小学3年の頃から不登校となり、その後、動画投稿サイトで「不登校は不幸じゃない」などと主張して小学生YouTuberとして有名となったゆたぼんさんが今春、中学校でも不登校を継続すると表明しました。ネット上で賛否両論が出ており、著名人も持論を展開するなど話題が尽きません。

 不登校を続けるゆたぼんさんに対しては、以前から、「不登校の動機が不純」「勉強したくないだけ」など否定的な意見が多く寄せられていたほか、過激な言動で批判の的にされることも珍しくありません。彼が今後も注目され続けた場合、いじめなどの理由で、やむを得ず不登校を続ける子どもたちに影響はないのでしょうか。また、彼のように子どもが「学校に行きたくない」と言いだした場合、親はどのように子どもをサポートしたらよいのでしょうか。

 家族や教育、子どものインターネット問題に詳しい、ジャーナリストの石川結貴さんに聞きました。

不登校への偏見助長の恐れ

Q.ゆたぼんさんがネット上で注目されて以降、メディアやネット上では「不登校」の是非に関する議論が活発となっています。このことについて、どのように感じますか。

石川さん「『サボりたいから』『学校で勉強するのが面倒くさいから』という理由で学校を休む子どももいますが、いじめや病気が理由で、学校に行きたくても行けない子どもや、親の育児放棄によって学校に通えない子どもなど、不登校中の子どもたちにはさまざまな事情があります。

そうした子どもの事情を一切考えずに『サボりたくて学校を休んでいる子』『やむを得ない事情があって学校に行けない子』を『不登校』として、ひとくくりにして認識すること自体が間違っていると思いますし、『不登校はよいのか? 悪いのか?』という議論自体も意味がないと思います」

Q.「小学校の卒業証書を破る」などの過激な言動を繰り返すゆたぼんさんを、メディアや著名人が過剰に取り上げる状況が続いています。彼が今後も注目され続けた場合、不登校中の子どもたちにどのような影響を与えそうでしょうか。

石川さん「彼に対しては、ネット上で『学校行かないやつはダメだ』『ちゃんと学校で勉強しないと将来詰む』『学校にも行かずに勉強もしない。こいつの5年後が楽しみだ』などのコメントが寄せられていますが、こうしたコメントは『学校に通わない子どもは人間失格』『不登校ダメ人間を生産する』とも読み取れます。

つまり、彼が今後もネット上で注目され続けた場合、いじめや病気など、やむを得ない理由で不登校を続ける子どもたちまで、『人間失格』『ダメ人間』などと偏見の目で見られる可能性があります。また、不登校中の子どもたちが彼に対する批判的なコメントを読んだ場合、自分が責められているように感じて傷ついたり、不登校であることに不安を感じたりする可能性もあり、懸念しています。

メディアはそろそろ、彼と距離を置いた方がよいのではないでしょうか。また、メディアが不登校に関する情報を取り上げるときは、不登校中の子どもたちの印象が悪くならないよう配慮してほしいですし、大人に対しても、不登校中の子どもたちにはさまざまな事情があることを認識し、『不登校のやつはダメだ』などと偏見の目で見ないでほしいと言いたいです」

Q.ネット上で注目され続けることの、ゆたぼんさん本人への影響は。

石川さん「不登校の話からはそれますが、彼のこれまでの活動について気になることがあります。YouTubeの利用規約では、13歳未満の子どもが親の許可なく、YouTubeのアカウントを開設したり、動画を投稿したりすることを禁じています。彼の父親の関わり方がいまひとつ判然としないのですが、仮に、彼が親の許可を得ずにYouTubeで動画を配信しているのであれば、YouTubeの利用規約に違反する形となり、運営元のグーグルの管理責任が問われます。

一方で、親が許可をした上で動画を配信しているのであれば、結果的に、判断力や社会経験が未熟な子どもを親がネット上にさらし、過激な発言をさせてバッシングを浴びさせていることになるため、親の管理責任が問われます。また、動画や文書が存在し続けるのがネットの世界の特性です。彼が成長して社会人になったとき、過去の自分の動画や文書が何らかの影響を及ぼす可能性もあります。

例えば、彼が小学校の卒業証書を破り捨てる動画を公開した際、『自分がもらった物をどうしようと自分の勝手』といった言動がありました。彼にとってはただの形式的な紙かもしれませんが、義務教育は税金、つまり、社会の人々が働いてくれていることで成り立っています。卒業証書一枚にしても、その陰にはたくさんの人の協力や労力があるはずです。そういう社会性を無視したような動画が残ってしまうことは、将来へのリスクにつながるかもしれません」

「学校に行きたくない」と言ったら?

Q.彼のように、子どもが「学校に行きたくない」と言いだした場合、親はどのように対処したらよいのでしょうか。

石川さん「子どもが『学校に行きたくない』と言った時点で、友達関係のトラブルやいじめにより、心身共に疲れている場合があります。そこで、子どもが『学校に行きたくない』と言った場合、『行きたくないと正直に言ってくれてありがとう』と声を掛け、『しばらく、学校を休んでもいいよ』と伝えましょう。

私はこれまで、不登校の子どもたちを数多く取材してきましたが、親に自分の気持ちを受け入れてもらえる、つらさに共感してもらえることで回復していく子どもは多いです。『休み始めてから1週間は、食事のとき以外はずっと寝ることしかできなかった』というケースも珍しくないぐらい疲れているので、まずは休ませることに専念し、睡眠や食事をしっかり取らせてください。

もう一つ大切なのは、子どもが『学校に行きたくない』と言ったからといって、『うちの子どもが不登校になったらどうしよう』などとは考えないことです。例えば、インフルエンザにかかったら、最低でも1週間は学校を休み、症状が回復してから登校します。それと同じように、子どもが『学校に行きたくない』と言ったら、『心が一時的に風邪をひいた』と考えてください。

子どもの休養中は子どもの体調に支障がない範囲で、『なぜ、学校に行きたくないのか?』『どんな方法であれば、学校に行けるのか?』『学校に行かない場合、どのような方法で勉強するのか?』などを親子で話し合い、必要に応じて情報収集しましょう。こうすることで子どもの不安が軽減され、回復が早まります。

『休んだことで、授業についていけなくなったらどうしよう』と心配する親御さんもいますが、学校に頼めば、学習用の教材やプリントを自宅に届けてくれますし、先生によっては、Zoomズーム)などのオンライン会議システムを使った個別指導をしてくれる場合もあります。子どもの休養中も学校と小まめに連絡を取り合いましょう」

Q.「ネットの解説動画で勉強できるから、学校に行かなくてもいい」「学校の教育レベルが低い」などど、学校不要論を主張する大人もいます。この意見についてはどのように思いますか。

石川さん「学校に対する捉え方によって、変わってくるのではないでしょうか。学校を単に『教科書の問題を解いて解答を出す学習の場』と捉えているのであれば、『学校に行かなくてもいい』という考え方も一理あります。

しかし、私は、学校は『集団の中での自分の在り方や対人関係を学ぶ』『困難なことがあったときに、どう乗り越えるかという社会経験を積む』といった、さまざまなことが学べる『勉強の場』だと捉えています。日本の学校は、パソコンやタブレットといった電子機器を使ったICT教育が遅れているといわれますが、運動会や合唱コンクール修学旅行などの行事が充実し、みんなで力を合わせることや仲間と一致協力することの大切さを学べる機会が多くあります。

また、給食では『いただきます』のあいさつを欠かしません。調理してくれた人、生産者や食べ物への感謝といった『心』の教育を自然に身に付けられます。このほか、学校によっては『コミュニティースクール』の一環として、地域住民による出張授業やボランティア活動が行われており、リアルな人生経験を得る上で貴重な場だといえるでしょう。

『家でも勉強できるから学校へ行かなくていい』、あるいは『学校の教育レベルが低い』といったことばかり主張して、『学校はいらない』と結論付ける学校不要論は乱暴だと私は思います」

オトナンサー編集部

不登校の理由はそれぞれ違う