国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁2397号は、すべての国連加盟国に対し、2019年12月22日までに自国内の北朝鮮労働者を送り返すことを義務付けている。

しかし、中国やロシアはそれ以降も、北朝鮮労働者に「技能実習生」の資格を与えたり、観光ビザを発給したりする方法で、事実上の受け入れを続けた。中国・丹東のアパレル工場では、多くの北朝鮮労働者が、新型コロナウイルスの医療現場で使われる防護服の生産に投入されていた。

そして最近では、中露に加えて「第3の国」も受け入れを再開したようだ。北朝鮮デイリーNK内部情報筋は、200人ほどの労働者が5月初めに出国予定だと伝えた。その行き先はモンゴル。2018年6月までにすべての北朝鮮労働者を追放したというモンゴルだが、新たに男性6割、女性4割の割合で受け入れて、農業、畜産、毛皮、アパレルなどに投入するとのことだ。

北朝鮮当局は昨年末から、モンゴルに派遣される人員の選抜作業に入り、すでに3次審査まで完了し、残るは最終の4次審査だけだ。

海外派遣労働者の審査はまず、市や郡の朝鮮労働党委員会で行われる。所属する機関からの推薦を受けて海外派遣に応募した人は、簡単な健康診断で合格すれば各道の党委員会で行われる2次審査を受ける。そこでは肺炎や肝炎、結核などの伝染病に感染していないか、精密検査を受ける。しかし感染が判明した場合でも、選抜担当の幹部にワイロを掴ませて、合格に持ち込むことが多い。

「中央談話」と呼ばれる3次審査は、党、内閣、軍など中央機関が行う。今回のモンゴル派遣労働者は、水産省と首都建設指導局が審査を担当する。応募者は肺炎、肝炎、結核に加え、HIVウイルスに感染していないかを検査する。情報筋によると、他の病気ならワイロでもみ消せるが、99号病菌(HIV)は、いくらワイロを積んでも不合格になるという。

4次審査は外務省が行うが、3次までで綿密な検査が終わっているので、4人1組で簡単な面談を行なった後で、パスポート、ビザ、関連書類の発行の手続きを行う。

ここまで徹底した審査を行うのは、担当者がワイロを得る機会を増やすためと言われている。1回で済むはずの身体検査を敢えて3回も行なって、どうにかして欠格事由を見つけるのだ。最終合格までにかかるワイロの額は、最近の相場で約1000米ドル(約10万9000円)。一昨年と比べると2倍以上になっている。

中国やロシア極東など、北朝鮮から比較的近いところに向かう労働者は、鉄道やバスで移動することが多かったが、今年からは北京経由の航空便を使うこととなった。3月にロシア極東のウラジオストクに派遣された労働者は、平壌から中国の丹東、北京、そしてなぜか遠く離れたモスクワまで移動した後で、ウラジオストクに戻るコースを使った。

航空便を利用するのは、労働者の安全を考えた金正恩総書記の「ご配慮」によるもの、というのが北朝鮮当局の説明だが、実際はコロナ禍で国際旅客列車の運行が再開されていないためと見られる。航空便を使うこととなり、労働者が負担する運賃は過去の10倍以上となった。ワイロ、航空運賃などを含めると、派遣までにかかる総費用は平均3000ドル(約32万8000円)。

多くの人は借金で賄うが、国家に納める「忠誠の資金」の上納ノルマが厳しく、バイトをしても借金を返済するのがやっとで、思うように儲からず返済に行き詰まり、脱北する人もいる。

デイリーNKジャパン