでいるとの指摘もあります。

本気の「抜本的な見直し」を

 4月30日の小委では文科省事務局から、課題を整理したペーパーが示されました。そこでは、教師の資質能力の確保▽教師や管理職等の負担軽減▽教師の確保を妨げないこと――の「いずれもが成立する解」を見いだす必要があることを強調。具体的な論点として(1)講習内容の質向上(2)オンライン化の促進(3)研修と講習の相互活用の徹底(4)免除対象者の拡大(5)30時間を2年間で受講する仕組みの見直し(例えば5年間に延長など)――などを挙げました。

 委員からは「継続」から「廃止」までさまざまな意見が出ましたが、最後に、教員養成部会長で小委員会主査も務める加治佐哲也兵庫教育大学長が「免許更新制に依存しない形で、教師の資質能力の維持向上を図る議論をしていくべきだ」との考えを示しました。

 更新制は導入から現在まで、常に政治に振り回されてきた感があります。改めて、本気の「抜本的な見直し」が求められます。

教育ジャーナリスト 渡辺敦司

「教員免許更新制」は何のため?